パートナーはVTuber
ご無沙汰しております。楽しんでいただけたら嬉しいです。
目の前には、まだ玄関なのに待ちきれないらしく、おいで、と両手を広げて待っているパートナー。断る理由もないから抱きつけば、首筋に顔を埋めて深く息を吸って満足そう。外に居たし、シャワーを浴びてからにして欲しいなって思うけれど、優佳里がしたいならいいか、といつも許してしまう。
「翠、おかえり」
「ただいま。優佳里もおかえり」
「うん。ただいま」
一緒に出掛けていても、毎回おかえりとただいまは言い合っている。日常になっても、こうやって笑い合えるのが幸せ。
少し抱きしめあって、名残惜しいけれど離れれば、悲しそうにされて後ろ髪を引かれる。戻りたくなるけれどキリがないから我慢。
「優佳里、お風呂どうする?」
「んー、微妙な時間だな……一緒に入りたいところだけれど、また間に合わなくなるし。先に入らせてもらってもいい? マネちゃんに、次無断で遅刻したら基本事務所からの配信にしてもらいますからね、って言われててさぁ。そんなことになったら翠と過ごす時間減るじゃん」
「ふふ、間に合わないの確定なんだ? マネさんに迷惑かけたらダメだよ」
「翠と一緒にお風呂だよ? 間に合うわけないよね」
「えっち」
配信開始までには充分時間はあるけれど、間に合わないらしい。実際に優佳里は以前配信に遅刻し、事務所にお呼び出しをされたことがある。
「……すい? 煽るのやめてもらってもいい?」
「えぇ? 煽ってないって。ほら、早く入っておいで」
「やっぱり一緒にはいろ」
「だめ。また間に合わなくなるよ」
「だよねぇぇ……はぁ、1人寂しく入ってくるわ」
しょんぼりしてお風呂場に向かう背中を見送ってソファに座り、まったりしつつSNSのアカウントで”パートナーが今日も可愛い”と呟けば、すぐに反応が返ってきた。誰かが早速見てくれたらしい。日々の出来事を呟くだけのアカウントで、優佳里はこのアカウントの存在を知らないし、教える予定もない。
入れ替えでお風呂に入り、そろそろ配信が始まるな、と配信画面を開けばすでに数千人が待機の状態で、相変わらずの人気ぶり。
『今日もお疲れ様です。神奈月 紫の配信へようこそ。来てくれてありがとう。今日は少し雑談をして、この前の続きからゲーム配信をやっていくよ』
画面が切り替わり、黒髪ショートに紫色のメッシュ、紫色の目のボーイッシュな女の子が映る。雰囲気が優佳里によく似ていて、イラストレーターさんって本当に凄いなぁと毎回思う。
流れる沢山のコメントを読みながら、和やかに配信をしていたけれど、次の一言でコメントの流れが変わった。
『今日の夜ご飯? 今日はね、同期とパートナーと焼肉に行ってきたよ』
コメント:
あっ
さて、今日はここからどれだけ語るのか
きたぞ
雑談配信で終わるな
焼肉羨ましい
紅蓮くんが配信切り上げたのってこれか!
『元々、2人でデートの予定だったんだけど同期からの会わせろ圧が増しててさ。本当は閉じ込めたいけど、1年以上経っても紹介も出来ないっていうのは心が狭いかなって思って。成長したでしょ? もちろん、パートナーが会いたくないって言うなら会わせないけど、会ってみたいって言うからさぁ。まぁ、同期たちも褒めたくないけど気のいい奴らだしいいかなって。そうなったら話は早くて、今からご飯行くけど暇なら来る? って聞いたら、集まった。あいつらフットワーク軽すぎ。今からって言えば無理かなって思ったのに配信切り上げて合流したやつもいたしさぁ……紅蓮っていうやつなんですけどね』
コメント:
草
やっぱり紅蓮くんか
最初から飛ばすなぁ
グレンのテンション上がりすぎてておもろかった
初見です。パートナー居るんですか?
『初見さん、いらっしゃいませ。大切なパートナーがいます。同性なのでパートナーシップを結んでいます。話す頻度が高いので、無理だなと思ったら早めに自衛してくださいね。私から控えることはないので。自慢だし、ちゃんと事務所からの了承も得ていて何も隠すことはありません。初配信からそれはお伝えしています。もちろん、パートナーの了承も得てますよ。恥ずかしがってはいるんですけど、仕方ないなぁって許してくれて。それがまた可愛くて。たまに話しすぎだって怒られますけど、溢れちゃうのはもう諦めてもらうしかないかなって」
コメント:
パートナーの惚気で時間を使い切った初配信は伝説
同期が男しかいなくても燃えないだけある
パートナーさんかわいい
紅蓮:こいつこれでも抑えてるから
草
まだ初配信を見ていない人は見るべき
グレン来た
これで抑えてるは草
『紅蓮がいるの? あ、ほんとだ。今日はありがとう。パートナーも楽しかったって』
今日初めて会った紅蓮さんは明るくて太陽みたいな人だった。2人揃うとIQが下がると言われていて、配信と変わらないやり取りが目の前で行われて他の同期さんと沢山笑わせてもらった。ちなみに、身バレするからお前ら黙れ、とも言われていた。本当にそのまますぎるから気をつけてもらわないとね。
本題のゲーム配信が始まった時にはすでに1時間が経っていて、今日は長時間配信になりそうだなぁと配信を流しながら先に寝る準備をする。明日も仕事だし、睡眠は大切だからね。
『ごめん、ちょっと待ってて』
コメント:
了解
はーい
寝る前の挨拶か?
