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人を殺してゴールド稼ぎ  作者: 東 矢印
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正義のヒーロー


 妹の理沙が枕元に包丁をぶっ刺してきた。


 「あっぶねーなあ!!」


 俺は反射的にベッドから起き上がり、額から冷や汗を滝のごとく流した。

 いきなり包丁を枕元に刺す妹とか、どんなヒステッリクシスターだよ!

 

 「なんだ、起きてたのかお兄ちゃん」


 理沙は特に自分がやったことに悪いと感じていないらしく、いつもどおりの表情をしている。

 危うく兄を殺すところだったのにもかかわらずなんて妹だ…………。

 これはお仕置きが必要だろう。

 そう思った俺は、慣れた手つきで理沙の胸を揉んだ。

 

 「ぎゃぁぁああああ!!!!」


 理沙は絶叫した。

 それはもう、目を覚ましたら目の前にゾンビの軍団がいたみたく。

 朝からなかなかいい声をしているではないか。

 兄ながら感心だ。


 「何触ってるのよ!!」


 理沙は本気で怒っているらしく、顔を真っ赤にしている。

 まあ、兄に胸を触られたら怒るのが当たり前だろう。

 逆に喜んだりしていたら、さすがに引いてしまう。

 しかし、俺が胸を揉んだのは、お仕置きのためであって、決して俺が個人的に妹の胸を揉みたかったからじゃない。

 妹の胸なんて俺からしたら、一円の価値もないし、むしろ触りたくないくらいだ。

 それでも、妹の教育のためを思って揉んだのだ。

 我ながらなんて、いい兄だ。

 俺はそんなことを頭の中で考え、そして、妹の胸をもう一揉み。


 「ぎゃぁぁああああ!!!!」


 顔面に鉄拳を食らった。

 まあ、当たり前の反応ではあるのだけれど、理沙の腕力は常人の域をとっくに脱走しているため、一発のパンチだけで、俺の体は後ろに吹っ飛んだ。

 それはもう、バットで殴られたボールの様に。

 自分はボールだと錯覚してしまうくらいに。

 なんてパワーだ…………。

 こんなびっくり人間が俺の妹なのかよ…………。

 信じたくねえ。

 俺が信じなくても、俺の妹だということには変わりはないのだけれど。

 もっと清楚でおしとやかな、ブラコン妹が欲しかった…………。

 俺が胸を揉んだら、「やあ、もう、お兄ちゃんのエッチぃー」みたいな反応をしてくれる妹が欲しかった。

 所詮妹なんて、この程度のものか。

 男が妄想している妹キャラなんて現実にいるわけがないよな。

 理想は現実と最も離れているというくらいだし。

 それにしても、


 「まだまだ成長途中だな、お前の胸」


 「妹の胸の感想を言うなああ!!」

 

 もう一発鉄拳を食らった。

 ありがとうございます。

 まあ、俺は決してそんなドM男ではないのだけれど。

 一応礼は言った方がいいと思って。

 

 「よし、これからお前の胸のことは、発展途上国と呼ぼう」


 「勝手に変な名前をつけるなあ!」


 なんだ、せっかくいい名前だと思ったのに。

 予想外の不評だ。


 「しかし妹よ、しっかり名前をつけなくては、誰かに盗まれる恐れがあるぞ」


 「ねえよ! あえて言うなら、すでにお兄ちゃんにファーストタッチを盗まれたよ!」


 「俺は怪盗お兄ちゃんだからな」


 「そんな変態な怪盗いるか!」


 俺っていつの間に怪盗になったのだろうか?

 まあ、怪盗はなろうと思ってなるものじゃなく、なった後に自分が怪盗だと気づくものなのだろう。

 知らねえけど。

 

 それにしても俺の妹、汽水理沙は見た目だけはいい。

 ショートカットの髪型は、人類史上最も似合っているし。

 パッチリとした目は、数秒間見つめているだけで吸い込まれてしまいそうになる。

 色白な肌は、清潔感を漂わせている。

 身長は中学二年生にしては大きい方だろう、前に、理沙が同級生たちと並んで歩いているところを見たが、他の人よりも頭ひとつ飛び出ていた。

 まあ、他の人たちが小さいだけかもしれないけれど。

 胸は、大きいのだろうか?

 中学二年生にしてはなかなかいい胸の様な気がするが…………。

 残念なことに、俺は妹の胸しか揉んだことがないからよく分からない。

 早く妹以外の胸を揉めるように努力しなくては。


 「まったく、正義のヒーローの私の兄がこんな変態だなんて、考えただけでもため息が出るよ」


 正義のヒーロー。

 そう、何をかくそう俺の妹は自称正義のヒーローなのだ。

 理沙は見た目はいいのだけれど、決してモテることはない。

 その理由は見ての通り、自分のことを正義のヒーローと呼称することだ。

 要するに俺の妹は頭が痛いのだ。 

 頭痛なんてレベルの痛みじゃない、全身の骨を10本くらい一気に折られたくらいの痛さだ。

 正直言って、変態の兄を持つより、頭のおかしい妹を持つ方がため息が出る。

 そもそも、俺は変態なのではないけれど。


 「正義のヒーローの兄としての自覚を持ってほしいよ」


 理沙は大きなため息を吐きながら言った。

 ため息が出るのは俺の方だ。

 少しは女の子の自覚を持ってほしいよ。

 

