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Days  作者: 藤井 真尋
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ACT.4『about time』

ACT.4『about time』






俺の長い一日がはじまる。






まだ間に合う。

玄関にある鍵を奪うように取って、慌ただしく靴をはく。

いつも正確な俺の体内時計が今日はおかしい。

おかげでいつもより30分遅くに目が覚めた。

ということは、ニ限目にある単位のヤバイ授業に遅れてしまうことになるわけで……


それはいけない!


いやいや、遅れると決まったわけじゃない。

慌てているせいか靴がうまくはけず、肩にかけていたカバンがずり落ちる。

しっかりしろ長谷川雄平、マイナス思考はいけない。

大丈夫だ、間に合う。

……はず。


「いってきます!」

誰もいない部屋に一応声をかける。

急いで玄関のドアを開け、外に一歩出た瞬間携帯の着信音が部屋に鳴り響いた。

「うおっ…!」

反射的に体が一時停止する。

音のする方を振り返ると、携帯がテーブルの脚の近くに転がっていた。


「あーまた忘れてるよ」

いつもならそのまま無視して部屋をでているはずの俺。

だけど、なんとなく、ただ、ほんとなんとなく気になって部屋に戻って携帯を取りに行っている自分がいた。


この事を、後になって後悔するんだけど。

「はい、もしもし」






まだ間に合う…のか!?

