休日♯3 狩られる身にもなってみろ
3話目……早くも息切れしてます……
「いやあ、ほんとに助かったぜ。なんとかパッチからは逃げられた」
「よかったじゃないか。掲示板でも大人気みたいだし」
「これもベリアルのおかげだありがとな、俺の腕もお礼がしたいってよ」
「や、やめたまえ。その腕で叩かれると私まで半裸になってしまうじゃないか」
「大丈夫これは違う腕だ。ところでアネゴのやつ遅いな、誰かなんか聞いてるか?」
「いや、とくには聞いてないな。アラクネ、君は?」
「キイテナイ」
「ふむ、まあそのうちやって来るでしょう。先に始めましょうか」
「そうだな。すみませーん、エール二つとブラッドオレンジ一つお願いします!」
「くうう、しみるぜ! このときが一番至福だこのやろう」
「私も同感だ。普段の鬱憤が晴れるような気持ちだ」
「へえ、ベリアルもそんなふうに思ったりするんだな、意外だぜ」
「おいおい、私だって君たちと同じで腹が立つことだってあるさ。今がまさにそうだしね」
「イッタイ、ナニガアッタ?」
「メガネ目当てで殺されまくっている」
「「メガネ?」」
「メガネっていうと今あんたが掛けているやつか?」
「そうだ、このメガネ目当てでプレイヤーに乱獲されまくっている」
「ああ、ドロップアイテムなのね、そのメガネ」
「これを掛けると魔法攻撃力があがるらしい、これを狙って一日に同じプレイヤーが何度も何度もやってくる。ほんとに腹立たしい」
「ふうん、ちょっと貸してみろよ」
「コ、コラ、やめないか」
「おお、なんか少し頭がよくなった気がするぜ」
「脳筋の君には無縁のアイテムだ。返しなさい」
「メガネナイベリアル、ナンカジミ」
「確かに、普通のイケメンお兄さんって感じだな。ああ、いわゆる本体はメガネってやつか」
「余計なお世話です。まったく……すいません、エールお願いします!」
「ヤケザケハヨクナイゾ」
「ふう、狩られるだけならまだしも、バザーで『ベリアルのメガネ』が十個まとめ売りされてるのは我慢なりません」
「はっはっは、合成用に買う奴がいるんだろうよ。いいじゃねえか、ベリアルブランドで有名になれるぜ」
「まったくもってうれしくありません」
「オレモヨクカラレルンダガ、ドウシテダロウ?」
「アラクネがか? お前のドロップアイテムはどんなものだよ」
「アシ」
「あし? おまえの? そんなもん欲しがる奴いんのか」
「正確には『アラクネの脚』だね、調合アイテムではあるようだけど……さほど需要があるとは思えないね」
「アト、ゼンゼンコウゲキシテコナイヤツモイル」
「はあ? わけが分からん、なにしにお前のとこに来てんだよそいつら」
「アラクネ、もしかして彼らは手に何か持っていたかい?」
「アア、ハコミタイナモノヲコッチニムケテイタ」
「なるほどね、だいたい分かったかもしれない」
「俺には全然分かんねえぞ。ん、どうしたベリアル? また例の薄い本なんか出したりして」
「私の推測が正しければ……ああ、やっぱり。これを見てごらん」
「どれどれ、『アラクネ様の写真をうpするスレ』『アラクネ教信者集まれ』、は?」
「おそらく攻撃しないプレイヤーはいろんなアングルからアラクネの写真を撮っていたんだと思うよ」
「オレノシャシンナンカホシイノカ?」
「アラクネは大人気みたいだね、特に男性に」
「確かに、上だけ見れば激エ……美人だしな」
「アシハナニニツカウンダ?」
「それは……そうだな、大切な宝物として保存されるんじゃないか?」
「アラクネ様の生脚ってか、そそられる奴の気が知れん」
「オレハオスダ。オスニ、キニイラレテモ、ウレシクナイ」
「まあまあ、人気があるのはいいことだよ。それにその中にも女性――メスがいるかもしれないしね」
「そうだぞ、嫌われると俺みたいにパッチが当てられそうになるかもしれんからな」
「ソウカ、ジャアガマンスル」
「おお、もうこんな時間だね。結局アネゴは来なかったね、どうしたんだろうか?」
「あらかた、プレイヤーに無双しすぎてパッチくらったとかそんなんじゃねえのか? がっはっは」
「そのとおりじゃボケェ!」
「ア、アネゴ。お、お帰りなさい……きょ、今日もお綺麗で」
「いま、お前うちのことバカにしとったやろ? そんなにうちがパッチ当てられたことうれしいか? あん? こないだまでひいひい言うとった奴が偉そうやないか」
「ち、違う、ほんの冗談のつもりで言っただけなんだ。まさかほんとにパッチが当てられてるとは」
「アネゴ落ち着いて、事の経緯を説明してくれないか?」
「分かった。でもとりあえず、エール! エールちょーだい! あ? もうすぐ休日が終わるから出せない? 何をぬかしとんじゃ! はよもってこい!」
「アネゴ、俺のやるから機嫌直してくれよ。ほとんど飲んでねえからさ」
「まったく……で、なんでうちがパッチ当てられたかやったな」
「そうだアネゴ、いったい何があったんだよ?」
「バランス調整やて、うちのところのダンジョン自体に問題があったみたいやわ。設定レベルが高すぎたそうや」
「つまり、ダンジョンの難易度を下げるのに従い、アネゴも弱体化させられた。こういうわけだね」
「そうや、うちは何も悪いことしてへんかったのに……運営のミスやろそんなもん」
「アネゴゲンキダシテ」
「ありがとうアラちゃん。おおきにな」
「どうりでなあ。こないだアネゴにぼこられたとき、強すぎんだろって思ってたんだよな。これでアネゴも丸くなったってわけか。あっはっは」
「あ? ちょっと弱くなったけど、まだまだうちは強いで。お前、自分が助かったからって調子のっとんちゃうぞ、シヴァン?」
「じょ、冗談だよ。お、おいアネゴどうしたんだよ毛なんか逆立てちゃって、ほら爪を収めろよ、な? あれ? ベリアルにアラクネ、なんで出ていくの? 時間? 俺も行くから! 待って、おいてかないで!」
「覚悟しろやゴラァ!!」
「ぎゃあああああああ」