イチカライフ
命を守ってくれ、と言われて、大抵の人間は何を寝言を言っているんだと思うだろう。
しかし、イチカはマジだった。
真っ直ぐにサスケを見て、真面目に真剣にそう切り出した。
「えっと……なんで命を狙われてんの?」
とりあえず、聞いてみる。
どこまでも真剣な表情で、イチカは答える。
「私はとある闇組織と繋がりがあってね。 今はそこから逃げている途中だ」
「……あのさ、その闇組織って………まさかさあ………」
「ああ、『イツキ』 だ」
闇組織イツキ。
歓楽街のある都心で、かなりの力をつけている組織だ。
夜になると、違法な店が出並び、裏では麻薬、人身売買、風俗店等の悪が絡んでいる。警察ですら手が出せない無法地帯だ。
「おいおいおい、かなりヤッベーじゃんよ」
イツキが絡むとなると、命云々がリアルに聞こえてくる。
そんな闇組織がこんな小さな少女を狙っている、その『情報』が気になる。
「えーっと……今、逃走中みたいな感じっすか」
「そうだな。与一にはすべての事情を話し、ここに置いてもらっている。だけど、あいつらに私の居場所がバレたらしい」
「……………………………………、?」
ポカン、とサスケの口が開く。荷物を整理していた手が止まり、イチカを見る。
「おまえ、見つかっちゃダメだろ」
「まあ、見つかるよりは見つからない方が良いだろうな」
「いやいやいや! そんなアブナイ組織の人たち相手にしちゃダメでしょーが!てか何でアンタみたいなちっさい子がそんな所の情報知ってんだ!」
「キミはうるさいな。もう高校生だろ。お喋りな男は女から嫌われると思うんだけど」
「うっさいわ!」
どんなに大声を出しても、イチカは表情一つ変えない。子どもらしくない仕草が、奇妙なものに見えた。
「それで、どうすんだよ。警察はアテにできねーし、てかマジな話なのかよ」
「キミは冗談と本気の区別もつかないのかい。私の顔を見ろ。本気だから目がマジだ」
「全ッ然、本気じゃない。目が虚ろだもの死んでるもの!」
何やら訳の分からない事を言っているサスケを無視し、イチカは、サスケの服の袖から包帯が覗いているのに気付いた。
「───キミ、それは怪我か?」
「え?」
サスケが自分の右手に気づく。
「ああ、これか」
服の袖を捲ると、右ひじから指先まで包帯で巻かれていた。
サスケはニカッと笑い、
「一年前の事故で、ちょっと傷跡がめだってさ。だからこうしてるんだ」
「………そうか」