天才は忘れた頃にやってくる
5.
「おはようございます。」
「おはよ。」
煙草をふかしている。
「科学者。学内は全面禁煙では?」
「こらっ。教授と呼べと何度言ったら解る。」
熱。
「果たして生徒の額に煙草の火を押し付けるような人外が教授だなんて呼ばれて良いものなのでしょうか?」
「職についていているから良いんだ。そろそろ、授業始めるぞ。席に着け。」
相変わらず横暴な人外だ。
まったく、優秀な科学者でなかったら絶対に関わり合わなかっただろうな。
「今日の授業は高分子化合物についてだ。モノマーがエチレンの場合、ポリマーはポリエチレンとなる。ポリという接頭語は複数という意味を――」
こんな初歩の初歩を聞いてあげるような寛容さなんて僕は欠片も持ち合わせていないので、2秒前に思いついた新年の抱負であるところの時間の有効利用の一環として考え事をすることにした。
あれ?思いついたの2秒前だっけ?
とりあえず、ボーッとする事とは違う。はずであると願う。
さて、ここからはこの僕の独壇場だ。
そういえば思い出したけれど、独壇場って実は独擅場っていう語の誤用なんだってね。
でも僕は独壇場で通すけど。
だって他人に独擅場だなんて言ったら「何それ?独壇場の間違いじゃね?」とか嘲笑われるのに決まっているもの。
しかも、活字だと画数多すぎて、パッと見たらどこが違うのか判らないでしょ。
編が違うのだよ、編が。
そんなどうでもいい事は全力で置いておいて。
先ずは少女のことを教授に相談すべきか否かだな。
教授のことだから恐らく、相談すればありとあらゆる人体実験を施されること間違いなしだな。
だが、その反面少女に関するなんらかの情報が得られるはずだ。
死なないにしても本人が嫌がるだろうからやめておくか。
要相談だな。
二つ目の用件は刺斬花の手入れだよな。
というと、授業後に研究室に行かなければいけないな。
後は情報の仕入れと、助手の子に会う。ぐらいか。
さて、必要にして重要な考え事は全て終わってしまったな。
蝦だ。
違う違う。
誰が動物界節足動物門甲殻亜門軟甲綱十脚目だよ。
暇だ。
こんなネタをどこかで見かけた気がする。
ま、いいけれど。どうでも。
倒置法。
当地方では統治の為に倒置法が流行っております。
なんちって。
というか、時間の無駄遣いも甚だしかった。
一日が48時間位あればいいのに。
しかし、授業はまだ終わりそうに無いので、思索の範囲をもっと深くまで押し進める事にしてみた。
少女。
今は僕の家に棲んで……何気に同棲中だ。驚いた。
成る程、人は自分自身の事は客観視出来ないとはこういう事か。
身に染みて理解した。
いつか僕も自分自身の事を客観視出来るような総理大臣になりたいな。
勿論嘘だが。
おっと、ずれている。修正しなきゃ。
目下、絶賛同棲中の少女だが一体いつまでこの状態が続くのだろうか?
彼女は僕に殺される為に僕の元にいると言った。
僕がファミレスで少女の不死性に驚かず、黒服を殺したその時に彼女はきっと『今度こそ殺してもらえる』と思ったのだろうな。
僕はいつか少女を殺さなければならないとすれば、その時に僕は果たして、決行することが出来るのだろうか?
……いや、彼女には欠陥があるのか?
僕の能力は別に殺す力だというわけではない。
気付いてしまえば致命的な傷になる、人間の欠陥を視る能力に過ぎない。
少女が不死身だという理由が、欠陥が無いという理由だったら?
その時僕はどうすればいいのだろうか?
わからない。
もし僕が殺せたとしても、殺すべきか否か。
わからない。
「――以上だ。次回の予習しとけ。」
どうやら、授業は終わったらしい。
時間は有効に活用できたが、不快感が残る。
体の奥からモヤモヤした何かがせりあがって来る感覚。
これは一体なんなのだろう?
