表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

序幕

 俺の人生は全て否定でできている。

 どこへ行っても認められることは無い。

 俺が持っている最初の記憶、それは母親からの否定。

透馬(とうま)、あなた年長さんになったのに、まだ一人でお使いにもいけないの。なんでそんなに弱虫に育っちゃったのかしら」

 この記憶から、俺の否定の歩みが始まる。

 小学校に入って、俺は苛められた。クラスではいつも一番背が低く、「お前はいつになっても背が伸びないな、チビめ!」が挨拶のようなものだった。

「お前に触るとチビがうつる」

 そう言って、俺の周りの席のクラスメートは、俺のそばから席を離した。授業中はどこからかともなく、消しゴムを細かくちぎったものを投げつけられた。他のクラスの児童たちや、同じ委員会のメンバーたちも、いつも俺から離れた位置にいた。

「君が皆との間に心の壁を作っているから、仲良くなれないのよ」

 担任の教師からそんなことを言われたこともあった。

 小学六年生のとき、中学受験をした。友達が一人もいなかった俺は、これでもかというくらい、勉強をしていた。だから、通知表の結果は毎回、これ以上は上がりようがない成績だった。その成績を見て、両親は私立の進学中学校を俺に受験させた。

 落ちた。受験当日、俺は緊張のせいで、お腹を下してしまった。試験中も腹痛に悩まされ、ほとんど問題を解くことができなかった。気がつくと、試験時間が終わっていた。

「なんで本番になるとちゃんとできないのかしら」

「お前は本当に気が弱いな。男のくせに」

 両親から責められた。

 結局中学は公立校に行った。地元の中学は世界が狭かった。『いじめられっ子』のレッテルを貼られた俺は、中学でも周りから避けられた。

 高校はそれなりのレベルの公立校に行った。別に、県内でナンバーワンの偏差値の高校ではない。小学受験の失敗をトラウマにしている両親は、今度は『合格』を求め、俺が確実に入れる高校を受験するよう指示してきたからだ。

「君ならもっと高みを目指すと思っていたのに、残念だ」

 受験前に、クラスの担任教師との二者面談で、俺は担任から一方的な感想をぶつけられたのを覚えている。

 そう言えば、この頃だ。周りの景色が微動だにせず、ただ時間だけが過ぎていくように感じるようになったのは。

 そしていつの間にか、俺は大学四年になっていた。理系の研究室で選んだ卒論テーマを、教授が「つまらない」と一蹴した。

 俺は最低の成績で大学を卒業し、気づけばフリーターになっていた。

 そんな俺を両親は嘆いた。

「なぜ自分達の子どもが定職に就けなかったのか。まさか自分達の子どもが、フリーターになるなんて。期待を懸けただけ損だった」

 両親は、俺が実家に戻ることを拒絶した。俺は実家からできるだけ離れ、家賃が安い築四十年の二階建てアパートの一室で、密かに暮らすことにした。

 昼間はスーパーのバックヤードで魚をさばき、夜はコンビニでレジを打った。スーパーでは「下手くそな野郎だ」と上司から蔑まれ、コンビニでは「会計が遅い」と客に怒られた。

 それが毎日繰り返された。否定から生まれた、今の俺。時間が過ぎるのを、ただただ見送るだけの俺。

 そんな俺のたったひとつの楽しみ。毎週月曜日の午前二時から放送されるラジオ番組。パーソナリティーとリスナー達が、メールと電波を使って会話をする番組。この番組に俺が投稿したメールは、毎回必ずパーソナリティーが読んでくれる。そして俺に言葉を返してくれる。

 俺のメールを、このラジオ番組は拒否しない。そのことを知ったとき、久しぶりに嬉しさと楽しさが、俺の中で蘇った。俺はそれ以来、この番組のヘビーリスナーとなった。



 今日は日曜日。今日の仕事が終わってアパートへ戻ったら、すぐにラジオをつけよう。絶対に、聞き逃さないように。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