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ハルフウェイ・ストーリー  作者: 魑魅魍魎
2/4

プロローグ2 ―女神の福音―

文章を書くのはなんと難しいことか。

――――――――――――――――――――――――――――――


どうなってんだ、俺の体・・・?

痛い。痛い。臍の辺りが痛い。

下半身の感覚がない。

感覚が無いのも当たり前か。目の前に上半身と生き別れになっている無様な下半身が見える。

呑気なのか現実感がないのかそんな他人事のような感想が漏れる。


どうやら俺は自らの血の海にいるらしい。人肌程度のお湯に使っているようなものなのに、

寒くてしょうがない。

これが死ぬことなのか?どういうことなんだ? なんで俺がこんなところで死ななきゃいけない?

ああ、やべえ視界がぼんやりしてきたからかだんだん思考がグチャグチャになってきた。

まだやりたい事だってあるぞ、可愛い女の子と付き合いてぇし結婚してぇし

子供の顔だってまだ見てないぞ。アニメだって見てないのがたくさんあるんだ。

あと妹はあのままだとゲームやりすぎて餓死しちまいそうだからもう少し料理を教えないと――

ああこんなしょうもない事が最後の一言だなんて勘弁してくれ――


「まだ死にたくねぇ」


俺はその言葉を最後に絞り出し、

まるで無限に続く穴に放り込まれたような悪寒を携えたまま意識を手放した。


『そう?それが君の心からの願いなら…』


――――――――――――――――――――――――――――――



今日も今日とて昼飯は"龍の巣"にキマリ!

と意気揚々と足を"龍の巣"に運んだ俺は、店の軒先に掲げられた「臨時閉店」の文字に痛恨の右ストレートを食らう。


「なんてこった・・・今日は厄日かァ?あれを食わないともはや調子が出ねぇレベルだってのに」


落胆と共に足取り重く去ろうとしたとき、店内から大き目の物音が響いてきた。


「・・・?あれ、イツキさん中にいるんかな?ワンチャンスあるんじゃないかこれ?」


俺は閉店と銘打つ"龍の巣"のドアを開けて中に入ってみることにした。


「イツキさん!臨時閉店ってどういうことっすか!ここでの昼飯があるかないかでモチベが全然違『来るなッ!』

「へっ?」


店内に入った瞬間にイツキさんの怒声。

狭めの店内の中央にイツキさんはいた。その手前には白いフードの男・・・いや、昨日の夜に見た"白い物"だ!


どういうことだと問おうとした次の瞬間、イツキさんの体がグラリと揺れる。

いや、揺れたのでは無かった。ズレて(・・・)いた。

そして上半身だけがゆっくりと滑り落ち、店内の床に嫌な音を立てて激突した。


次いで下半身が地面に倒れ、遅れて吹き出した血液によって生臭い匂いが鼻腔を支配するまでさほど時間はかからなかった。

その光景を1から10まで見てしまった俺は、こみ上げる強烈な吐き気と困惑を抑えられず、その場に膝まづいて嘔吐する。


胃の内容物を一通り外界へと出してしまい、床にひれ伏し息を荒げる俺の頭上に、気が付くと青い光が降り注いでいた。

見上げると、青い光はいつの間にか近寄ってきた白いフードの男の両の(てのひら)から出ているようだ。


「お前・・・・なんでイツキさんをっ、どうしてっ」

『それをお前に言う必要があるのか?』


男はそう言うと、青く光る両手を四つん這いになっている俺の腰に当てる。

青い光は一層強くなり・・・


分割(デカップル)


