7.初陣
俺は氷月と共に、家から10分くらいの位置にあるセブンマートに向かっていた。
あの衝撃の事を聞いてから結構な会話劇があった。そもそも一緒にいたって何の能力を持たない俺を旅に連れて行ったところで、役に立たないのは目に見えている。
まず謎の質問についての追及。このなんの能力も持たない無能な俺を連れていく理由…。
はっ!もしかすると俺の能力は無能という能力かもしれないのか。そう考えると、なんか特別な能力をもっているみたいで、俺かっけぇ。と、自分を持ち上げポジティブに考える。
まあ、そんなことを考えていても仕方がないので、氷月に思い切って聞いてみることにした。
「なんでこんな何かの役に立つとは思えない無能を旅に連れていくんすか?」
そんな自分に対しての皮肉というか、半自虐的なことを聞くと、
「何の能力も持たないあなただからこそ見えて来るものがあると思ったの」
なるほど。
そこまで納得できるような言葉でもないし、あまり役に立てる気もしないが、世話になった恩もある。妹を探す手掛かりになるかもしれないし俺にとって悪くないことのはずだ。最強の護衛もいる。
「そうか。そういうことなら力及ばずとも旅に同伴する」
氷月は少しだけうれしそうな顔をして頷いた。なんだかそれが恥ずかしくて、妙に照れ臭かった。
と、そんな感じで俺は旅に同行することにしたわけだ。そしてそんなことを思い出していたら、目的のセブンマートが見えてきた。
目的地まであと50mくらいだろうか。そんなとこまできたら、なんか電柱の陰に変な人が立っていた。鏡じゃないよ、ほんとだよ。
もうそこそこ暖かい季節だというのに、マフラーなんかと暑そうな真っ黒のコートを着ている男。なんかこいつどこかで見たことあるんだよなー。とそう思いつつ氷月に目をやった。
すると俺と同じことを思ったのか、彼女はこめかみに手を当て考える。
「そうだわ。あの人隣のクラスの、か…か…。隣のクラスの人ね」
おいおい、名前覚えてないのかよ。てかいたなー、うちの学校にあんなのが。名前なんつったっけ。か…。ほんとだ、全く思い出せねぇ。ごめんな川越君(仮)。
「おい、川越君?なんか俺たちに用が?」
「ふっ、流石に気づくか。って、川越って誰だよ!僕の名前は速水修だ」
「あー、速水君。で俺たちになんか用?」
「くっ…。まあいい。ところで君はなんでひ、氷月さんと歩いているのだ?」
ずいぶんときょどった感じだ。もしや?と思い鎌をかけてみることにした。ライバルは滅す。
「なんだお前。目なんかきょどらせて。もしかして氷月のことが好きなのか?」
「ひょ、ひょんなことないわ!ただそのあまり見ない組み合わせだなと思っただけだ」
図星か。分かるんだよな、同志の気持ち。なんか見る目が違う。雄の眼というか、盗賊が盗れそうな宝をチラチラ見る目をしている。
だがもちろんそんなことはさせない。害虫は迅速に消し去る。
「まあ、用がないんなら俺たちは行くよ。またな」
氷月は小さな声でさようならと告げ、そのまま俺についてくる。
がその時、害虫が止めに来た。
「そ、外は危険だぞ。危ないから僕が同行する。そんな人といるより安全だ」
くっ…。確かに俺はなんの能力持っていないが、こいつにどうこう言われる筋合いはない。
「なんなんだよさっきから。じゃあ、お前はなん…」
「まって」
俺が速水に言い返そうとすると、氷月が片手をそっと突き出しながら制止してきた。
「日向君はそんな使えない人じゃない。あなたこそ弱いのではなくて?」
「ほうほう、聞き捨てならないな。僕はこの世で最強と言っていいほどの能力を身に付けた」
なんだと。聞き捨てならないのはこっちだ。能力を持っているだと?いや普通は持っているのか。能力を持っていない俺は、この世界ではイレギュラーな存在。きっと速水も俺が能力を持っていると勘違いしているのだろう。
「どうした日向とやら。まさか君の能力は弱いのかい?」
俺が少し悔しそうな顔をすると、速水はニヤッとして追い打ちをかけてきた。
「どうやら図星のようだね。ではひとつ勝負をしよう。君が勝ったらそのまま氷月さんには君が同行する。僕が勝ったら僕が同行する。それでどうだい?」
ふん。能力を持たない俺が勝てるわけないだろ。俺は言ってやったよ。
「いいだろう。条件を飲もう」