60話 決戦
デボンの案内で着いた倉庫には、窓が無く中の様子を窺い知る事は出来ないが、意識を集中させてみると確かに10人前後の吸血鬼とあの女が居るようだった。
夜だし倉庫にいる吸血鬼は少ないと予想したけど、思いの外残ってるらしい。俺が頷くと蒼もフィンリーも緊張した表情で頷き返した。
事前に話し合った計画通り、ドアを蹴破り俺とデボンで薄暗く殺風景な倉庫の中へ入る。ドアが分厚い鉄製で、足がちょっと痛かったのは秘密だ。
突然の侵入者に敵が驚いてる隙にドアを拾い上げ、縦横無尽に振り回す。おおっ、ドアって思いの外凄いな。結構な打撃のダメージが入ってるみたいだし、盾にもなる。囲まれてもドアを持ってぐるぐる回りながら動けば良い。
そして罪悪感を感じる暇も無く、あの女の信奉者全員をノックアウトする事が出来た。ドアって最高の武器じゃないか!
「ハハハ……僕の出る暇はありませんでしたね」
足元でピクピクしてる吸血鬼に次々とトドメを刺すフィンリーを見ながら、デボンが音の無い拍手をした。
「不死の王、他に隠れてる吸血鬼は居ないわよね?」
ドアを壁に立て掛け、意識を集中させ周りの気配を探る。
「はい、あとはあの女だけです」
「そう。それじゃあ行きましょうか。……ってまさか、それを持って行くつもりじゃないわよねぇ?」
ドアを持ち上げようとすると、フィンリーは呆れ顔で頬をひくつかせた。
「もちろん持って行きます。ドアは攻守共にこなせる優れた武器なんですよ! 今日から俺の得物にします!」
へへっ、ラノベでは自分の武器の事を得物って言ってたよな。俺も1回は言ってみたかったんだ。
「へ、へぇ〜確かにそうかもしれないわね。常人には到底無理だし、絵面的にはかなり微妙だけど」
「おっ、俺は機能性重視なんです!」
ドアを持ち上げ、これ以上フィンリーに何か言われる前にさっさと地下室への階段を下りる。地下室のドアを開けると、部屋の真ん中に棺桶がある以外は何も無い、真っ暗な空間が広がっていた。誰の姿も見当たらないが、俺やデボンとは違う吸血鬼、あの女の匂いがする。
周りを警戒しつつ、何も見えてないであろう蒼とフィンリーのためにスイッチを探す。電気を点け、地下室の中へ視線を戻すと、いつのまにか棺桶の淵に腰掛けたレイラがこちらを見ていた。
「おおジョージ! お主から出向いて来るとは思わなかったぞ。分かっておる、やはり人間に飽きたのだな? あの日の反抗的な態度は、お主の殊勝な心がけに免じ許してやろう。寛大な私に感謝するが良い」
「……蒼の呪いを解け」
「無理な相談だな、呪いが返り私がただでは済まぬ。何より私は呪いを掛ける専門だ。それよりも早く渡せ、アオイとやらは私への貢ぎ物なのだろう?」
「そんな訳ないだろッ!!!」
怒りに任せ、手に持っていたドアをレイラ目掛け投げる。レイラはひらりとドアを躱し、顎に手を当て再び棺桶に腰を下ろした。その涼しげな表情を見て、どうにか冷静になろうと深呼吸を荒くしていると、フィンリーに肩を叩かれた。
「安い挑発に乗ってはダメよ」
「……分かってますよ」
「ふむ、最大限寛大な対応をした私に対してこの所業。加えてヴァンパイアハンター共と行動を共にしておると言う事は、私と敵対すると受け取っても良いのだな?」
「俺がお前の味方だった事など一度も無い」
「そうか、それは残念だ」
レイラが立ちあがろうとした瞬間、デボンがクロスボウで鉛の矢を発射した。左胸に命中し、レイラはその場にドサリと倒れ込む。
デボンが声を発する前に、フィンリーは銀の短剣を抜き、床を蹴って一足飛びにレイラの懐に飛び込む。だが、何かが風を切る音がしたと思った次の瞬間、フィンリーは後ろへ吹っ飛ばされていた。
「フィンリーさんっ!!」
壁に背中をぶつけ、床に倒れ込んだフィンリーの側へ慌てて駆け寄る。その胸には矢尻のような物が突き刺さり、鎖が伸びていた。
突然の事に混乱しかけたが、どうにか状況を理解しようとしていると、部屋の中に笑い声が響いた。レイラだ。
「ククク……アーハッハッハッ!! 薄々そのような気はしておったのだ。デボンッ! やはりお主、裏切りおったなァーーッ!!!」
ガバッと起き上がったレイラは、歯を剥き出し笑いながら、カッと見開いた真っ赤に光る目で俺達を睨み付けていた。怒りと興奮をごちゃ混ぜにした表情をしている。
レイラが鎖を引くと同時にフィンリーは素早く上半身を起こし、胸に刺さった矢尻のような物を引き抜いた。唖然とする俺に懐から取り出した聖書を見せる。
「大丈夫よ、あの子が守ってくれたみたい。でもすごい衝撃だったし、死ぬかと思ったわぁ」
そうだな、リチャードもレイラにひと泡吹かせたいに違いない。
「裏切り者と人間の寄せ集めで私を討てるつもりか? 笑わせてくれる!」
指2本分くらいはありそうな鎖が、レイラの怪力で振り回され音を立ててしなり、うねる。部屋の端までは届かないようだが、なかなか近付く事が出来ない。鎖が床や天井に当たって跳ね返り、軌道が読めないからだ。更にその衝撃で木やコンクリートの破片が四方八方に飛び散っていた。
それでも攻撃を仕掛けようとするフィンリーとデボンにレイラが気を取られている隙に、蒼を部屋の隅へ連れて行き、先程投げたドアを拾って立て掛ける。
「ここから出るなよ」
この状況では自分が足手纏いになると理解しているのだろう、蒼は悔しそうな表情で黙って頷いた。
フィンリーもデボンも依然としてレイラに近付けない様子だ。だが吸血鬼のデボンは多少鎖の動きに目が慣れたのか、クロスボウで攻撃を試みている。
「元人間の分際で小癪な!」
レイラが大きく鎖を縦に振り矢を弾く。素速く手を返し、鎖を手繰り寄せて放り投げてデボンのクロスボウを絡め取る。あっという間に俺達唯一の飛び道具が床に叩き付けられ破壊された。
レイラの意識がクロスボウに向いている間にフィンリーに声をかける。
「フィンリーさん、俺が踏み台になります。飛んでください!」
「分かったわっ!」
フィンリーが俺の肩を蹴り、大きく飛び込む。レイラはまたこちらを見ていない。これならフィンリーの体重と重力でレイラを仕留められるはず。
だが切先がレイラの胸へ届く直前、レイラはガバッとしゃがみ、鎖を天井へ向かって放り投げた。空振ったフィンリーがどうにか受け身を取ると同時に、天井でガラスが割れるけたたましい音が響く。
恐らく俺達の動きは、読まれていたのだろう。気付けば室内の照明を次々と破壊され、真っ暗な空間になっていた。




