ショボい力の可能性
修論って大変ですが、お話を書くのはもっと大変。
作家さんってすごいんですね。
おい俺の能力。
流石に、「物の長さや重さのちょうど半分がわかる」っていうだけじゃあショボすぎやしないか?
それは本当に能力なのか?一般人の特技だったりしないか?
果たして第二の人生を過ごすために役立つものなのか?
死の淵から生還する価値があったのか?
そして何より・・・・こんな能力では、一俺やイツキさんをパックリ半分にした
"白いクソ野郎"を突き止めることも、仕返しをブチかましてやることもできないんじゃないか?
そう、能力を手にした(そしてそれがショボすぎた)という事実を受け止めるのに時間がかかって忘れかけていたが、
そもそも一度死ぬハメになったのも、得体のしれない緑髪の使者の提案を受けねばならなかったのも、
元はと言えば白い野郎の通り魔的アクティビティに巻き込まれたからであった。
確か奴は"力"を手に入れた・・・と言っていたがどういうことなんだ?
二つに分けられてしまった時の記憶を手繰り寄せる。
確か・・・イツキさんが真っ二つにされて、そのあと俺が吐きまくって・・・・
奴は俺の腰に手を当てて・・・・そして「手が青く光った」後に真っ二つ。
場面の巻き戻しを途中で止め、俺は絶句した。そう、俺があのショボい「力」を行使した時と一致する。
殺された事実を順番に辿って思い出して見れば、その力の出自は全く俺と同じなのではないだろうか?
つまるところ、あの"白いクソ野郎"も一度死んだのではないか?
そしてあの緑髪の使者による"女神の福音"とやらと一緒に蘇り、力を乱用し始めたのではないだろうか?
それを知っていて、その上で素知らぬ振りをして俺を観察対象に選んだ、奴(ミサ)は。
とんだマッチポンプに踊らされていたというわけか。
沸々と怒りが沸いてくる。手の平の上で殺して踊らせて知らん顔するなんて人間のすることなのか!?(あいつはもともと人間でもなさそうだが)。
俺は次に会った時は何とかしてブチ殺してやろうと心に決めたが、
そもそもあの白い空間の中で目の前で消えていってしまって二度と会えるかが分からない。
「魂魄体」とか言ってたしな。
そして俺の身体を補修しているのがアイツの体と言うこともあり、
あいつブチ殺すことで俺も再び死んでしまうのではないかという恐れもある。
つまり・・・現時点では復讐への手立てが全く見えない。
こういう時はシンプルに悪態をつこう。ちくしょうめ。
深呼吸して落ち着こう。
とりあえず現状を受け止めなければいけない。
まだ"白いクソ野郎"の方は生きてるわけだから、現実世界にいるはずで、何とか探し出せるかもしれないな。
アイツをどうにかこうにかブチのめして、洗いざらい聞き出すことにするのが一番早いのではなかろうか。
例え他に"女神の福音"を貰ったやつがいたとしても、今のところそいつを探し出す方法がないのだから、
敵性存在だとしてもコンタクトを取らなければいけない。
しかし、一度確認したように俺の能力は今のところ「物の半分がわかる」しかない。
このままでは絶対に勝てない。
もっと能力の使える幅がないか、試してみるしかないのだろう。
しかしなぁ・・・使い道が全くもってピンともこないのには困った。
例えばだ、これが扱える範囲が分かってる能力なら山ほど思いつきそうなんだ。
「温度を操る」だったら、発火点まで物の温度を上げることで自然発火を起こしたり水分を凍らせることで雹なんかも作れるだろう。
自然を操るってのがカッコいいな。
「水分を操る」でも空気中の水分を集めて水魔法みたいに水球を作ったり、コンパクトな水球を作って溺れさせたりなんかもさせられる。
触った相手をカラカラにしたり、応用範囲が広そうだ。これもいい。
でも、俺の場合イメージがわかない。そう、問題は、現時点で俺の能力範囲が全く分かっていない事なのだ。
力の及ぶ範囲が分からないと何が出来るかもわからない。
俺は今一度自らの可能性を探るため、ミサの『中間を司る能力』というワードを反芻する。
唯一のヒントは今のところそこにしかない。
待てよ・・・・「中間」という言葉は色んな物に適用できそうだな。
物の性質を指し示すパラメータは「重さ」や「長さ」だけじゃない。
例えば「表面温度」「捕捉磁場」「抵抗率」「靭性」「弾性」「塑性」ってのも重要な要素だ。
それらについても中間の値を理解する事が出来たらどうだろうか?あくまで中間値ではあるが、
他の知識とかけ合わせればおおよその最大の値を類推することが出来るのではないか?