悩んでも仕方が無いので、僕は科学者の研究室に向かうことにした。
今気付いたけど、この講義人気なんだな。
周囲に犇く喧騒が、他の講義よりも大きい気がする。
科学者本人に聞いてみるか。
というわけで、僕は只今、科学者の研究室の前に居る。
入ればいい。入ればいいのだが……
目の前に立ちふさがるのはヌリカベですら負けを認めずには居られなそうな重厚な壁。
まぁ、これは開けたのだが。
その奥に……
諜報員が主人公で、不可能を可能にするかような題の映画に出てきそうな程に張り巡らされたレーザー。
バチバチと威嚇するように過剰な電流を空気中に放電する柵。
なんのゲームの影響なのかは知らないが、毒々しい紫色に染まった水溜り。
その他、明らかに日本の法律で所持を許可されていない銃、剣、槍。
いやいや、何故ラスボスのダンジョン153階みたいな様相を呈しているんだ、この研究室。
研究どころか訪問が命懸けじゃないか。
「困ったなー」
とりあえず、片っ端から壊していくかな。
先ずレーザーの網を片付けないとな。
僕の眼は対象を生物に限らないので、こういう時に便利なんだよね。
発信源、発信源。
どーこだ。
……あったー。
シュパッ。
バーン。
破壊。
三行破壊クオリティ。
拍子抜けするほど楽勝だった。
一筋のレーザー光を鏡を使って屈折させていただけらしい。
これじゃあスパイ映画にはなれても、人体をゾンビ化する生物兵器を開発した会社の秘密地下研究所のセキリュティには採用されないな。
じゃあ次。
柵。
この柵も刺斬花で刺し貫いて、脆弱な構造を崩壊させれば良いだけなのだけれど、少し問題があるんだよな。
この刺斬花も、ただ細いだけで一応はワイヤーの仲間な訳で。
そうすると、素材は金属なのだよね。
電気が通って感電しては敵わないので、何か策を練らなければ。
やっぱり、メジャーなのはゴム手袋だよな。持ってないけど。
周りをグルッと見渡す。
何か無いかなー。
……あ。
壁に設置されていた変圧器を発見した。
変圧器か。
変圧器ね。
変圧器なら、いける。
レーザー網が機能していないこの状況ではそれの元に辿り着くのは容易だった。
どれくらいかというと、用意が無くても大丈夫な位だった。
どうでも良かった。
そんな事を考えつつメーターをグイッとMAX表示のところまで捻って、距離をとった。
さぁ、ワクワクドキドキ。どうなるかなぁー。
鉄柵が赤々と輝き始めた。
「まぶしーなー。」
弾ける電気の音も、雷のような轟音へとなっている。
そして柵はどこまでも赤くなっ……パシィッ!!
柵の両端が折れて、こちら側に倒れてきた。
電気抵抗で生じた熱によって焼き切れたのだ。
はい、柵突破ー。
次は、毒々しい沼……と言いたい所だが、どうしても規模が水溜りなんだよな。
走って飛び越えるには大きすぎるが。
科学者のことだし、このぬ……水溜り、なにが仕掛けられているのか判らないな。
アコニチンとかテトロドトキシンとか硫酸とか。
どうしようかなぁ。
この水溜りを渡れなかったら次は三途の川を渡るハメになるだろうから、熟考しないと。
またもや周囲を見回す僕。
無いなー。
うん。本当に無い雰囲気だ。
今回ばかりはどうすることも出来ないか。と思い、足元に目をやった途端。
閃いた。
この水溜りの中に平目が居た、という訳ではないという事は覚えていて欲しい。
灯台下暗し。とはこの事だ。
僕の足元には柵。
柵って、回転させると梯子に似ているよね。
という訳で。
「セーーットーーー。」
そうして僕は梯子(元柵)を架けて渡りましたとさ。
ビュンッ
耳元を何かが掠めていった。
左の壁に目をやると、そこには槍が突き刺さっていた。
どうやら、足元が重量センサーになっていて、右側の壁に空いた四つの穴から、武器が発射されるらしい。
相変わらず仕掛けが細かい奴だ。無駄に。
「おっと。」
高速で飛翔して来た弾丸を、壊す。
剣を避ける。
槍を掴んで射出装置に投げてみた。壊れた。
後、三つ。
弾丸を壊す。剣を壊す。槍を壊す。
刺斬花を振るう右手が痛くなってきた。
最近運動不足だからかなぁ。
飛来する武器の隙間を縫って、射出装置を壊していく。
――後、二つ。
足元に刺さった剣を抜いて、弾丸を跳ね返す。
うわぁ、手がものすごく痛い。骨折れたかも。
――後、一つ。
体力的に辛くなって来たな。
弾丸を貫き、破壊しつつ射出装置を崩壊させる。
――これで最後。
ああ、疲れた。
部屋の奥に進むと、清潔感溢れる接待用のソファがあったので体を休めることにした。
どうして、大学の研究室で命を懸ける仕掛けをクリアしなければいけなかったのだろう?
