であった、きっかけ!!
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ピロリロリン
愉快な効果音は、普通なら些細な喜びになるはずなのだが、ここまで来るとぜんぜんうれしくない。
自販機を前に少年は大きなため息をついた。
〈ピロリロリン、おめでとうございます。 もう一本えらんでね〉
「何本当たるんだ・・・」
先ほどから当たりつき自販機が永遠に当たっている。実際に言うと、ただいま十本目に突入しようとしていた。
一種のバグかなにか? 自販機の前で何回もボタンを押している。
そんなオレを、学校帰りの人などの周りの人たちは珍しげにして見ている。
そういうのはすごく恥ずかしいのだが、こんなチャンスを逃すのはもったいない気がする。
かといって、たかがジュース数本のために友達を呼ぶなんてめんどうくさい。
バグッた自販機を前に格闘をしていると、自販機にかかる影が三人になった。嫌な予感しかしない。
『きみ、面白いことしているね、ちょっとお話を聞かせてくれないかな?』
ここまで連続であたりを引いたら、さすがに何かしたと思われても仕方ないよな。今思うと、自販機がなんだか熱かった気がする。
自販機との格闘をあきらめて、警官さん達と交番で数本のジュースを前に、三者面談になりました。
『きみは自販機に何かしたんじゃないのかい?』
「なんにもしていません」
『じゃあ、業者さんから連絡が来るまで待っていてもらおうか』
勘弁して欲しい。夕方から大好きなアイドルの出ている料理番組が始まるのだ。
こんなところで時間なんかつぶしている場合じゃない、業者さん、早くきてくれ。
『先輩、彼の無実を証明するって言っている女の子が来ていますが・・・』
『ん? まさかグルか?』
まさか、そんなはずはない。
そもそもそんなことする気なんてない。 まさしく無実だ。勘弁してくれ。
『どうしますか?』 『わかった、通せ』 『はい』
それにしてもいったい誰なのだろう?
『つれてきました』 『ごくろう』
確かあの子は・・・
『知り合いか?』 「いえ、」 『おなじ学校の藤崎といいます』
そう、二年になってから同じクラスになった人だ。
身長は女子にしては少し低めで、黒い長髪は結んでいなく、赤いメガネが特徴的だ。
いい忘れていたが、オレは木我 竜輝
天性の機械オンチということで通っている。 去年なんかは学校のパソコンを壊してしまった。
友達は絶対にオレに機械類を貸してくれない。悲しいことだ。 全部偶然なのだが・・・
『わたし、近くで見ていましたけど、彼は普通に買っていましたよ?』
平然と言う少女をみて、警官達は顔を見合わせている。
『ん~、わかった、今回は見逃すから次から気をつけろよ?』
一体なにをどうやって気をつければいいのだろうか?
「迷惑おかけしました」
実際かけられたのはこちらなのだが、そんなこといったら余計にこじれる気がするから止めておく。
二人で交番を出てからしばらくして、
「ありがとう。 助かったよ、確か同じクラスだよな?」
そういって、ただで手に入れた。ジュースを渡す。 彼女はプルタブを開けながら、
『そうでしたっけ? ただ無実の人が警官に捕まるのは見ていて虫唾が走るので』
見かけによらず怖いことをいう。
これがクラスで一番かわいいヒロインの本性なのだろうか? だとすると、思いを寄せている男子たちはかわいそうだ。
もちろんオレは違うが、
「そ、そうか・・・、また明日お礼するからさ、とりあえず今日はありがとう!!」
あぁ、こんなところで時間をつぶしている場合じゃない。料理番組でお料理アイドルの琴ちゃんと一緒に勉強しなくては!!
立ち尽くすヒロインをよそに、オレはジュースを抱えて、全速力で家へと帰った。
〈みんなで一緒に、レッツ、クッキングぅ~〉
オレはテレビの前に思わず正座してしまった。先ほどのジュースはお茶をすするようにして飲む。
少し小柄でその目はきらきらしているように見える。一度でいいから直接会ってみたい。
できることなら握手したい。恥ずかしながら、オレは琴ちゃんの大ファンで料理をするのが好きだ。
料理が好きなことに関しては、恥ずかしいから親友にも話していない。知っているのは母親ぐらいだろうか?
それとは別の料理が好きになったきっかけの父は、単身出張をしていて、母とオレで二人暮しだ。
父は忙しく、息子が大きくなったせいか、なかなか連絡を取り合うことはない。これでもうちの家庭はうまくやっている気がする。
『今日はなにを作るの?』
最近はオレが料理の練習がしたいからということで、料理はオレが作っているということになっている。
「あー、からあげでいいかな? 鶏肉あるから」
母は親指をこちらに向けて、にこやかにしている。 たまには料理させたほうがいいかな?
朝、
『起きなさい』なんて声をかけられるわけはない。 なぜならオレが弁当を作っているのだから。 むしろそのセリフはオレだ。
「おきろー、朝だぞ!!」
眠たそうにしているのは、まだ三十過ぎぐらいの母だ。 たまにはオレもゆっくり寝ていたい。
『あー、おはよう、りゅうき~』
なんでこんなにのんきなんだろうか? まぁ、たしかにまだ時間があるから問題ない。
「オレはあんまり時間ないから、そろそろいくわ」 『いっていらっしゃい』
こうして、新学期から数日たっての学校生活がまた始まる。 学校の帰りに当たりつき自販機に近づくのは止めようと誓った。