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不死身のチキン 〜ミイラだった最強の吸血鬼は現代社会でささやかな幸せを手に入れたい〜  作者: 甲野 莉絵
婚約者との戦い

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58話 裏切り者の言い分3

「レイラ様と僕達は、元部下の1人がフィンリーさんに退治された一件以来、こちらの倉庫に居を移しています。以前はレイラ様の部下も沢山いたのですが、禁忌を犯したレイラ様を恐れ今では10名ほどがこの倉庫の1階にいる限りです」


「10ね……。アタシは正直厳しいかもしれないわ。不死の王はどう?」


「そんなの朝飯前ですけど、進んで同族とは戦いたくないです。憎いのはレイラなのであって、他の奴は違うと言うか……。無駄な戦いや殺しを避けられるならその方が良いじゃないですか」


「はぁ〜、本当あまちゃんねぇ。アタシがトドメを刺すから、不死の王は相手を無力化させるだけで良いわ。言っておくけど、命令次第で、アオイさんを平気で傷付ける様な奴らなのよ?」


「分かってますよ……」


 フィンリーは仕事だからそう言うものなんだろう。だけどデボンはどうなんだ? あれ、俺の意見に対してキョトン顔をしてる。まさか俺がおかしいのか?


「これは驚いた。吸血鬼は僕を含めて皆、多少なりとも好戦的なものですが……。純血の吸血鬼ならば尚更その気が強いのかと思っていました」


 実際俺のこの甘さで蒼は呪われてしまったんだ。吸血鬼らしくかは分からないけど、抵抗する奴には容赦しないくらいの意気込みでいかないとな。


「私、せめて自分の身は自分で守れるようにしたいです。聖水を霧吹きに入れて持ち歩けば多少は安心でしょうか?」


「ほっ、本当に一緒に来るつもりなのか!?」


「ええ、デボンさんの意見も一理あると思って。それに前にも言ったけど、家でぬくぬく待っているなんて出来ない。でも足手纏いにもなりたくないから、こうしてフィンリーさんに相談しているの」


「それなら俺の側を離れなければ良いだけだ! 蒼が──」


「待って、皆まで言わないで。私、後悔するのは嫌なの。あの時、私が守られていたせいだってね」


「そうね、そうねっ! 霧吹きは良いアイデアよ。威力は無いけど、広範囲に広がるから確実に相手が怯むわ。それからアタシの予備の十字架をプレゼントしちゃう。でも危ない時は不死の王やアタシの側にいるのよ?」


 フィンリーはポケットから親指大の十字架のペンダントを取り出し蒼に渡す。うわぁ、全然怖く無いんだけど何だか近寄り難い。


 おろしたての靴を履いた日に、大きな水溜りを見つけたような気分だ。デボンなんて後退りしてるくらいだから、たぶん効果はあるんだろう。


「うん、蒼の身を守れるなら良いと思うけど……。別に今は付けなくてもいいんじゃないか?」


「ええー? そんな事を言いながら平気そうに見えるけど? どうせ『少し嫌な感じがする』くらいなんじゃないの?」


「本当、不死の王って規格外よねぇ?」


 うっ、それって褒め言葉なのか? なんか馬鹿にされてる気がするんだけど。デボンは十字架から目を逸らし引き攣った笑みを浮かべる。


「僕としても出来たらそれは、仕舞っていただけるとありがたいですね。ですがレイラ様の不調の原因が分かった今、ジョージさんの催眠術が効く可能性も見えてきました。そうなればレイラ様抹殺の難易度も格段に下がるはずです」


「いいえ、それは無理ね。不死の王はレイラ コリンズとキスしてしまってるの」


「ほうほう、現状レイラ様と名実共に“婚約者”状態と言う訳ですか」


 心の底から湧き上がる苛立ちをグッと堪え頷く。


「そうなると、僕が当初考えていた案が良さそうです。ここへ来る前レイラ様に、僕は何の面識もないヴァンパイアハンターで、左側の胸にクロスボウでこの鉛の矢を打ったら、死んだふりをするようにと伝えておきました。ですからフィンリーさんは僕が合図をしたらレイラ様の右胸に銀の短剣を突き立ててください」


「……アタシ達がそれを鵜呑みにすると思ってるの? 出来すぎよ! レイラ コリンズの住処だって、貴方の動機だって嘘の可能性があるじゃない」


「うーむ……僕が嘘を吐いていない証明ですか。それは難しいですが、僕とジョージさんの血を少量交換すれば、僕が裏切る素振りを見せたとき、僕を縛る事が可能ですよね?」


「……血で支配する? そんなの嫌です!」


 頭を振り後ずさる。確かにその方法が1番確実だし、人間を吸血鬼にする工程と同じで簡単だ。俺が支配すれば元人間のデボンは確実に逆らえなくなるだろう。


 だけど、だけどっ……血で支配するなんてそれこそ吸血鬼がする事だ。そんな事をしてしまえば、体だけでなく心まで吸血鬼になってしまいそうな気がする。俺は心だけでも人間でいたいんだ。


 ジリジリと後ずさると蒼の肩にぶつかった。蒼が俺の手に手を重ね静かに頷く。その優しい温度はまるで『嫌だったらやらなくてもいい』と言ってるようだ。


「……分かりました、やります。少し待っててください」


 何か生き血の匂いと味を紛らわせられる物を探しに行こうと立ち上がりかけると、蒼が服を引っ張った。


「少しだとしても血を飲まないといけないんでしょ? 本当に良いの? それに貴方は……」


 蒼はフィンリーとデボンを見てハッと口をつぐむ。そこまで見破られてるなんて、やっぱり蒼には敵わないな……。


「良いんだ。蒼は忘れてたかもしれないけど、俺だって吸血鬼なんだぞ?」


 無理してるのがバレないように笑って見せた。だけど、ここまで言い切っても正直怖い。この怖さはきっと血の交換と言う吸血鬼的な行為を心が全力で拒否してるからだ。


 心身共に吸血鬼になってしまえば、俺は蒼に嫌われてしまうだろう。だからこそ、そう思ってればきっと心だけは人間でいられるはず。


 決意が揺らがないうちにキッチンでグラスにぶどうジュースを注ぐ。ああ、この先しばらくトラウマでぶどうジュースが飲めなくなりそうだ……。


「デボンさん、この中に血を入れてください」


 デボンはナイフで指先を切り、グラスに血を垂らす。うわぁ、臭い。男の血のあまりの匂いに涙が滲む。俺はこれから、これを飲まないといけないのか……。


 それにしてもコイツ思ったより入れやがったな。1、2滴入れてもらうくらいのつもりだったのに……。


 息を止め、覚悟を決めて一気にグラスを煽り、口の中の物を何とか飲み下す。勇気を出して息をしてみた。おっ、ぶどうジュースの効果か思いの外、生臭い匂いや血の味は気にならないぞ。


 そう思った次の瞬間、体がカアッと熱くなるような、心地良く高揚感溢れ、力がみなぎる嫌な感覚に襲われた。

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