「この世はこんなにも不思議が、溢れている。。。」
僕は不思議と、死を予感しつつ深い眠りに落ちていった。
6.
気持ちの良いソファ。
あまりにも良すぎるその心地に、僕は目を覚ましてしまった。
「心地よさ」が即ち「居心地のよさ」に直結するとは限らない。
あまりにも自分が居て良い感覚がしない。
馴染めない。
排斥される感覚。
人はこれを「罪悪感」と呼ぶのだろうか?
僕には関係の無い話かもしれないが……
僕がそんな下らない事を考えているとパタパタと足音が聞こえてきた。
「あーーー!!」
そして、叫び。
パタタタタタ。
あれ?足音が遠のいていったぞ?
ズダダダダダダダ。
また近づく足音、しかし今度は僕の右側から聞こえ……
「こらぁ!手前、人の最高傑作をバラッバラにしやがって。ぶっ殺すぞ!」
足音は”壁の中から”現れた科学者だった。
「なに悠長にソファで寝てんだよ、お前。立て、跪け、土下座しろ、死ね。」
「どうしました?一つ目と二つ目、三つ目は矛盾してますし、四つ目は気が早いです。」
なにかに怒っていらっしゃるようだが?
「”どうしました?”はっ。手前が”壊した”最高傑作、『死重奏』のことだよ!」
「まだ治ってないんですか、厨二病。そんな痛い名前なんか付けて。」
どうやら入り口に張ってあった防御を、完膚なきまでに壊し尽くしたのがいけなかったらしい。
「痛い言うな!格好良いだろう『死重奏』。というか、お前は何故あれを突破しようと思ったんだ?」
痛々しさに気付いていない残念な、でも確かに天才なこの科学者こそが『人類の集合的無意識』という理論の産みの親である。
刺斬花の作成者でもある。
因みに、僕の『徒言騙りの欠陥屋』もコイツ発信だった。
実にいらない。『私刑執行人』で十分だったのに。いや、それも要らないけど。
閑話休題。
「入りたかったからですけど?」
やはり僕には罪悪感など微塵も無かった。
「馬鹿が!あれ作るのにどれだけ時間が懸かったと思っているんだ!二ヶ月だぞ、二ヶ月!研究一つ終わらせられるわ!」
二ヶ月で研究が終わる。か。
凡人は一生を一つの研究に費やすというのに。
既に天才の域を超えて天災に近い。
科学者の脳味噌がスーパーコンピューターだとしたら、僕らはENIACと言った所か。
「じゃあ、どうやって入れば良かったんですか?」
「隣に隠し扉があったろう。そこが、この壁についた回転扉に繋がっているんだ。」
忍者屋敷か、ここは。
なんというか、いつになれば厨二病から脱出できるんだ。この人は?
「普通気付きませんから、隠し扉。というか、気付かれた時点で”隠し扉”ではありませんし。」
「はぁ?お前、此処に来るのは初めてじゃないだろう?壁の違和感位は気付け!」
「僕にそれを求めるだなんて耄碌でもしましたか?」
「ああ、そうだな。忘れていた。」
「”忘れていた”?冗談キツイですよ、科学者。」
「ふっ、その通りだ。で、用は何だ?」
「刺斬花の手入れ、助手に挨拶、情報の入手かな。」
「手入れ、か、お前はこの前、一仕事終わらせたばかりじゃなかったか?」
「そうなのですが、通帳を食洗機で洗ってしまいまして。」
恥ずかしい事実。
何故そこにあったのかは未だに不明。
「……お前らしい残念さだな。とりあえず刺斬花、寄越せ。」
僕は素直に腰に巻きつけてあった刺斬花を渡す、と科学者はそれを受け取りながら、呼んだ。
「おい、忍!来てくれ。」
しのぶ?