という男の言葉と共に妙な感覚が体に走る。

それから程なくして俺の上半身が支えを失って地面に落下する。

ひゅぅ、と俺の口から意図せずして息が漏れ出る。


『"力"を手に入れたのはいいが、意外とつまらんもんだなァ』

と白いフードの男は独りごち、店のドアから出ていく。


くそっ、何もできずに死ぬのか。こんなところで。なんでだ。意味不明すぎる。

まだなんもしてねぇ。中途半端なまま終わるなんて嘘だろ。

まだ生きてぇ。



生への執着を最後に俺の意識は闇へと沈んでいった。


******************************************************************


あらあら、こんなところでバラバラ死体になっちゃうなんて物騒な人たちだねぇ。


役者は少ないほうがいいって上からは言われてるけど・・・まあ、いいか。


ハプニングはメインディッシュを引き立てるスパイスってね。


さて、"女神の福音"を与えようか。


******************************************************************



――――――――――――――――――――――――――――――


何故か今俺は、瞼の外側に光を感じている。

どうしてだろうか、寒気もいつの間にか消えていた。

下半身の感覚もある。

そして何より、この感覚は久々だ・・・・俺は素っ裸だった。

素っ裸で地面に横たわっていたのだった。

体を起こし、恐る恐る瞼を開けて、外界の様子を伺い見る。


真っ白な空間が無限の広がりを見せている。太陽みたいなものは見当たらないのに、明るいと感じるのはどういうことなのか。

そして目の前には、見覚えのある緑髪の少女が立っていた。


「・・・ファナ?」

『なんでか君にとってはそのキャラクターの姿で見えているんだろうけど、

 残念ながら私はファナじゃない。

 いわゆる使者(エミッサリー)ってやつさ。

 呼びにくいならミサとでも呼べばいい』

「・・・よくわからんが、ここはどこなんだ?俺は真っ二つにされた感覚があるんだが、

 俺はもう死んだのか?それとも生きているのか?何がどうなっている?なぁ?」


『フレンドリーに行こうとしたのに失敗か、こたえるなぁ。

 いいかいマコトくん。急いては事を仕損じる、知りたがりは往々にしてろくでもない末路を辿るだろう?

