殺人少年
1.
『人を殺したい。』
そう思ったことはない?
僕はそれは人として当然の気持ちだと、感情だと、そう思う。
ところで、何故人は人を殺してはいけないのか?
そんなことは簡単だ。
自分が、殺されないように。だ。
私は殺されないって?
爪弾きにされないように、人類という集団から除け者にされないように、安穏とのうのうと生きていけるように。
これならわかるだろう?
生き辛い世の中でわざわざ生きようと思う奴なんかいないだろう?
それでも、人を殺す人間は……人間未満は、多い。どうしてだと思う?
それは、自分を理解して欲しいから。
自分を理解して貰えないから、相手に知って欲しいから、その極大の昂ぶりを以てして、人を殺すんだ。
矛盾しているようにも見えるだろう。
相手が死んでしまったら、永遠に、理解など出来なくなるんだから。
それでも、殺さずにはいられない。受け入れられない現実を、受け入れてくれなかった人間を、拒絶する為の最善の、最悪の、最高の、最低の、極致。
人とか言ったって性質はそのへんの獣より数段劣ると思うんだよね。
ミステリでよく扱われているように、惚れた腫れたの愛憎劇や、遺産目当ての殺人、快楽、特殊な性癖に果ては肩がぶつかったか否かのような下らないことから殺人に発展していっている。
実に悲劇的だよね。
「獣のような」とか「野獣」とか言われているけど、獣共は自然の摂理に則って必要以上に殺さず生きいているというのに。
ハイエナなんて、屍肉食で、自然て必要最小限の死で出来てるんだなぁっていつも思う。
そんなことを思いつつも学校に行く時間だなと思ってベッドを出る。
……まぁいいか。学校なんて。
第一、義務教育といいつつ。義務を負っているのは親であって僕らではないんだ。
教育をうけさせる義務なんだから。
というわけで学校は休む。
大学って義務教育じゃないし(今までの時間は何の為に?)
ああ。寝ようかな。
ああ。ケータイのチェックしないと。
ああ。お腹空いたわー。
ああ。やることがいっぱいある。
というわけで、人殺しに来ました嘘だけどー。
やべ、これじゃあ、あのいつでもどこでも誰とでも嘘でつき通せると思っている嘘が下手な男の子みたいじゃないか。
キャラ被りはいけない。
だがしかしバットけどけれど、劣化コピーはもっといけない。
というか、恥ずかしい。
ところで僕は、今、町に(街じゃないよ、町だよ)出て来ているわけだけど。
なんせ田舎なので人が少ない。閑静というか閑散って感じな町並みを歩く。
桜が綺麗に……咲いてなかった。
空は散歩日和な……曇天です。
歩いているうちにお腹が空いてきた。
よく考えたら朝から何も食べていなかった。
よくよく考えたら一昨日の朝から何も食べていなかった。
どこかレストランにでも入ろうかな。
細い路地を抜けて、大通りを歩いてみる。
大通りだなんて格好をつけてみたけど、実際には一車線が二車線になっただけの相変わらず残念な田舎っぷりだった。
10分ほど歩いてようやく開いているお店を見つけた。(空いているお店じゃないぞ。開いているお店だ。)
まったくこの町の人はまともに働きもしないで何をやっているんだか。
……きっと散歩でもしているのだろうね。
到着したのでレストランのドアを開けて中に入った。
開けないで中に入る方法を僕はまだ習得していないので、この後、その辺の草むらにでも押し入って経験値を稼ごうと僕は決めたのだった。
そんな無益に脳を使いつつ、ドアノブに手を掛け、回し、ドアを引き、開けた。
ドアを開けると鳴る鈴はまるで、台風にもたらされた強風の中、けたたましく鳴る季節を過ぎた風鈴のような情緒を醸し出していた。こんな店に三時間ほどいれば良い俳句ができそうだった。
俳句作ったことないけど。
ドアのすぐ前にはカウンターがあるのだが、なぜか店員が両手を天に向かって真っ直ぐ伸ばしていた。
お祈りでもするのだろうか?
カウンターには黒い服を着た男が二人、よく銀行強盗がするような覆面をしている。
仮装パーティかな?
とりあえず、メニューを選ばないと。
「えーーと。店員さん。僕あそこの席座りますね。」
これでも一応は常識人なので、きちんと店員さんに了承をとっておいた。
「おい。兄ちゃん。」
誰だろう?
このなかに黒服の血縁の人が居るみたいだ。
「おい。兄ちゃん。聞こえてんだろ。」
肩を叩かれた。どうやら僕には僕の知らない出生の秘密があったみたいだ。
「はい?何でしょう?」
「どういう了見でここに入ってきた?」
「……?お腹が空いたので満たそうと思って入ってきたのですけど?」
それとも、ここって飲食店じゃないのかな?