誰だそれ?
「新しい助手だ。」
「例の如く、能力名ですか?」
この科学者、人を能力名・二つ名で呼びやがるのだ。
というか、勝手に創るというのが正しいか……
僕は……
「そーいや、今日は『お前』とばかり呼んでいた。済まなかったな『欠陥屋』。」
本気で黙れ。
「で、『忍』とはどういう能力なのですか?」
「まぁ、もうすぐ判るさ。」
ガチャリ。
回転扉ではない方の扉が開いて、出てきたその人物こそが。
忍。
「え?」
なんの変哲も無い男が、そこにはいた。
黒いスーツ。
背格好は……そこそこ。
黒い髪、長さは……そこそこ。
顔は……そこそこ。
年は僕より上か。
普通だ。
途轍もなく普通で。
途方もなく普通で。
まるで”普通の人みたい”だった。
「彼が、助手?」
僕は科学者に尋ねた。
すると彼は微笑んで、何事かを呟いた。
「ああ。やっぱり、覚えてないか。」
聞き取れなかったので、尋ねる。
「何か?」
「いや、なにも無いさ。しかし、君の能力は、実に強力だね。」
男――忍――は答える。
「あなたには、微塵も効きませんけどね。」
忍。この男の『名』では無いので、呼んでもよしとするか。
「忍。して、あなたの能力は?」
「それは……科学者の方から説明してもらった方がいいかな。」
「そうだな――
――コイツの二つ名は『没する暗躍者』だ。
――『暗躍者』って呼ぶのも格好良くてこれはこれでありか。
――とも思ったのだが、
――コイツが赦してくれなかったからね。
――仕方なく、能力名の『忍』にしたんだ。
――ああ。解った、本題に入る。
――コイツの能力はー、あ。説明難しいわ。
――まぁまぁ怒るな、欠陥屋。
――そうだな、とりあえず。忍の印象を語ってみ?
――そう、印象。
――”普通”。ああ、合ってる。
――薄いだろ?希薄っていうか、儚いっていうか。
――印象に残らないんだ。
――そして、記憶に定着しない。
――欠陥屋。実は忍と”会った事がある”って言ったら驚くか?
――……反応薄いな。
――まぁ良い。これが正体だ。
――隣にいるのに感付かない。
――見えているのに、視ていない。
――視野には入るが視界には入らない。
――見える分、透明人間より性質が悪く。
――感知されるだけ、ステルスより強力。
――極端な話、忍と目が合って、挨拶して、二秒後には疑問符の入る余地さえなく脳内から消去されている。
――解ったか?」
成る程。僕は、『忍』について大体のところを理解した。
見えていても、見えていない。
知っていても、知らない。
思い出せないのではない、完全な忘却。
が……
「科学者。没する暗躍者『忍』とは誰のことだ?」
「僕のことだよ。欠陥屋君。」
いつの間にか、僕の後ろには長身痩躯の男が立ってい……
……
……
……理解した。
これは恐怖だ。
完全に忘れていた。
「初めましてと言いたい所だが、もう何度か会っているのだろう。科学者の話から察するに、先程も会ったようだ。」
身に沁みて理解したこの遣り取りすらも、忘却の対象か。
「僕は欠陥屋。失礼なようだが、他人の世界に入り込みたくないし、僕の世界には入って欲しくないので、名前で呼んで欲しくない。他人からは『欠陥屋』『徒言騙り』『少年』等と呼ばれるが、どれが良い?」
これは、僕の変わらぬ理念。
名を付けることは、存在を定義することと同義だ。
例えば、宇宙は『無』から始まった。という説。
無?
無。つまり何も無い。
そこには空間も、時間も無い。
入れ物が無いのだから当然、中身であるところの物質も無い。
入れ物も無く、中身が無い完全な『無』が真空などと云う物では無いのは明らかだ。
そんな無をあたかも”有る”かのように語る我々はどうかしているのか?