先に寝ることを連絡すれば、配信から中断の声がして、ドアが開きパタパタと足音がする。
「毎回中断しなくていいのに」
「いや」
「リスナーさん待ってるよ」
「みんな分かってるから大丈夫」
ぎゅっと抱きしめられて深く息を吸われて、すりすりされるからくすぐったい。
「んー、いい匂い。ありがと。好き」
「ふふ、私も」
「あー、このまま一緒に寝たいー。……よし、充電完了。おやすみ」
「おやすみ」
おでこにそっと唇が落とされて、優しく微笑んで配信部屋に戻っていくのは毎回のことだけれど、物足りないなぁと思ってしまう。唇にしたら止まれないから仕方ないのだけれど。
今日も優佳里の配信を流しながら寝よう。夢の中でも会えるといいな。
*****
仕事を終えてスマホの画面を見れば、SNSの通知がすごい件数になっていた。何事……?
開けば、通知の数が1万を超えていた。嫌な予感がしてコメントを流し見れば、きっかけは1つの投稿のようだった。私の投稿を共有する形で、”こんなパートナー羨ましい”と投稿されており、バズっていた。
それで終わらず、過去の投稿と紫が配信で話した内容の照らし合わせがされていて考察が凄すぎて戦慄する。タイミングをずらしたり、ぼかしたりと匂わせにならないように気をつけていたのに、足りなかったらしい。まずは優佳里に連絡しないとな……
今日の優佳里の配信スケジュールを確認すれば、あと数十分で配信が始まってしまう。配信前の準備をしているだろう優佳里の邪魔はしたくないけれど、早めに連絡を入れるべき内容だよね……
『すい? 仕事終わったの?』
「うん。配信前にごめんね。大丈夫?」
『もちろん。どうした? 何があった?』
「何かあったことは確定なんだ」
『そりゃあね、何年一緒にいると思ってるのさ。それで、どうした?』
電話越しの私の声を聞いて、瞬時に何かあったと気づいてくれる。こういう所が本当に凄いと思う。
「あのね、SNSアカウントがあるんだけど、紫のパートナーだろうって特定されちゃったみたい。ほぼ確実だろう、って盛り上がってて通知が止まらない。アカウント名は送ったから、確認してもらってもいい?」
『そういう事か。連絡ありがとう。マネちゃんと相談するから一回切るね。気をつけて帰っておいで』
「うん」
配信前に申し訳ない気持ちはもちろんあるけれど、同じくらい、私の投稿が優佳里に見られると思うと恥ずかしい。
帰宅途中にメッセージが入って、マネさんたちにざっと確認してもらい内容は問題ないこと、パートナーのアカウントって認めても良いかの確認が来ていた。優佳里ならそう言うよねぇ。恥ずかしいから投稿の頻度減らそうかな……
配信が始まったからイヤフォンで聴けば、明らかにウキウキした様子の配信が始まった。
『今日もお疲れ様です。神奈月 紫の配信へようこそ。来てくれてありがとう! 今日はね、配信の前に少しだけお知らせがあるんだ。SNSで私のパートナーに違いない、って投稿が拡散されている件、みんな知ってるかな?』
コメント:
ウキウキしてるの隠せてなくて草
知ってる
この話少しで終わる?
相手がゆかりさんじゃなくても微笑ましい投稿が溢れてて素敵だった
パートナーの事大切なんだなって分かる投稿でとても良い
知らなかったけど、探してくる
『知っている人が多そうかな。事務所とパートナーの了承も得られたから伝えておくと、本物のパートナーのアカウントでした。私も知らなかったんだけどね』
コメント:
マジか!!
本物?
認めるのさすが紫さん
見てきます
紫さんじゃなかったら炎上しそう
『というかさ、考察班凄すぎない? ざっと見たけど、匂わせなんてしてないじゃん。してくれてたっていいのにさ。私が最初に見つけたかった!!』
コメント:
草
草
草草草
草
『仕事終わりにね、すぐに連絡くれて。声がもうさ、落ち込んでて可哀想で可愛くて。抱きしめたいのになんで目の前に居ないのかなって思ったけど、帰ってきたらの楽しみにしておく。過去の投稿見た? 私のパートナーさ、私の事好きすぎでしょ。もちろん、それ以上に私の方が好きだけど。負けない自信あるけど』
コメント:
おお、今日は一段とすごい
見てきたけど確かにこれは限界化するか
お互い感情が重そうで非常にいいと思います
競ってるw
『お互い感情が重い、そうだね。私はパートナーが居ないと生きていけないから。パートナーもそうだといいなぁ』
コメント:
感情こもりすぎ
冗談じゃないもんなぁ
気軽にコメントしたら凄い返しが来てやばい
『あ』
コメント:
うん?
どうした?
フリーズした?
『私も、ってメッセージが来たよ。嬉しいなぁ……大好きだよ』
コメント:
えっっっ
切り抜き確定です
やっば
普段から甘いと思ってたけど、この声はちょっとまずいですよ
『あ、ごめん。普通に素だった。んんっ、そろそろゲームの続きやろうかな。あと2回くらいでクリア出来そうな気がするよね』
コメント:
恥ずかしがってる紫ちゃんレア
かわいい
かわいい
『あー、コメントが可愛いで埋まった……こういうときの団結力すごいよね、みんな』
リスナーさんとの掛け合いは微笑ましいけれど、大好きは私だけに聞かせて欲しかったな、なんて嫉妬してしまう。私が我慢できなくてメッセージを送っちゃったのが悪いんだけど。
帰ったら私だけに沢山聞かせてもらおう。私も沢山伝えるから。ずっと一緒にいようね。