 詮索するのはやめときなさい。元々君に何が起きているかなんて教える義理はこっちにはないんだ。

 ・・・ま、巻き込まれたのはかわいそうだし特別に三つだけ質問に答えてあげてもいいけどね』


なんだよ、こういう時はなんでも答えてくれるのが「お約束(ごつごうしゅぎ)」だろうに・・・。

だが、こいつが3つしか教えてくれないというのなら、既に聞きたいことは決まっている。


「まず1つ目だが、俺は今どうなっている?死んだのか?生きているのか?教えてくれ」

『おっと、意外と飲み込みが早いね。そういう人の方がこっちも説明が楽だ。

 いいかい、結論から言うと君は一度真っ二つになって死んだんだ』


おおよそ記憶の通りの答えが返ってきたが、やはり死んだことを実感して身震いが走る。


「一度死んだっていうと、今の俺の状況からすると生き返ったのか」

『まぁ、正確に言えば"まだ奇跡的に生きながらえている"だけどね。

 キミの本当の体はあの"龍の巣”に置きっぱなしになっている状態さ。いわゆる虫の息。死と隣り合わせ』


どうやら今の俺はいわゆる魂や精神だけが抜け出ている状態のようだ。なるほど、素っ裸で五体満足なのも多少合点がいく。


「それなら、そのまま2つ目の質問に移らせてもらおう。

 なぜ俺はここにいる?何かの奇跡の実験台にでもなるのか俺は?」

『それについては教えられることとそうでないことがあってねぇ。ただ一つ言えるのは、

 キミにはチャンスが与えられてるってこと』

「チャンス?」

『そう、チャンス。今から君に私の体を食わせてあげよう。

 栄養満タン、真っ二つになった体も繋がり、失われた血液も全て補える生還用

 スペシャル食材だ』

「・・・・信用ならねぇ。俺には食人嗜好も無い」


チャンスと聞いて怪訝な顔をする俺に慌てた様子でミサは付け加える。


『まぁまぁ、もう少し聞いててよ。私の体は君の失われた体を補填してくれるけど、効果はそれだけにとどまらないんだ。

 その人の魂と同化して、魂を"起こしてあげる"のさ』

「起こす?」

『まぁ、早い話が、これまでの人生を通して深く刻まれた"魂の在り方"を反映した、魂の力を身につけさせるんだ』

「・・・まるでゲームみたいな展開だが、そんなことをして何のメリットがあるんだ?」

『うーん、簡単に言えば"興味"かな。死の淵から舞い戻った人が、あるいは何かしらの能力を身につけた人が、

 一体どんな気持ちでどのような人生を歩むのか見てみたいじゃないか』

「そんな好奇心だけで人を生き返らせるなんてあり得ないだろ!」


声を荒げる俺に対して、ミサは冷静な口調で返す。


『まぁ、それこそ"奇跡"のような話だから、そう思うのもうなずけるけどこれは現実さ。

 神様の気まぐれで、こんな"女神の福音(あたりくじ) "を引く人も、60億人の中に一人くらいはいるんじゃないかなァ』


そういうと、ミサはこれ以上の追求は受け付けませんよとばかりに、

ファナのキャラデザインに忠実な大きな口を真一文字に結んで黙ってしまった。

くそ、これ以上何か言っても話を逸らされそうだ・・・・仕方なくマコトは最後の質問に移る。


「これが最後の質問だ。イツキさんはどうなった?」

『そんなのが最後の質問でいいのかい?・・・まぁ、いいや。簡単なことだよ。

 キミだけ生き返っても目覚めが悪いだろう?だからついでに(・・・・)救ってあげたさ』


とりあえずイツキさんは無事なようだ。俺は安堵すると同時に、今の言葉の奇妙な点に気が付く。


キミだけ生き返っても(・・・・・・・・・)ってどういうことだ?俺がなぜさっきのチャンスとやらを受け入れるとわかっている?」

『キミは最後に生きたいと強く願った。キミの死に際の感情を眺めていたら、通り魔への憎しみや周囲への心配よりも、

 一番強かったのは突然死ぬ事の理不尽さに対する怒りと、未だ果たさぬ自分の将来の欲望だった。

 そんなに意地汚く生にしがみつこうとするやつに生き返らない選択肢なんて選べるのかい?』


そこまで見透かされていたのか。心の中で舌打ちをする。

「・・・まぁ、誰だって死にたくはないし、生きたいもんだ。

 それに、俺にはまだまだやりたい事もいっぱいあるしな。癪にはさわるが、その話、受けてやる」


『おや、やっぱり飲み込みが早いなぁ。嬉しくなっちゃうな。じゃあ、さっそく私を受け入れてもらおうか』


そういうと、ミサは素っ裸で座っている俺に近づき、頭を持ち上げて――キスをした。


「~~~~~~~~ッ」

『あれ、意外と初心なんだね。女性経験はあって損しないよ。

 色々慣れておいた方が後々対応が聞くってもんさ』


軽口を叩き、ニヤニヤするミサと、顔を赤くして口をごしごし擦っている俺。

いつもならこれはこれで好物のシチュエーションなんだが、得体の知れない使者とやらが相手では気味の悪さが勝ってしまう。


一生懸命擦っているうちに、ミサの体が光の粒子となってポロポロと崩れ出していた。

『同化が始まったようだね。魂魄体である私の体も崩れ始めてる。

まあ、多少の期間は違和感を感じるかもしれないけど、そのうち慣れるさ』

「お、おい待てよ、俺の能力って一体何が身につくんだ?空飛べたりすんのか?」

『うーん、どうだろうね。同化し始めて君の魂の在り方や人生が見えたけれど、そうだな、強いて言うなら…』

「へ?」


ミサの口から告げられた能力の中身を聞いて、俺は間抜けな声しか出なかった。

そして、ミサの体が完全に光の粒子に分解された次の瞬間、粒子が爆発的に広がる。

空間が光で埋め尽くされ、俺は思わず目を瞑った。




『しかし、あそこなまで凡庸な人生だとはね…精々花を添えてくれよ、「半端者ハーフウェイ」クン』


文章を書くのはなんと難しいことか。本当に実感しています。

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