そして「中間」は「2つの物や点、値、現象の間にある物」を指すというイメージだが、それは形の有る物に限らないのではないか?
「司る」という言葉も気になる。ミサは「中間が分かるだけの能力」とは言っていないのだ。
アイツが適当な事を言っている可能性もあるが・・・。
「司る」とは、"支配する"事を指す。もしも"中間"を"支配する"という意味合いだとしたら色々なことが出来そうだが―
俺は思案する。
例えば、「二つの性質の中間値を持つ物」を作れたりはしないのだろうか。
急に自分の能力の範囲が大きく広がった気がしてきた。
この感覚は、あながち間違っていないかもしれないと自分に言い聞かせる。
物は試し、俺は最後のお願いとイツキさんに頼んで、麺を茹でてもらったものと生麺をそれぞれ丼に入れて出してもらう。
左手で生麺を、右手で冷ました茹で麺をつかみ、俺は"女神の福音"を行使するべく力を籠める。
「弾けて混ざれッ!」
どこかで聞いた事のある掛け声とともに両手を眼前で手中の麺ごと勢いよく合わせる。
生麺を分けた時とは比べものにならないくらいの青い光が生じ、俺は一瞬目を潰した。
「熱っ!!」
手の中に異常な熱を感じ、俺はつい組んだ手を離してしまう。
そのはずみで目の前のテーブルの上に麺を落としてしまった。
麺はひとまとまりになって卓上にだらしなく広がる。
この時点で、俺はある程度予想が当たっている事を確信した。あとは麺がどうなっているかだが・・・
俺は麺を一本つまみ、口へ運ぶ。
粉っぽい香りが口の中いっぱいに広がり、にちゃにちゃとした歯触りが口内の不快指数を上げていく。
「やっぱり、半生だ」
生の麺と茹でた麺の中間とは「半生の麺」であろう。
「異なる性質を持つ2つの麺」が、「その中間の性質を持つひとかたまりの麺」になったわけだ。
こうして俺の適当であてずっぽうだな仮説は一応の証明を得た形になる。
能力の新たな側面が発見され、俺はつい嬉しくなってしまう。
テーブルにぶちまけた麺の前でニヤニヤとした不気味な笑い顔を浮かべている光景は、
はたから見れば変質者の権化がそこにあるように錯覚してしまうだろう。
だが俺はそんなことを気にしないほど今後の能力の展望について楽しみになってしまっていた。
クソみたいな能力だと思ったら、急に色んな事が出来そうになってきたな。
だがまだこれだけでは応用するには制御するパラメータがわかりにくい。
どうやって実験しようか・・・・
と、其処に後ろから近づく影が一つ。
「何、やってんだ・・・?食べ物は粗末にするなって言ったよなァ・・・・?」
そう、店主イツキの怒りが有頂天だった。
俺はその後、食い物のありがたみを約2時間にわたり説教されるハメになり、
今後の実験は食べ物で行わない事を固く心に誓うのであった。
あ、実験に使った麺は勿論俺がおいしくいただかされました。
食べ物の恨みって怖いって言うしね。おかげで晩飯の要らない腹模様になってしまったが、自業自得ってやつだろう。
汁無し担々麺"龍の巣"のモデルは、
通っている大学の近くに実在しています。
かなり美味いです。