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イチカライフ
序章 『 opening 』
血だらけの部屋だった。
錆びついた鉄さびの匂い。流れ落ちる音。倒れている人間。
壁や床、家具などにこびりついている血の跡は、随分と時間が経っているのか、浅黒い。
そんな惨劇の舞台に、一人の少女がいた。
真っ白い少女だった。 髪も、肌も、服もすべて。ただ、その右半身が赤く染まっている。自分の傷ではなく、倒れている人間の返り血のようだった。
「おかあさん」
少女は掠れた声を出した。
目の前の死体が「おかあさん」なのか、少女の手が伸びる。触れると、その体温は恐ろしく冷たかった。
死んでいると。
少女は一瞬にして判断した。
判断し、そして─────
「いやあああああっ、あああああぁ───ッ!」
その叫びは、誰にも届く事はなかった。
少女の悲痛なる声も、涙も、心ですら、届く事はなかった。