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不死身のチキン 〜ミイラだった最強の吸血鬼は現代社会でささやかな幸せを手に入れたい〜  作者: 甲野 莉絵
婚約者との戦い

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57話 裏切り者の言い分2

「まさかあの女を排除して吸血鬼のてっぺんにでも立とうとでも考えて……?」


「自分の病院でご遺体の血を啜っている僕が、そのような大それた事を実行すると思いますか? それはそうと、人工血液とは素晴らしい物ですねぇ! レイラ様は味気ないと評しておられましたが、僕は美味だと思いましたし、大変興味深い技術でもあります」


「本当ですか! 医師として現場に出られている方のご意見は大変参考になります! 是非今度──」


 目を輝かせ、鼻息も荒くデボンへ近寄って行く蒼を抱き寄せる。相手が危険人物と言う以前に、なんか波長が合ってるように見えて不愉快だ。


「……さっさと話を続けてください」


「はい、僕は元々ヴァンパイアハンターでしたが、350年ほど前、偶然出会ったレイラ様に一目惚れし、吸血鬼にしていただいたのです。それからは血を得るため医師になり、ヴァンパイアハンターと2足の草鞋で細々とレイラ様をお支えしてきました」


 恥ずかしそうな表情をしてたと思えば、うっとりした表情になり、最後には表情が消えた。何だか怖い。


「しかしあの方は同族を襲う怪物に成り果ててしまった。ヴァンパイアハンターとして命懸けで潜入する僕の事すら忘れかける始末……」


 目を見開き、ひと息にそう言うと今度は穏やかな笑みを浮かべた。


「不調で喘ぎ、同族の血を啜ると言う禁忌を犯しても尚、いいえその自責の念から更に苦しみ続けるレイラ様を放っておく事など出来ません。ですから忠実な(しもべ)である僕があの方に引導を渡し、救って差し上げる事にしたのです」


 いや、あの女は例え禁忌を犯しても自責の念に駆られる事はないだろう。それ以前に元人間の吸血鬼は、あの女にとって同族じゃないのかもしれない。しかしこいつサラッと恐ろしい事を言うな。


「待って……。もしかしてレイラ コリンズが復活したのはデボン、貴方が原因!?」


 それまで黙りこくってたフィンリーがテーブルを叩きながら鋭い声で叫んだ。そうか、そう言う事か。


 フィンリーの話によれば、今から300年くらい前にあの女を討伐する作戦があったらしいから、その時既にあの女の信奉者になってたデボンがヴァンパイアハンター側の作戦を漏らしたんだ。でもどうやってあの女は死んだように見せかけたんだ?


「ええ、強く美しく誇り高いレイラ様には是非生き延びてもらわねばと思いましてね。ヴァンパイアハンター仲間を騙し、大急ぎで銀の純度を落とした矢を作らせました。いやぁ、あれは一世一代の大勝負でしたよ。そしてジョージさんが復活した現代で、レイラ様にもお目覚めいただいたのです」


 俺やフィンリーが言葉を失ってると、蒼がそろりと手を挙げた。


「あのー、デボンさん。ひとつ気になった事があるのですが。もしかして偽の銀の矢は相当な粗悪品だったのでは?」


「ええ、お恥ずかしい話かなり切羽詰まっていたので、渋る職人を説得して鋳型から出したばかりの物を使いました」


「やっぱり。レイラが譲二さんや他の吸血鬼の血を薬として求めるようになった理由は、偽の銀の矢が原因かもしれません。私の予想でしかありませんが」


「──まさかッ! 銀が残留している……? いや、しかし……」


 まるで目の玉がこぼれ落ちそうなほどに目を見開き、ブツブツと呟くデボンの横で、フィンリーが首を傾げる。


「どう言う事?」


 頭を抱えるデボンを蒼は呆れと気の毒な感情が入り混じった目で見ると、銀の指輪を外しながら説明した。


「以前テレビで見たのですが、金属を鋳型から取り出した際、表面はざらざらしていて、場合によってはトゲのようにはみ出した部分もあるそうです。鋳型から出した状態のままレイラの心臓に刺さったと考えると……」


「そのトゲが外れて、レイラ コリンズの体の中に残ってると言う事ね!」


「ええ、確証はありませんが」


「うん、今までに聞いた話を纏めると、充分あり得る考えだと思う。そしてその事にあの女自身気付いてないんだ」


「アァァァッー! 僕はなんて言う過ちを……。レイラ様がああなってしまわれたのは僕のせい……?」


 頭を掻きむしるデボンをフィンリーは冷めた目で見る。


「今更悔いても何も起こらないわよ? 口から出た言葉が無くならないようにね。貴方、レイラ コリンズに引導を渡すって言ったわよねぇ? アタシ達が欲しがりそうな情報ってなぁに? 今更忘れたとは言わせないわよ」


 鋭い目で睨むフィンリーにデボンは歪んだ泣き笑いの表情で頷いた。


「ええ、分かっています。僕のせいでレイラ様が苦しんでおられるのなら、尚更早く楽にして差し上げなくては。普通心臓とは左寄りにあるはずですよね? ですがどう言う訳かレイラ様の心臓は右寄りにあるのです」


「へぇ〜珍しい事もあるものなのねぇ」


 フィンリーはそう頷いたけど、俺は別の意味で不安に駆られていた。よくある吸血鬼の設定で、体が生きてすらいないと聞く。自分の胸に手を当ててみる。


「そんなに不安そうな表情をしなくても大丈夫よ。人間でもごく稀にだけどそう言う人はいるの」


 違う、そうじゃないんだ。でも怖くてその考えを口に出せない。すると蒼が素早く俺の胸に耳を当てた。


「──っ!」


 不安と恐怖で身がすくむ。もし俺の心臓が動いてなかったらどうしよう。よりによって1番知られたく無い相手に知られるなんて……。無言の時間が途方もなく長く感じられた。


 でも……僅かに掛かった蒼の体重と、間近で感じるシャンプーの匂いにハッと気が付き、ドキッとした。それにさっき蒼が髪を耳にかけた動作は何だか色っぽかったな。


「うん、譲二さんの心臓は左側で脈打っている。大丈夫、レイラが特異体質なだけね」


 そう言いながら蒼は満足気に笑う。心臓がちゃんと動いてて、しかも左側にあって本当に良かった。


 でも蒼の爽やかな笑顔は何だかムカつくな。知的好奇心を満たせたと言わんばかりだ。うぅ〜俺だけドキドキして恥ずかしい。何だか負けた気分だ。


 くそーっ、この件が済むまで俺から蒼へのスキンシップは禁じられてるから、何の反撃も出来ないのがより一層悔しいな。

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