これが、名の魔力。
『無』を『有』へと転変させる。
また名は即ち、存在の本質だ。
名を教えることは、他人の世界の住人になることだ。
名を教えられることは、僕の世界を徘徊しだすということだ。
逆もまた然り。
名が無ければ。
相手にとって、本質がわからぬ自分。
自分にとって、存在の基盤がわからぬ相手。
人間は本質がわからぬ物には、無条件で恐怖する。
空を時に点滅し、時に消失し、縦横無尽に飛び回るという、未確認飛行物体。
疑心暗鬼を生ず。
幽霊の、正体見たり、枯れ尾花。
威嚇し、萎縮し、不気味さに怯え、焦り、怖がり、虚勢を張り、怯み、疑い、病み、死ぬ。
ソウイウ 人ニ ワタシハ ナリタイ。
「それは、奇遇ですね。僕も能力上、名前の公開は駄目なんですよー。」
そうか、少しでも意味が残ってしまわないように。か。
それに、能力に名を付けることで、存在をより強固にしたって訳か。
流石は、科学者。
「ですから、僕のことは忍。と呼んでください。あなたのことは、少年と呼ばせて頂きます。」
そうか。
まぁ、妥当だな。
「宜しくお願いします。」
「こちらこそ。」
特徴のない顔と仮初の握手。
永久の初対面と瞬間の邂逅。
そして僕は本題を切り出す。
「科学者。話がある。実はだ、僕は今ある仕事を請けているんだ。」
僕は、科学者からの情報をあてに此処に来たのだ。
少女がいたからか、金欠だったからか、社長に詳しい情報を聞くことを忘れていたのだ。
不覚。
「知っているよ、覚えている。勿論だろう。」
「……いや、記憶云々以前に情報源は何処ですか?」
「え?社長だけど?」
僕が社長の元に訪れた日は、二日前だが。
「ほぼすれ違いですね。で、なんと仰っていましたか?」
「いやーあの社長が。
――聞いて!あの欠陥屋が女の子を連れて来たんだよ!あの欠陥屋だよ!?
――『絶対に女の子何かとは喋らないぜ』オーラ全開の欠陥屋がだよ!
――驚いたなー。あ、そうそう。これ、例の品。
――後、刺斬花の件で欠陥屋君が来たら、コレを伝えてくれるかな――って言ってたから。」
おい社長。
僕の評価が異様に低くないか。
何故、僕が孤高キャラなのだよ。
というか……
「”例の品”って、あなた又兵器の開発してるんですか?」
「兵器とは失礼な。せめて武器と言え。なるべくなら、知的好奇心充足の為に保有する護身用具と呼んで欲しい。」
「人はそれを大量殺戮兵器と呼ぶのですよ。科学者。」
具体的にはレ-ザー網とか電気柵とか毒沼とか武具射出機とかね。
「今回は設置式じゃなくて移動式にしたから、より汎用性も高くなってるし。」
確実にそういう問題ではないよね。
「防御用だし。」
反撃してきた相手を無条件殺傷の可能性を指摘できる僕。
「フレミングの左手(仮名)だし。」
痛い。
無性に痛い。
「それはとりあえず置いておいて、社長の情報を伝えて下さいよ。」
「拠点が発見された。ここから近い廃ビルを利用しているらしい。」
成る程。
無法者の定番にして典型だな。
「誘拐された子は皆、死体になっている。」
ほぉ。
そいつは恐ろしいな。
おぞましいとも言うか。
「そして、彼もまた人類の集合的無意識が顕現している。」
へぇ、男だったんだ。初めて知った。
「能力は?」
殺害系の能力の可能性も皆無では無いしな。
「能力名は『魅了』。異性を無条件に無防備にする能力だ。」
……そう来たか。
「その能力で女の子を攫って殺している。」
誰がどう考えても悪人で、変態だ。
コイツは、罪を見つめながら崩壊すべき、、、罪人だ。
「それが、社長が言ってたコレですか?」
「それがね、誘拐犯はロリコン野郎なんだって。」
唐突だな、だが。
さっき聞いた。
「だから、女の子。欠陥屋のパートナーだから大丈夫だと思うけど。」
科学者はそこで一度間を置いた。
まるで言い含めるように。
まさに”記憶に残るように”
『連れ去られないように気を付けなよ。』