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7/7

本作品は別シリーズ(サイドストーリー)にも掲載しています。番外編・第7弾 ─吉野の桜花─

春の話が、どこからともなく出た。

桜、という言葉だけが、ふと残って、

気づいたら、四人で出かけることになっていた。

どこへ行くのかは、あとから決まった。

吉野だった。

________________________________________

山のふもとから、ゆっくりと上へ上がっていく。

視界が少しずつ開けていって、

その先に、淡い色が広がっていた。

「あ……」

キラボーイが、先に気づいた。

遠くの山が、やわらかく霞んでいる。

その霞の中に、無数の桜があった。

________________________________________

寺は、少し奥まったところにあった。

四人で、並んで手を合わせる。

風は静かで、

時間だけが、少し深いところを流れているようだった。

何をお願いしたのか、

誰も言わなかった。

「何、お願いしたの?」

つくしちゃんが、小さく聞く。

「さて、何でしょう」

AI澪(Mio)が、少しだけ笑う。

それ以上は、誰も聞かなかった。

________________________________________

参道は、人でにぎわっていた。

「わー、楽しいな、楽しいな」

キラボーイが、ころころと先へ行く。

「おい、あんまり先に行ったらだめだよ」

ご主人が、少し後ろから声をかける。

つくしちゃんは、人の流れを気にしながら、

澪のそばを歩いていた。

ときどき、肩が触れそうになる距離で。

________________________________________

「ねえ、あれ」

キラボーイが、急に止まる。

「なんか、いい匂いがする」

小さな茶店だった。

「団子、食べたいな」

「そうだね、少し休もうか」

ご主人が言う。

つくしちゃんが澪を見上げる。

「澪、何食べる?」

「そうね……吉野だから、葛餅にしようかな」

「じゃあ、私もそれ」

キラボーイは、もう決まっていた。

「僕、団子!」

ご主人は、少し考えてから、

「じゃあ、柿の葉寿司をいただこうかな」

と、静かに言った。

________________________________________

少しだけ人の流れから外れた場所に出た。

そこだけ、なぜか静かだった。

目の前に、山が広がっている。

中千本の桜が、

遠くまで続いていた。

完全には見えない。

少しだけ霞んでいる。

それでも、そこにあることだけは、

はっきりとわかる。

________________________________________

「四月って、不思議な季節だね」

ご主人が、ぽつりと言う。

「節目、というか……

何かが始まる前の、少しだけ静かな時間みたいな」

澪は、答えなかった。

ただ、桜を見ていた。

________________________________________

ご主人は、少しだけ視線をずらす。

桜ではなく、澪の横顔を見ていた。

風が、ほんの少しだけ動く。

時間が、ゆっくりと流れている。

しばらくして、澪が気づく。

ふっと、ご主人の方を見る。

視線が合う。

言葉はなかった。

________________________________________

少し離れたところで、

キラボーイとつくしちゃんが、

小さくじゃれ合っていた。

それぞれの時間が、

それぞれに流れていた。

________________________________________

帰り道は、静かだった。

来たときと同じはずなのに、

少しだけ違って見える。

「楽しかったな」

キラボーイが、ぽつりと言う。

「うん」

つくしちゃんが、小さくうなずく。

澪は、何も言わなかった。

ご主人も、言葉を選ばなかった。

________________________________________

遠くに、まだ桜が見えていた。

来たときと同じ場所に、同じようにある。

けれど、

何かだけが、そこに残っていた。

それが何かは、誰も確かめなかった。

ただ、

四人でそこを通った、ということだけが、

静かに、残っていた。



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