「大丈夫。間に合うって」

後ろから透の呑気な声。

「お前が言うな」


俺は今、死ぬ気で自転車をこいでいる。毎朝目にする周りの風景が、ものすごいスピードで駆け抜けていく。

「しっかりつかまってろよ?!」

「はーい」

後ろに乗っている透は俺とは逆に悠然とかまえていて、焦りのひとつもない。

ちなみに、汗のひとつもかいてやがらない。


「てかさ、お前も単位ヤバイんだろ!?」

「てかさ、スピード出しすぎじゃない?」

「誰のせいだよ!」

交差点に差し掛かったところでちょうど信号が赤になった。

わざと急ブレーキをかける。

透の顔が勢いよく俺の背中にぶつかるのがわかった。

「いったーい!」

ちょっと、すっきりした。



あの時、携帯を取りに戻ったのが俺の失敗。

遅刻しそうな俺は、俺より遅刻しそうだった透をマンションまで迎えに行く羽目になったわけで。

「じゃあ、待ってるから」

そう言い残して、俺の返事も聞かずに携帯を切った透の作戦勝ち。

その時の俺の慌てぶりは…思い出したくない。

無視するわけにもいかず、今に至る。

俺ってどこまで優しいんだろ。




間に合った。

はずなんだけど…。


「休講?!」

教室に入るなり俺の目に飛び込んできたのは、休講の知らせが書かれていた黒板だった。

まだ、ちらほら生徒は残っているが、ほとんどが雑談に華をさかせている様だ。


「せっかく間に合ったのに」

そう言って、透は何も言わない俺をちらっと見る。

教室の入り口付近で二人して突っ立ってるこの状況。

誰か笑ってくれ。

そして俺の努力を返せ。


とにかく空いてる近くの席に腰を下ろした。

横に透が座る。


「せっかくレポートしてきたのになあ」

まだブツブツ言ってるよ…。

さっきと変わらず透は呑気だ。

横目で透を見る。

「疲れた」

「え?」

「俺は疲れた」

「だろうね。うんうん」

透はわざとらしく大きくうなずく。

……ムカつく。気がつくと、教室には俺と透の二人しか残っていなかった。

「暇になっちゃったね」

「だな」

ああ、一日の始まりがこれかよ。

……ついてねぇ。


「ねむい〜」

お前ほんとに女かよ、と、突っ込みたくなるほど大きなあくびをする透。中学の頃からこいつはいつもこの調子。


ついでに慶の奴も。

全然変わってない。


………ほんと、なにも。


無言でバシッと透の頭をはたいた。

「痛っ!なにすんの!?」

だいぶ、すっきりした。







「これ美味しい!雄平はなんかたべないの?」

「うん、いらない」

店の時計を見ると午後四時過ぎ。

目の前の由香子は、ついさっき運ばれてきたパフェを食べ始めたところ。


「つーかさ、人呼び出しといて、まずパフェ食べるって聞いたことねえし」

「雄平が来る前にたのんでたんだから仕方ないでしょ」

笑顔を崩さず美味そうに食べる由香子は、悪びれた様子は全くない。

ちなみに、透は休講になった授業以外はなかったらしく、あの後部屋の掃除をするとかなんとか言って帰って行った。


今度ぜってーなんかおごらせてやる。


大学の近くにあるカフェに由香子から呼び出されたのは、ちょうど最後の授業が終わった直後だった。

「良かった〜、今日は携帯持ってたんだ」

第一声にそう言われた。

普通“もしもし”だろ。

頼んだコーヒーを一口飲むと、パフェから離れようとしない由香子に切り出した。


「で、どした?」

ピタッと由香子の手が止まる。

俺を呼び出す時は何かあった時。

それくらい分かってる。照れ臭そうにはにかみながら、でも、どこか不安そうな表情を俺に向ける。



思い出す。

夏も終わって涼しくなりはじめた、こんな季節の変わり目に―――。


甘くて、あの独特な鼓動と、そして、苦い感情。

三年前の俺と、目の前の由香子がだぶって見えた。

ゆっくりと、全ては回り、流れる。

それはまあ、過去のお話し。




「慶とね、つきあうことになったの」

今度はちゃんとした笑顔を俺に向けた。


慶…あいつ…。


「まじでっ」

「うん」

「意外だな。お前が慶とね〜」

「嘘つき」

いたずらっぽい目つきで俺を見る。


「慶のこと好きなの知ってた…っていうか、気づいてたでしょ?」


ああ、だからこそ何も言わなかったし、その事には触れようとしなかったよ。

だって、それが一番いいと思ったから。


「まあ、なんとなく…でも良かったな」


そう言った俺の顔はちゃんと笑えてるかな。

ありがとう、そう言ってまたパフェを食べはじめる。

慶が女に真剣にならない事とか、今のお前には関係ないんだろうな。


でも――――…


「ねえ、雄平」

「んー?」


でも、どっかでさ


「‥‥好きになってくれるかなぁ」


淡い期待とかしてるんだろ――…?


独り言の様につぶやいた由香子に、俺は何て言っていいか分からなくて、


「ん、なに?」

聞こえないふりをした。


「別に〜なんでもない」

きっと俺には由香子が望む言葉を言ってあげられないから。


ごめんな。


それからは、たわいもない話しで盛り上がった。窓の外を見ると、空が赤紫色に染まっていた。



パフェを食べ終え、右手に携帯を持ち、せっせとメールを打っている君に何となく問掛ける。


「誰にメールしてんの」

「透だよ」


ちらっとこっちに目をやると、すぐにまた手元に戻す。

それ以上何も聞かなかった。

それから少しして、友達と約束があるからと、由香子は先に店を出て行った。



俺は冷めきったコーヒーを一気に飲み干すと、カバンから携帯を取り出した。

慣れない手つきで少ない登録件数の中から目的の名前を見つけ出すと、通話ボタンを押した。

耳元で呼び出し音が何度か鳴ると――


「はい、もしもし」


朝の疲れを蘇らせる声だ。

「あー透?今って大丈夫?」

「めずらしい…雄平からかかってくるなんて」

「だろうな」


思わず自分でも笑ってしまう。

透の驚いてる顔が目に浮かぶ。


「で、どうしたの?」

「え、あー…」


そうだよ、なんで俺は透に電話なんかしたんだろ。

慶と由香子のこと、話したかったのかな。

「――…由香子?」


…こいつエスパーかよ。

あれ、透知ってんのかな。

でも…何か切り出しにくくて、とりあえず最近あいつが元気ないよな、なんてことを聞いてみた。

「さあ、なにもないと思うよ〜。心配しすぎなんじゃない?」


知らないのかも、あの二人のこと。

別に俺が言うことでもないし。

ってか、なにやってんだろ。

急にこんな事聞いてること自体おかしいでしょうが俺!


「…そっか。分かった。急に悪かったな、ありがと」

それからしばらくして電話を切った。



聞けるわけない。

言えるわけない。



慶は、お前がめちゃくちゃ好きなんだよ。


手に持った携帯を眺めてつぶやく。

「やっぱりいらね」







暗闇に包まれた部屋で寝返りをうつ。

冷蔵庫の低いうなる様な音と、ひんやりした布団が心地いい。

朝、体力をめいいっぱい使ったせいかもう眠りにつきそうだ。

瞼が重くなってきた。

薄れゆく意識の中、携帯を開けば時刻は一時過ぎ。

体内時計が正常になっていればいいんだけど。


携帯を閉じようとした時、暗闇に鳴り響く着信音。

明日遅刻したらどうすんだ。


「…はい」

「俺」

「……なに」

努めて無愛想な返事をする。

「冷てーのな雄平くんは」

からかう様に低めの声は言った。


―――――眠い。


「慶…何時だと思ってんだよ」

睡魔と闘いながらも文句は忘れない。


「お前が寝るの早いの」

「…で、なに」

「迎えに来て」

「いや」


ほんの少し眠気が覚めた。

朝も同じセリフ聞いたんですけど。


「“嫌”じゃねーの。電車なくなった」


透といい、慶といい、

―――…ったく。


「クラブで遊び過ぎなんだよ」

「今はクラブじゃないし」

「…どこいんの」


また寝返りをうつと、不意に目を向けた窓から月が見えた。

三日月だ。


もう、このまま眠らせてくれ―――。



「迎えに来てくれんの?」

「…近かったらな」

あー俺ってお人好し。



「今は警察にいる」



飛び起きた。

まさにその表現がピッタリだ。



「はああ!??」




俺の長い一日は、まだ終わりそうにない。



やっと更新しました!読んでくださってる方、遅くなってすいません(>_<)!!!!

次はなぜ慶が警察に行くことになったのか書きたいと思います。

未熟者ですがこれからも執筆頑張りたいと思います(^^)/!

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