うしろの、謎の視線!!
拓人と同じ駅なので、電車を降りたあとも、途中まで一緒に帰っていた。
『竜輝・・・』 「なんだよ」
『オレ、ちょっと用事思い出したわ、先帰る』 「あっ、おい」
なにかあるのならばかまわないが、
先ほどから視線を感じるので、なんだか一人で居るのは怖い。 なんでこんなところでストーカーに遭わなくてはいけないのか?
振り返ると、店の看板や電柱に次々に隠れていく人影が見える。 というより、丸見えだ。 そして、どこかでみたことのある人影だ。
「おいっ」 『なに?』
そこで返事をしてはストーカー失格だろ。
「おまえ、実はバカだろ?」 『は?』
バカだ。
「何しにきたんだ?」 『あんたの母さんに会いに来たのよ』 「なんで?」
今日のおかずのことだろうか? それならオレに頼めばいいんだ。 まぁ、それを知られたらまずいのだが。
「ただいまー」 『お邪魔します』
なんだかんだで、彼女をまくことができずに、家に来てしまった。
「母さんは遅いけど、それども待つのかよ?」
『さっきも言ったでしょ、待つって、それともなに? 自分が変なことをしそうで怖いのかしら?』
「おれはどこの変態だ!! そうか、だったら勝手に待てよ」 『えぇ』
なんて口が悪いのだろう? 学校ではそんな姿をまったく見せないのに。 とりえず、時間が時間なので晩御飯の準備を始めた。
『なんであんたが料理しているのよ』 「いつも帰りが遅いから、それなりに料理できるようにしているんだよ」
それなりに、って言うのはウソだけどな。
『ただいまー』
リビングに入ってくるなり母は驚いている。
『え? 竜輝? 彼女ができたの?』
まぁ、キッチンで料理している隣に女の子がいたら、こんなことを言ってもおかしくはない。
しかし、こんなに口が悪くてストーカーをするのはこちらから狙い下げだ。
『まったくもって、違います』
気がなくても、そこまでキッパリと否定されるとかなりつらい。
『よくわからないけど、せっかくだし、みんなでご飯食べましょう』
なんでここまでのんきなのだろうか? 息子であるオレすら怖い。 顔に似合わず、ご飯にがっついている。性格といい、もう少し女の子らしくして欲しい。
『いっぱい食べるねー』
ほんとにこの人はのんきだ。 食事も終わり、お茶を用意していたのだが、なんだか話が弾んでいる。
女性同士、気が合うのかもしれない。 男は黙って食器でも洗っていようと思う。
『師匠、私に料理を教えてほしいのです』 『いかがして料理を学ぼうと?』
なんてノリノリなんだ。大体、母さんは料理なんかぜんぜんできないだろう? 言葉に責任持ってください。
『竜輝~』
あー、なんか嫌な予感がする。
「なんだよ、かあさん」 『竜輝師匠お願いします』
やっぱりそうきたか、ほっぽり投げやがった。
彼女は驚いた顔でキッチンにいるオレを見ている。それも無理はない。 だって、さんざん嘘ついてきたからな。
『ど、どういうこと?』
面倒だけど、説明するしかない。
「オレが料理好きだってこと、知られたくなかったんだよ」 『どうりで、女々しいと思ったわ』
なんでそうなる。
「うるさいな、そんなこと言うなら教えないぞ」 『この際、あんたでいいわね』
会話になってない。
「じゃあ、聞きたいことがあるんだけど」 『ハンバーグの作り方教えなさい』
話を聞け、それ以前におまえはハンバーグすら作れないのか?
「いや、だから、どうして料理をするんだ?」 『いいから、教えなさい』
きりがない。
「わかったよ、いつまでに教えればいいんだ?」 『あさってまで』
さすがに早すぎる。こんな時間だし、明日は学校、何より材料がない。
「それはムリだろ」 『いいからはやく』
強情すぎだ、絶対こんな奴とは付き合いたくない。
もし付き合ったら、高級ブランドを無理やり買わされそうだ。それ以前にそんな金はどこにもないが。
「あー、わかったよ、じゃあ、明日の朝までに材料用意しとけ」 『なにを用意すればいいのよ』
わからねーのかよ。心の中でうんざりしながらメモに材料を書き記した。
「ほら、遅いからさっさと帰れ」 『わかってるわよ』
最後の最後まで怒鳴りあって別れた。 こんな時間だ、送っていったほうがよかったかもしれない。
「まったく、なんなんだ、アイツは・・・」 『いいじゃない、あんなかわいい子と口喧嘩できるなんてー』
相変わらずこの人はのんきだ。
なんだか、明日は忙しくなる気がする。 「やべー、アイツに口封じしておくの、忘れてた!!」