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Days  作者: 藤井 真尋
6/8

ACT.6『カクテルの途中で』

更新かなり遅くなりました。すいません!ι

ACT.6『カクテルの途中で』







その冷たい目は、なにも教えてくれないけれど。






太陽が姿を隠して街が夜に包まれた頃、店も人が入りだしてきた。

ほんのり薄暗い店内は、暖色系の照明と混ざり合っていい感じ。

木造でできている店の壁や棚には、店長が海外で買ってきた雑貨が飾ってある。

店の奥に唯一ある白いソファーに囲まれたボックス席が、木造作りのこの店にはミスマッチなんだけど、それがまたいい味出してたりして。


イタリアン・ダイニングバー『arrown』。

バイトをはじめて半年。そこそこ人気がある店だから週末なんかは忙しくて大変だけど、そこに目をつぶれば、なかなか快適な店だ。


“今日も何事もなく終わりますように”

いつも私が思うこと。

ちょっと癖になってる。


だけど、そんな私の願いは、今日は神様に届かなかったらしい――――。




「ドリンクオーダー。パッシモオレンジ、カンパリソーダ。以上、よろしくぅ」

「はーい」

バーカウンターの中の私にマリサがオーダー表を渡す。


「ねえ、透」

そう言いながら、カウンターに両腕をついて身をのりだしてくる。

肩までのゆるいウェーブヘアが揺れる。

そのキラキラ輝いたマリサの顔を見て、何を言い出すのかなんとなく見当がついた。


「めちゃくちゃカッコイイ人がボックス席にいるんだけど!?」


……やっぱり。


「ほんとに、まじカッコイイの!背も高くって、こう、なんて言うの?

雰囲気があるし、なんかキレイ!…って聞いてんの透?!」


「聞いてるけど。マリサの“カッコイイ”って当てにならないからねー、うん」


マリサのテンションの高さとは反対に冷静に答えると、オーダー通りにカクテルを作りはじめる私。

「いや、あれはヤバいよー」

「ヤバいって…そんないい男なら番号でも渡したら?」

「それがさ…彼女持ちっぽくて…」


うらめしそうにボックス席を見つめるマリサにつられて、私の視線も自然とそちらへ向かう。

賑わってるフロアを通り抜け、ボックス席にいる三人組の客に目が止まった。


「ねー。あのいい男の横に座ってるの彼女っぽいでしょー?」


「…うん、彼女だよ」

「え?」

「え?…あ、いや、別にっ。うん、あれはきっと彼女だねー」


意識はボックス席の方にやりながらも慌てて言葉を濁す。

「だよね。あー!いい男は全部誰かのものってか!?」

そう言って両手で顔を覆って泣き真似をしだす。


「はいはい、そんなもんですよー」

マリサの嘆きを適当に聞き流し、出来たカクテルをカウンターに置いた。

マリサは何かまだぶつぶつ言っていたけれど、渋々それを持ってフロアに戻って行く。




さて。




「来るなら来るって言えばいいのに…」


私の独り言が聞こえたかの様に、ボックス席に座る見慣れたキレイな顔がこちらを向いた。


今回だけだと思うけど、マリサの見る目はあったよ。

悲しいかな、外見だけならね?