僕の好奇心は人の2√3倍だと言われたことがあるぐらいなので、思い切って聞いてみた。
「ここって、飲食店ですよね?」
さあここで、緊迫のシーン。固唾を呑んで見守る時間ですよ。
でも、唾って液体だよね。固い「つば」といったら鍔だけど、鍔飲んだら気道が……
あ、鍔は穴開いてるから大丈夫か。
なるほどね。ためになりましたね。
どうでもいいけれど。
そんなくだらない想像をしていたら、黒服さんの答えを聞きそびれてしまったので、「Pardon?」を日本語で言ってみた。
「ここは飲食店で合ってる。だが、今俺らが何をやっているかわかるだろう?」
ああ。
納得した。通りで、黒服さん達と店員さんと女の子しかいないわけだ。
「わかりました。お邪魔して済みませんでした。頑張ってくださいね、応援しています。」
僕は、皆さん方に謝罪と激励を激烈に込めて挨拶をした。
何故か、皆に怪訝な顔をされたがとりあえず見なかったことにした。
さてと、風情漂う風鈴の音が聞こえてくるドアでも開けて帰ろうかと思った瞬間に思い出した。
常識人たられば、この文句は言って置かなければ。たとえ、家にテレビは無くとも。
……僕の家にはあるよ?
「ところで、放送日はいつですか?」
……………………
なんか呆れられたみたい。
なんでだろう?
僕、何かおかしい事でも言ってしまったのか?
禁句だったのかな。
黒服さんが怒ったように尋ねてきた。
「……お前。俺らが今何やってるか本当にわかっているのか?」
僕は、正直者なのでしっかりと思っていることを伝える。
これが将来のプレゼンに役立つんだよね。
「テレビの撮影じゃないんですか?」
……………………
どうやら、間違えたようだね。
「お前本気か?」
「え?ええ。」
「どう考えても、強盗だろうが。」
「そう言われれば、そのマスク銀行強盗が良く使う奴ですね。」
黒服共が僕を殺す算段を立て始めたようです。
「とりあえず、コイツ。殺そうか?邪魔になるし。」
「あとから通報でもされたら厄介だしな。」
どうやらこのお方たち、実に頭が御悪いようです。
この僕を殺そうとするなんて。
まったくもって、言語道……。
おっと、友達から言語道断は自分の語彙が少ない証拠といわれたのだった。
このままでは、僕の評価は下落の一方。
まるで昨今の円高……は数字は下がってても価値は上がってるんだっけ。
ま、いいや。言語道断で。
「すまないな。色々とめんどくさそうなので死んでもらう。」
黒服が取り出したのは拳銃。なんと言う名前かは分からないが拳銃だ。
仕方が無い。必殺技だ。
「ところで、黒服のお兄さん。死ぬ前に少し、お話がしたいのですが。」
「では、挨拶からするとしましょう。僕は某大学の大学生でここから、まぁ1キロ程度離れたところに住んでますね。お兄さんは?」
「手前舐めてんのか?挨拶ったら、名を名乗るだろうが普通。」
「名前。ですか。名前だなんて名乗らない方がいいのですよ。名前と言うものは対象を自分の中に取り込もうとする儀式なのですから。お兄さんは僕の名前を聞くことによって、僕をお兄さんに分かる形で理解しようとする。ですが、この場において果たしてそんなことに意味があるのでしょうか?僕は死に行く者であってお兄さんは僕を殺すのですから。」
「はぁ。何が言いてぇんだよお前はよぉ。殺すぞさっさと。」
おっと、ここで殺されるのは困るぞ。僕にはまだまだやることがあるのだから。
『やることが多きこと、山の如く』なんちって。
どうでもいいか。
「まぁまぁ、お待ちくださいよ。そんなに急いては事を仕損じますよ。ところで、お兄さん。お兄さん、本とか読みますか?」
「本か……読まねえな。」
「お前なに律儀に答えてんだよ。殺すぞ、さっさと。」
ちっ。やっぱり二人はきついなぁ。
殺しちゃおうかな。
あ。拳銃だ。
黒いお兄さん(さっき突っ込んだ方)が拳銃を再びとりだしたのだ。
『拳銃出てきてこんにちは。坊ちゃん一緒に遊びましょう♪』
つまり、僕は夏目漱石といふわけですね、と古文調で言ってみるmyself。
つまり言ってない。殺されちゃうし。
思うだけ。
『思う茸』?
あ、やべ。引き金に手が掛かったや撃たれちゃう。
どーしよ。
僕が久しぶりに真面目に自分の行動を考えようとしたとき。
「ちょっと、待ちなさいよ!」
物騒な店内に凛とした声が響いた。
これはあれか?ラノベでよくあるHEROの登場か?
でも、姿が見えないな?
あ、わかった幻聴だ。死の直前にはよくあるっていうよね。
「幻聴じゃありません!失礼な!私はあなたを助けに来たんですよ!」
「あー。ありがとう。で、君はどこにいるの?」
「下下下!下!下ですっ!」
うん?
