お昼の、お弁当!!
『おはよう! 竜輝』 「おう、おはよう」
こいつは桜木 拓人
身長は平均より高く、髪型はオールバック、ルックスもよく、
クラスでは結構な人気者だ。おそらくクラスの全員と話せる気がする。
まぁ、要するに社交性があるといったところだ。 先ほどのように隠し事は結構あるが、親友だと思っている。
二人で話しながら五分前ぐらいにクラスに入る。
ほとんど登校しているクラスのなかをざっと見渡す。 後ろのほうの席にいるはずの恩人がいない。
「また藤崎はいないのか?」 『なんだろうな、また家の用事かなんかじゃないか?』 「ふーん」
藤崎はいつも送れて学校にやってくる。場合によっては学校に来ない。
学校側は理由を知っているらしいが、オレらが知ることはできないらしい。
『まさか、藤崎に気があるのか?』
もしもそうだったとしても、彼女は学校で一番きれいかもしれないということで、
人気があり、ライバルはあまりにも多すぎる。オレはそんな無茶な恋愛はあまりしたくない。
第一、オレには好きな人がいる。クラスの奴らに挨拶を返して、鐘の音と同時に席に着いた。
そうして、
一時限、二時限、三時限と彼女が来ることはなかった。下手したら、今日は会うことができないのではないだろうか?
四時限目、数学
まるで呪文を書いているかのように、黒板にチョークが走る。
どうしてここまでうるさくできるのか、となりは大きなイビキをしている。
どうしても眠いのなら仕方がないが、第一にノートを出していない、授業放棄と捕らえられても仕方がない気がする。
『桜木さん』
ここまでイビキという名の授業妨害をしているのだから、先生の必殺技が出されても仕方がない。
『はぁ~い』
眠そうにしている彼が起き上がると、シュッっという鋭い音が聞こえると同時に、チョークが彼の額に当たった。
『いだっ!!』
あたりでクスクスと笑っている人もいたが、同じ目に遭わないようにと静かになった。
キーンコーンカーンコーン
四時限目が終わり、購買に行くものはクラスを出ていき、お弁当を持ってきた者は机や椅子をガラガラと動かしている。
購買に行くものたちと同時に、藤崎がクラスに入って来た。
理由は知らないが、ずいぶんな遅刻だ。入り口できょろきょろして、オレを見つけるとこちらに来た。
クラスに居る人達全員が、そしてたまたまクラスの前を通りかかった生徒でさえ、こちらを見ている。
拓人はどうだか知らないが、男子諸君の目線が痛い。
そんなことはどうでもいいとして、なんの用があるのだろうか? 恩人なので、何か頼んでくれれば可能な限り答えるつもりだが。
手を差し出して一言、
『木我、お弁当ちょうだい』
いや、まて、可能な限りそうしてやりたいが、オレの空腹はどうなるのだろうか? そして昨日であった時とは口調がぜんぜん違う。
「それはないだろ」
それを聞いていた男子諸君はお弁当のおかずを分けてあげると騒いでいる。
『みんなごめんね?』
滅相もない、そんな風な顔をしている男子諸君は弁当からおかずを出していく。
『あなたも頂戴』
苦労して作ったおかず(昨日の残りも含め)をあげるなんて、わが子をとられる感じだ。周りの目線がつらいので、得意なおかずの玉子焼きをしぶしぶ差し出した。
そうして、オレの弁当のふたを持った藤崎は、女子の集団に行ってしまった。周りの目線がやりづらいので、残り物をいただきに拓人と購買に向かう。
『なぁ、藤崎となんかあったのか?』 「いや、話すと長くなるんだが・・・」
『ふーん、』 「聞いてきたくせに反応薄いな」
『いや、なんでそこに藤崎が居たんだろうな?』 「あー、たしかに・・・」
たしか藤崎は同じ路線だが、一つ前のはずだから駅前に居るわけがない。
俺の住んでいるほうは、テレビ局やショッピングモールがある感じだ。 おそらくショッピングモールにでも行っていたのだろう。
「オバちゃん、なんか残っている?」
けだるそうに答えられる。
『アンパンだけだよ』
さすがに人気がないのだろうか? 百円で二つ買った。
アンパンをかじりながら、教室に戻るとなんだか騒いでいる。いったいなにがあったのだろうか?
『木我君、このおかずは君が作ったの?』
オレの気になっている女子、相沢 沙織
女子でありながらも、クラスを盛り上げる重要人物だと、オレは思っている。
オレの中でだが、彼女の存在はでかい。 たしかにオレのおかずだったが、この騒ぎ具合はなんだろうか、
そして男子諸君の目線はなんだろうか? どうして相沢さんが話しかけてくれたんだろう?
『どうなの?』
ここで自分の趣味を打ち明けるのは気が引ける。
相沢さんにへんな風に思われたくない。 いまどきはこういう趣味ってどう思われているのだろうか?
「あぁ、これはうちの母さんが」
『へー、いいなぁ~、木我君のお母さんすごいね~、私も分けてもらったんだけど、こんなにおいしい玉子焼き初めて食べたかも』
そこまでほめられるとなんだか照れくさい。 隣にいた拓人が口を挟む。
『なんでおまえが照れているんだ?』
「い、いや、てれてねーよ」 『変な奴だな』
おまえにだけには言われたくないぞ、拓人。
クラスの女子から、どんな母さんなのか聞かれたが、
期待されているような母ではないので、なんとも答えづらかった。 そうして学校が終わった。
調理室の前の階段を通り、下駄箱でみんなに挨拶しながら学校をあとにした。