あとは―――――屈折してますあの男。




目が合うと、慶は持っていたグラスをテーブルに置いて立ち上がった。

こっちに向かって歩いてくる。

そんな慶を見て横にいた由香子が私に気づいた。

嬉しそうに笑顔で手を振ってくる。

私もそれに笑顔で答え、手を振った。

雄平はさっきから由香子の横で集中して何か食べていたけれど、私に気づいて片手を上げた。

私も真似をして手を上げる。



慶は目立つ。

今日は黒いニットを被っているけど、180近い身長に加え…あのルックス。

店内を歩くだけで自然と人の目を引いた。

本人は全く我関せず。



みなさん、この男には騙されないで下さい。



バーカウンターに腕をのせて、慶は片方の口角だけ上げて笑った。


「久しぶり。カシスグレープな」

「また随分と女の子っぽいものを…」

思わず眉をひそめる。


「ばか。俺がそんなん飲むかよ。由香子のだし」


「あ、なるほどね。はいはーい」

由香子の為に動いてる慶を見るのがなんか嬉しくて、作りながら自然と顔がにやけてくる。


「…何笑ってんのお前。気持ち悪いよ?」

「ぶっとばすよ?」

笑顔で返してやった。


そこでやっと気づいた。


「なにその傷。どうしたの?」

カクテル作りの手を止めて、慶の口元にできたうっすら残る痣と傷を指差した。

「ん、ああーちょっとやりあって」

「えぇ!?」

「んな大したことじゃねえし。…殴り殴られ?みたいな」

苦笑いで口元を触る慶。


視界の端に見えるボックス席の二人。

食べすぎでむせてる雄平の背中を、由香子がさすってるところだった。


「いつ?!」

「いつって…一週間ちょっと前くらいかな」

「…へぇ」

慶と最後に会ったのは、ちょうどその頃だった様に思う。



『もう、ここには来ないで』



あの後、冷たい目をして部屋を出ていった慶が脳裏をよぎる。

テーブルに置いてあった合鍵に気づいたのは、その後のこと。



だって、由香子だよ?

今までとはわけが違う。

いくら幼なじみとはいえ、女の子の部屋に合鍵で入って来ちゃいかん。


「なに、そんな心配?」

黙りこくってた私の顔を覗き込む様に見てくる。「いや、全く」

「うわ、ひでー」

「だって絶対に慶が勝つもん。どうせ相手の方が重傷なんじゃないのー」

「……さあ?」

慶はすっとぼけた顔で首をかしげる。


「…やっぱり。由香子にあんま心配かけちゃだめだよ」

「あいつには言ってないよ。面倒だし」


でたよ、慶の悪い癖。


「面倒って…。そんな怪我見たら由香子だって気づいたでしょ?」

苛立ちそうになるのをぐっと我慢する。


「転んだって言った」

「…そんなんで納得するわけない」

「納得してたよ。別にさ…それでいいんじゃない?」

表情を変えず淡々と話す慶の顔から目が離せなかった。


なんでこの人は、たった一人の人を大切にできないんだろ。


今更だけど、二十年間幼なじみをやってきた私の疑問。


なに言っても同じなのかもしれない。

再びカクテルを作りはじめる。



あんたに言わなきゃいけない言葉が見つからないわ―――――慶。


なにも言わず、またカクテルを作りはじめた私を見て慶は言った。


「何も変わんないんだよ」

「え?」

また、手が止まる。


「今までとはわけが違う。お前も雄平も、そう思ってんだろ?」


慶の目は、遠くにいる由香子を少し映すと、すぐに私に戻ってきた。


「無理だから」

そう言った慶の顔は笑っていた。


けど、目が少しも笑ってなくて。



目を合わせていられなくて、私はカクテルグラスに入ってる氷をじっと見ていた。


先に口を開いたのは、また慶だった。


「今日行っていい?」


思わず顔を上げてしまった。


「どこに?」

「どこって、お前んち。他にどこがあんだよ」


あれ、この前のやり取り忘れてるよこの男。


「他にどこが、って?!由香子のとこ行けばいいでしょっ」


うん、これは正論のはず。


「あいつんち実家だし」

「だからなに?」

「俺ね、最近寝不足なんだわ」


話しかみあってませんけど?


「だからよろしく。あ、カクテルありがとなー」


そう言いながら、出来上がっていたカクテルを私の手から取りあげると、背を向けて歩いていく。

さっきとは比べ物にならないくらいの笑顔で。



そういえば滅多に見ない。あんな笑顔。



我に返ると慶の姿は小さくなっていて、テーブルに戻っているところだった。

慶が由香子にカクテルを渡す。

照れながらもより輝く由香子の笑顔は、ほんとに、ほんとに凄く嬉しそうで、こっちまで笑顔になる。




さて。




いろんな矛盾と、胸にわきあがる不安。


なにが正しいんだろ。

何も言わずに、あの輝く笑顔を失わない様にしようか。

いや、私がどうこう考えることじゃないのかな。



「透!」

名前を呼ばれて、目の前のカウンター越しにいるマリサに気がついた。

マリサの顔を見て、何が言いたいのか…やっぱり分かった。



ああ、めんどくさい。


「あの人と知り合いなの〜!?」


やっぱり。


「まあね」


聞こえない様に小さくため息をつくと、腕をぐっと上に伸ばしのびをする。


マリサに慶のことを適当に説明しておく事と、今夜絶対に慶を部屋に入れないことを誓って、私はゆっくりと腕を下ろした。

更新遅くてすいません(>_<;)!

次は慶の目線です。

そろそろ由香子も書かなくては。


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