 理沙は自分のことを正義のヒーローと自称するだけあって、いろいろな珍事を行う。

 例えば、町内をパトロールしたり。

 例えば、コンビニたむろしているヤンキーをボコボコにしたり。

 例えば、連続殺人犯を逮捕したり。

 なんと輝かしい実績だろう。

 本当に輝かしすぎる実績だ。

 おかげで、俺の住んでる街で汽水理沙を知らない人間はいない。

 その兄ということで、俺も自動的に有名人になってしまった。

 迷惑だ。

 迷惑すぎる。

 学校では妹のことでからかわれるし、友達もいなくなるし。

 まあ、友達は元からいないのだけれど。


 「よし、お前が本当に正義のヒーローにふさわしいのか、俺がテストしてやろう」


 俺はなんとなくそんなことを思いつき、なんとなく言ってみた。


 「いいだろう、望むところだよお兄ちゃん」


 理沙はやる気満々だ。

 なんて扱いやすい人間だろう。


 「それじゃあ、問題だ」


 特に何も考えていなかったため、寝起きの頭をフル回転させる。


 「もし一人を殺すことで五人を助けることができるとしたらどうする?」


 「自分を犠牲にする」


 即答。

 かっこよすぎるほどに即答だ。

 危うく惚れちゃうところだったぜ。


 「何かの目標を達成するには自己犠牲が絶対に必要なんだよ」


 理沙は自信満々の顔で言った。

 なんて妹だ…………。

 中学二年生の女子だとは思えない。

 自己啓発本でも出したらどうだろうか?

 印税は俺が貰うが。


 しかし待てよ、この問題は、六人のうちに自分は入っていないんじゃないか?

 だから自分を犠牲にして助けることはできない。

 無駄死にだ。

 そのことを理沙に言うと、


 「なるほど、それは難しい問題だ」


 さっきは即答だった理沙が険しい表情で悩んでいる。

 まあ、この問題に簡単に答えられる人間はいないだろう。

 特に正義のヒーローならなおさら。

 

 「うーん、分からない! どうしたらいいんだお兄ちゃん?」


 「俺にも分からない」


 「なんだ、分からないのかよ。死ねばいいのに」


 「今なんて言ったあ!?」


 俺の聞き間違いだろうか?

 正義のヒーローから、死ねばいいのにって言葉が聞こえた気がしたのだけれど。

 ていうかそもそも、兄を起こすのに、枕元に包丁を刺すやつなんて正義のヒーローとは呼べないだろう。

 ただの悪魔だ。

 

 「よし、第二問だ」


 「かかってこい!」


 理沙はファイティングポーズをとった。

 いや、戦わないよ。

 戦っても俺がボコボコにされるだけだし。

 妹にボコボコにされる兄もどうかと思うが、まあ、妹が理沙みたいな超人なら仕方がないことだろう。


 「もし、お前が人を殺してしまったらどうする?」


 「勇気ある撤退だ!」


 「勇気ある撤退!?」

 

 いやいやいや、ダメだろそれ!

 全然正義のヒーローじゃねーよ!

 ただの殺人犯だよ!

 自首するどころか、逃走するのかよ。

 まあ、理沙らしいといえば理沙らしいのだけれど。

 これでは正義のヒーローは引退しなくてはならないだろう。

 引退するも何も、ただの自称なのだけれど。


 「もうお前に正義のヒーローの資格がないことはわかったよ」


 俺は呆れながら言った。


 「なんだと! このやろう!」


 理沙は枕元に刺さっていた包丁を抜き、俺に向かって突き刺してきた。


 「危ねえな! 死ぬだろうが!」

 

 なんとか包丁の軌道を読み、すれすれで矛先をかわした。

 行き場をなくした包丁はそのまま壁にぶっ刺さった。

 もう俺の部屋、穴だらけだよ。

 これじゃあ、友達が呼べない。

 まあ、呼ぶ友達なんて俺にはいないのだけれど。


 「どうやら、お前は本当に俺を殺そうとしているみたいだな」


 「もちろんさ、隙があったらいつでも命を取りに行くから注意しな」


 本当に正義のヒーローとは程遠い存在だ。

 正義のヒーローが聞いてあきれるぜ。


 「お兄ちゃんは、正義の敵だからね。この世から消さなくちゃいけないんだよ」


 「ほう、俺が正義の敵だって? 理由を聞こうじゃないか」


 俺ほどこの世に優しい人間なんてそうそういないぜ?

 学校に行く以外では、いつも部屋に引きこもり、人に迷惑をかけることなく生活している。

 なんて無害な人間だろう。

 人が俺を飲み込んでも、体に異常をきたさないくらい無害だよ。


 「妹の胸を平気で揉むやつなんて、正義の敵に決まってるだろ!」


 「うっ…………」


 これには反論できない。

 確かに妹の胸を揉むやつなんて正義の敵だろう…………しかし。

 

 「俺はお前のためを思って、仕方なく揉んだんだぞ? 本当は嫌なんだよ?」


 「そうなのか!?」


 どうやら納得してくれたみたいだ。

 本当に脳味噌が空らしい。

 兄として心配だ。

 飴をあげたらどこまでもついてきそうなやつだよ。


 「これで分かっただろう? 俺がどんだけいいやつか」


 「確かに、お兄ちゃんは世界一いいやつだ!」


 妹から世界一いいやつ認定をもらいました。

 さっきまでこの世から消えた方がいいと言われていたのに。

 なんて単純なやつだ。


 「よし、目も覚めたことだし、起きるとするか」


 こんだけいろんなことが起きれば、冬眠した熊だって目が覚めるさ。

 今日は日曜日で学校が休みだから、そんなに早く起きる必要はないのだけれど。

 本屋にでも行って時間をつぶすか。


 俺は今日の予定を決めてベッドから立ち上がった。

 

 

 

 

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