したをm……
いた。。。
少女発見。
……
「おー。よしよし。可愛いねー。じゃあここは物騒だからお家にk……」
「だからっ。私はっ。あなたをっ。助けにっ、来たんですっっ。」
どうやって?
「こう見えても私、、、ふj」
パンッ
「うるせーんだよ。ごちゃごちゃごちゃごちゃよぉ。」
撃った。今、撃ったな。
少女を。撃った。
罪の無い人を殺すなど、人たるものの所業ではない。
人を殺すとはつまり、人であることを放棄することなのだから。
だから、僕が、『人』にかわってその罪を、裁く。
少女は喀血し倒れた。
そしてこういった
「痛いじゃないですか!(怒)」
こうして、少女の命の灯火は消えt……
は?
『痛いじゃないですか?』?
しかも
『(怒)』?
な……
少女はいとも簡単に起き上がり、キメ顔でこういった。
「こう見えても私、不死身なんですよ。」
「!!!」
黒服兄さんも驚いてらっしゃる。
「お兄さん。私のことが怖くないんですか?」
まぁ僕も驚いたけど、僕みたいなのがいるくらいなら不死身がいても不思議は無いかなぁ?
と思ってしまったのです。
「いや、別に……。で、少女ちゃん。どうするんだい?勝算でもあるの?」
「いえ、ありませんよ。私、不死身だけが取り柄で生きて来たのですから。」
よくそんな大それた登場ができたな、この少女。
この状況で生き残るにはこの選択肢しかなくなっちゃうじゃないか。
「じゃあ、お兄さん。すみません。」
僕はとりあえず、先に誤っておくことにした。
間違えた。
あれ?
「誤る」が「間違え」ってマイナス×マイナスでプラス?
つまり、間違えていないと言うことになるのだ!
本当、どうでもいいけど。
「お兄さんはこの少女を殺そうとしました。つまり、その時点でヒトであることを放棄したとみなします。」
これは僕ルール。
完全にローカルで、知っているモノ(者じゃないよ)は未だ僕のみ。
でも、僕はルールでも作っていないと、遵守していないとやってらんないんだよね。
僕は結局、殺し屋でも暗殺者でも殺人鬼でも始末番でも虐殺師でも掃除人でも、ましてや死神でも無いのだから。
人格を壊して、精神を崩して、自己を失うわけにはいかないから。
だから僕は、ポケットから無雑作にワイヤーを手に取る。
さっきワイヤーと説明した後で申し訳ないのだが、ワイヤーより細い。
圧倒的にただ細い。
髪の毛よりもなお細い鋼鉄製の糸。
その長さは10メートルほど。
根元は実に普通に丸められているが。
「お兄さん。死んでください。」
僕は彼を視た。
僕は彼を凝視した。
僕は彼の奥の奥の奥まで、視た。
「見つけた。あなたの……欠陥。」
さて、ここらでそろそろ僕の「能力」の説明でもしようか。
「能力」か。「能う」「力」だなんて。こんなこと、出来なくていいのにね。
開始二行目で脱線だなんていけない、いけない。
僕の能力は「視ること」。
コレに限る。
人間、誰しも「欠陥」があるものだ。
欠陥とは言わずとも「欠点」なら、誰にだってあるのじゃないだろうか?
僕の能力は欠点、欠陥、欠如、そういった諸々を視るのだ。
見切るのだ。
見逃さず、見失わず、見つけ、見破る。
知り合いの……腐れ縁の科学者は「なんとか金属」とか言っていたが。
まぁ、そんなことはどうでもいいのだけれど。
欠陥は脈のように物体を走っている。
その脈―欠陥線―は、ある一点に集中している。
即ち「崩壊点」。
この極細ワイヤー「刺斬花」は最も僕の能力に適した武器なのだ。
相手の崩壊点に、このワイヤーを刺せばそれで終わる。
瓦割り。
それは、複数の瓦を真っ二つにする技だ。瓦の最も弱い場所を突けば、瓦は粉砕される。
僕の能力は、その「弱い場所」を見る。
それを突いて殺す。
そして、この刺斬花はそれを可能にする。
ところで、僕のこの能力は、生まれながらのものだ。
僕はこの能力をこう考えている。
――人類の集合的無意識の顕現。
ま、この考え方を打ち出したのは正確には知り合いの科学者なんだが。
それはどうでもいいとして。
人間には種々の思いがある。
例えば、「他人を殺したい。」「不老不死になりたい。」「忘れない、完璧な記憶力を持ちたい。」「独りになりたくない」などなど。
集合的無意識とは、こういった多くの人間に共通の、無意識下にある思いの事だ。
僕は不幸にも「他人の弱みを握りたい。」という無意識の元に生まれてしまったらしい。
こんなことは、どうでもいいとして。
さて、状況の打開とでも行きましょうか。