オレの、好きな人!!
そうして金曜日、
相変わらず藤崎はなんだかの事情で、午前中の学校には居ない。 料理をする理由がわかれば、なんとなく事情がわかるかもしれないのだが。
休み時間、少し遠くの席の藤崎が話しかけてきた。
『竜輝おまえ、気が変わったか?』 「まさか!!」
『ほんとうか? 相沢がいながら、ほかの女子の席を見ていたら、なんだかそんな感じがするぜ?』 「そうだな、気をつける」
オレはアイドルの琴ちゃんが好きだが、それは手の届かない領域だからこそだ。
現実を見るとすると、相沢 沙織が好みだ。 活発的で、面白くて、何より笑っている姿がかわいい。
昨日の関わりから、さらに話したいという願望が強くなっている気がする。
だから、ほかの人に気がいくなんてない。 ましてや、あんな口の悪い女はこっちから狙い下げだ。
『昨日の流れを利用して、相沢と一緒に飯でも食ったら?』
「いや、いきなり二人で?」 『おまえは何言っているんだ? そんなことできたら誰も苦労しないだろ。
オレもついていくから、一緒に誘ってみるんだよ』 「わ、わかった」
高校二年になるまで、まともに恋愛に向き合わなかったオレは、今では苦労する側の人間だ。
そういうことにはぜんぜん頭が回らない。 数学の授業が始まると、相変わらずチョークが飛ぶ。
いい加減学習しろよって思うのは、俺だけじゃない気がする。 オレはうなだれている拓人に近づき、声をかけた。
「どうするんだ?」 『まかせた』
提案した人がこれでは、この先が不安だ。 正直裏切られた気分だ。 自分で何とかするしかない。
『木我君、よかったら一緒にお弁当とらない?』
女神が降りてきた。最近草食系が多いが、それも仕方がない気がする。
「あぁ、いいよ、桜木も誘っていいか?」 『うん、もちろん、いっぱいいたほうが、いいからね』
そんな、彼女の優しい言葉はすごくうれしい。
しかし相沢さんの後ろからの肉食の視線が草食をビビらせる。藤崎だ。奴がオレの幸せなひとときを奪いやがった。
「おーい、拓人!!」『あー、わかっているって』
そうして四人でお弁当をいただくことにした。四人の中で一人だけ弁当が違う、相沢さんのお弁当がかわいらしいのに対して、
おまえの弁当はなんだ! プライベートの保護すらないスーパーのお弁当ではないか!しかも、お肉ばっかりのカルビ弁当。
クラスのヒロインの自覚があるのなら、サンドイッチなどのバランスがよくてかわいいものを食べて欲しいものだ。
こちらからすると、バランスが悪くて見ていられない。
「これやるよ、」
プライベート保護のない透明なふたに、おかずとトマトをおいた。
『ちょっと、いらないわよ』 『木我君、玉子焼き ちょうだい?』 「あぁ、いいよ」
オレは相沢に弁当を差し出した。 彼女が玉子焼きを取り出すのと同時にトマトが投げ込まれる。
「おまえな、バランスよくとらないとダメだろうが」
『なんであなたが心配するの?』 『おいおい、竜輝、おまえは親かよ』 「あっ、」
相沢さんまで笑っている。なんだか照れくさい。 相沢のほうを見ている俺に、藤崎は耳打ちしてきた。
『あんた、あんまり調子に乗っていると、秘密ばらすよ』
「なっ、」 『ん? どうしたの?』
相沢が心配してくれたのだが、それと同時に俺の足を踏んできた。
「っ!!」 『?』
オレと藤崎を除いた二人は、不思議そうな顔をしている。 犯人の藤崎はわざとらしく首をかしげている。それと同時に足を踏む力が強くなる。
「い、いや、小指ぶつけた」 『そうじゃなくて、なにを話していたの?』
ここは足が使い物にならなくなる前に、ウソでごまかすしかない。
「藤崎が昨日のお礼を言っていたんだよ、美味しかったって」 『もー、ことみは恥しがりやなんだから~』
恥ずかしそうにしているが絶対に演技だ。こいつはかなりの女優になりそうだ。そうでなくては、さっきの俺が受けた痛みはいったいなんなのか。
『あのさぁ~、夏休みなんだけど、このメンバーでどこか出かけない?』
藤崎がいるのは気が引けるが、相沢さんがいるなら絶対にいく。 オレは拓人と顔をあわせてうなずいた。
「あぁ、いいね、それ」 『オレも賛成だ』 『ことみはどう?』
一応確認しておくが、先ほどから「ことみ」と呼ばれているのは藤崎のことだ。こんな腹黒な奴とアイドルのことちゃんが同じな名前だなんてなんだか、許せない。
『う~ん、ちょっとまだ、予定がわからないから~』 『大丈夫だよ、ことみの予定にあわせるから、ね?』
相沢さんはオレらをそっちのけで決めてしまった。そんな風に言われたら、うなずくしかない気がする。
そうして昼休みが終わり。午後の授業が終わった。六時限目はオレの大好きな家庭科だった。
クラスに戻る際に、藤崎が何か話していたが、気に掛けても仕方ないので、拓人と一緒にクラスに戻った。