ACT.2『電話、そして訪問者』
ACT.2『電話、そして訪問者』
全ての関係に名前がつく世の中。
いつの間にか眠ってしまったみたいだった。
部屋の中が薄暗くなっている。
ベットの上で横になったまま、近くにあった携帯を手に取り時間を確認する。
「五時かあ…」
ちょうど二時間程眠ったことになる。
部屋の掃除で久々に身体を動かしたせいだろうか。
今日は、あるはずだった二限目の講義が休講になった。
あいた時間を家の掃除に使うなんて色気がない。我ながらそう思う。
起きる気がしなかった。もう一度携帯に目をやる。
メールが一件受信されていた。
由香子からだ。
内容は―――…慶のこと。
今日、あいつと会う約束しといて良かった。
そう思った。
由香子にメールを返すと、両腕をぐっと上にあげ大きく伸びをする。
あと三十分程で慶が来る。
差し入れの一つでも無かったらしばいてやろう。うん。
ベットから起き上がると、冷蔵庫からペットボトルの水を取り出し喉に流し込む。
身体が潤っていくのが分かる。
部屋の電気をつけ、カーテンを閉めた。
慶が来る前にシャワーでも浴びよう。
眠気も飛んで身体もスッキリするはずだ。
面倒なことは今は忘れよう。
上の服を肩まで脱いだちょうどその時、携帯の着信音が鳴った。
めんどくさかったのでそのまま携帯を取った。
「はい、もしもし」
「あー透?今って大丈夫?」
雄平からだった。
「めずらしい…雄平からかかってくるなんて」
「だろうな」
雄平の苦笑いが目に浮かぶ。
携帯をほとんど使わない雄平は、友達の中でも貴重な存在だと思う。
というより、この現代の中においてめずらしいかな。
『会いたいと思えば会えるし、相手のこと考えてたら偶然会ったりするんだよ。
お前らはその小さな機械に頼ってるから、第六感が鈍るんだ』
前に雄平が言っていたことをふと思いだした。
雄平はちょっと変わってる。
「で、どうしたの?」
「え、あー…」
「――…由香子?」
少しの沈黙のあと、
「うん、まあ。さっきまで一緒だったけど、
…あいつ最近さ微妙に元気なくね?」
…鋭いなあ。
「そうかなあ〜」
「由香子のことだし…お前なんか知ってんのかな〜って」
「さあ、なにもないと思うよ〜。心配しすぎなんじゃない?」
…知ってるけど。
何となく、言えなかった。
「…そっか。分かった。急に悪かったな、ありがと」
「本人に聞けばいいのに。元気なくね?って」
「そんな彼氏でもないのに聞けるかよ」
「いや、普通友達でも聞くけど…」
おかしくて笑ってしまった。
「俺は不器用なんだよ」
「知ってる」
“黙れ。じゃあな”そう言って雄平は電話を切った。
なんて簡潔な内容。
小さくため息をつく。
てか、中途半端に服ぬいでるこの格好をなんとかしなきゃ。
風邪ひいたら困るし。
「お前、風邪ひくよ」
――――…ん?
声がした方に振り返った。
「別に俺はそのまんまでもいいけど」
口角をふっとあげてこっちを見ている慶がいた。
あまりの驚きに声が出ない。
“あ、合鍵か。”
なんて冷静にあたまの中で考えてる自分がいたりして。
――…いやいやいやいや…これは……
手に持っていた携帯が床に落ちた。
そしてようやく声が出た。
とっても大きな声が。
ねえ、慶。ぶっ殺すよ?