56話 裏切り者の言い分
素早く聖水入りの銃を構えるフィンリーと、臨戦体勢になる俺を見て、デボンは両手を上げる。
「ここで僕を殺せば、あなた方はレイラ様にトドメを刺す事は叶いませんよ?」
デボンの太々しい反応にため息を吐きながら、とりあえず後ろ手に拘束する。
「ヴァンパイアハンター的には裏切り者ってどうするんですか?」
フィンリーはデボンに銃口を向けたまま答えた。
「流石に吸血鬼に潜り込まれた前例はないわねぇ……。まずはどこまでアタシ達の秘密を知られてるか確認したいけど、相手がベテランだと思うと絶望的ね……。いっその事今すぐ退治してしまおうかしら?」
「フィンリーさんの仕事は理解しているので、止めはしませんが……。せめて蒼がいない場所でにしてください」
「ちょ、ちょっと譲二さん、落ち着いて。フィンリーさんもです。この人は話したい事があったから、危険を犯しても私達に近付いたんですよね?」
蒼がそう言うとデボンがガクガク頷いた。
「そうですよ、このまま何も話せずに退治されてしまうのかと思いました。あなた方はとびきりの情報を逃していたかもしれないんです、冷静なアオイさんに感謝すると共にきちんと反省してください」
「「すみません」」
ん? 俺は何を謝ってるんだ? この男、柔和な笑みを浮かべながら底意地が悪いな。俺たちが問答無用で退治する事を選んでたら、秘密は墓場まで持ってくつもりだったのか?
「……とにかくその秘密とやらを聞き出すとしますか。フィンリーさん、何か拘束出来る物は持ってますか?」
「無いわね。アタシ達はその場で退治する事が鉄則だから。不死の王、貴方がそのまま拘束してれば良いじゃない」
「……俺がずっと? いやいや、ロープでぐるぐる巻きにすれば良いじゃないですか」
「はぁ……貴方が逃げようと思ってる時にロープで拘束されたらどうするかしら? 引き千切って逃げようと思わない? だけど貴方が後ろから手足を回して拘束すれば、逃げられる吸血鬼なんて居ないわ」
「なんと、なんと! 僕に逃げるつもりは毛頭ありませんが、それは良い提案ですねぇ〜。間近でかつ、肌で強い吸血鬼の気配を感じられるとは」
渋々頷きかけてたけど、うっとりした表情で変態チックな事を言うデボンを見て、全身に鳥肌が立つ。他意は無いんだろうけど、何だかやらしく聞こえ、思わず手を離した。さっきまでと雰囲気が変わり過ぎだろ!
「絶っっっ対に嫌です!! 本人が逃げないって言ってるんだから信じてやりましょう! いざと言う時は取り押さえられるよう、絶えず目を光らせてますから!」
フィンリーは小さくため息を吐きながら拳銃を下ろし、スマホでビデオを撮り始めた。
「分かったわ。だけど協会への証拠として録画するわよ。デボンファレル、アオイさんと不死の王に感謝なさい。何か事情があるようだけど、この2人がいなければ貴方は即刻退治されてたのよ。レイラ コリンズの部下である貴方はリチャードの仇、アタシは絶対に貴方を許さないから」
「はい。フィンリーさん、貴女にならば殺されても仕方ないと思っていました。レイラ様に未熟なヴァンパイアハンターがいると、リチャード君の事をお知らせしたのは僕ですから。せめてもの罪滅ぼしにリチャード君の遺体を引き取り、荼毘に付しましたがね」
「…………そう」
フィンリーは無理やり心を落ち着かせるように、大きく深呼吸してから頷く。膝の上で拳を握り締め、どうにか声を絞り出したが、まだ治らない腹の虫と必死に戦ってるように見えた。フィンリーに代わり俺が質問する。
「何故あの女を退治しようとする俺達の中に入った……んですか? バレたらその場で退治されるリスクもあったし、どのみちただでは済まないと分かっていたでしょう?」
「リスクですか……それはあまり考えていませんでしたね。フィンリーさんは僕の事を信じ切ってくれてましたし、ジョージさんも会った瞬間には僕の正体に気付かれませんでしたよね?」
「そっ、それは……!」
「いいえ、ジョージさんが気にする事ではありません。レイラ様も『弱き者の気配など分からぬ』とおっしゃっていましたから、そう言うものなのでしょう。ですが僕達にとっては、純血の吸血鬼にこうして近付く事で感じられる強い気配は、大変心地良いものなのです」
そうか、同じ吸血鬼と括っても感じ方の違いがあるんだな。俺には分からない感覚なのだろう。
「まあ、気付かれたとしてもレイラ様に関しての情報提供を持ちかければ、即刻退治される事は免れるだろうと予想していましたからね」
そして実際そうなってる訳だからな。スパイをやってただけの事はある。
「現在、僕には達成すべき目的があります。そのために協力を仰ぐ相手は、強く優しく互いに頼れる存在であってほしい。ずっとそう思っていました。貴方は遅れて来た僕から飲み物を礼を述べて受け取られた。些か不安な所もありますが、アオイさんとおられれば問題無いでしょう」
なんだこいつ。捕まってるくせに、なんか偉そうな事を言い始めたぞ。思わず蒼と顔を見合わせる。
「僕はあなた方とは違う目的で、レイラ様を抹殺しようと考えているのです」




