55話 疑念
家に戻り少しすると、デボンからあの女の住処を見つけたと連絡が来た。また、ヴァンパイアハンター協会が明日の早朝にでも、あの女の討伐作戦を決行すると言う噂も入手したらしい。
そうなれば、親族のリチャードを殺されてるフィンリーは、冷静さを失う危険があるとして作戦への参加を許されなくなるそうだ。
どちらにしろあの女の信奉者に蒼の姿を見られてる以上、早めに動いた方がいいだろう。と言う訳で今晩家で作戦会議をして、協会が動く前に俺達で決着を付ける事に決まった。
「こんばんはぁ〜。やっぱりデボンはまだ来てないのね」
フィンリーはリビングを見回し苦笑した。
「特に何時って決めてる訳じゃないんで、そんな言い方しなくても……。そう言えば俺達との待ち合わせの時も遅れて来てましたけど、デボンさんって遅刻癖でもあるんですか?」
「ええ、本人がいない所で言うのも良く無いけど彼、3回に1回くらいは遅れて来るのよぉ。だからもしかして〜って思ったの。それとわんぱくなところもあるの」
「『わんぱく』ですか?」
「ふふっそうなのよ〜、普段は落ち着いてるのに、スリルを楽しみたいからって、吸血鬼が活発になる夜の仕事を敢えて選ぶの。こっちが不利になるのに不思議よねぇ? まあスケジュール上、夜にしか出来ない仕事もあるから、助かってるんだけど」
敢えて夜の仕事を選ぶだって? やっぱり──。
「あのデボンって人もしかしたら吸血鬼かもしれない」
あっ、うっかり思ってた事が口から出ちゃった。確証を得るまで誰にも言うつもりは無かったのに……。うぅ、フィンリーがこっちを睨んでる。
「は? 何をおかしな事言ってるの? 不死の王って冗談のセンスが悪いのねぇ?」
俺に詰め寄るフィンリーとの間に蒼が割って入る。
「譲二さん、どうしてそう思ったの? 何の証拠も無いのなら、仲間を悪く言われたフィンリーさんが怒るのも仕方ない事よ」
「え、ええと……デボンさんから吸血鬼特有の匂いがしたんです。かなり薄かったので、初め会った時は移り香かとも思ったんですけど、フィンリーさんのとも違うし……。それに──」
その時玄関の呼び鈴が鳴った。恐らくデボンだろう。ゴクリと唾を飲み込む。デボンの身の潔白を信じてるフィンリーもどことなく緊張した様子だ。3人で目配せして、俺が応対に玄関へ向かう。
ドアを開けると予想通りデボンが立っていた。「こんばんは」と言われ、咄嗟に貴族スマイルを取り繕い、何とか挨拶を返す。隠し事って本当疲れるな、気を引き締めなくては。
……そう言えば吸血鬼って家主に招き入れてもらわないと、家に入れないって読んだ事があるけど実際どうなんだろう? ラノベ知識と現実は違う事も多々あるし。
うーん俺は……いつも招き入れてもらってるから参考にならないな。よし、いっちょ試してみるか。そう思ってると、後ろから蒼が顔を覗かせデボンに頭を下げた。
「デボンさん、こんばんは。どうぞ上がってください」
「あ、蒼っ!?」
デボンは固まる俺に会釈して横を通り過ぎて行く。
「アオイさん、こんばんは。お邪魔しますね。
「デボーン遅かったじゃなぁい!」
リビングから聞こえたフィンリーの声で正気に戻り、慌てて蒼の側へ駆け寄る。
「そ、そう言えば、お2人とも喉乾いてません? 何か飲みますか?」
「アタシはミルクティー!」
「ではコーヒーをいただけますか?」
「分かりました! 蒼っ、手伝ってくれ」
「はいはい」
ガチャガチャとカップを用意し、お湯を沸かしながら蒼に尋ねる。
「……どうして怪しい奴を家に上げちゃうんだよ。あの男は吸血鬼かもしれないんだぞ?」
「それにしたって態度に出過ぎよ。『怪しんでいます』って言わんばかりだったわ」
「相手はあの女の信奉者かもしれないんだ。そしたら蒼の身が危ないんだぞ?」
「いいえ、そうだとすれば1番狙われているのは譲二さんよ。今ここには貴方に加え、フィンリーさんもいるの。そんな中で滅多な事は出来ないと思うけど?」
「でも俺はあの時蒼を守れなかった男だ……。信頼なんてしない方が良い」
「確かに頼り無い所もあるけど、私にとって譲二さん以上に信頼できる相手なんて居ないわ」
「……えっ?」
「さあ、飲み物の準備も出来たし行きましょう」
ポカンとする俺の横で蒼がササッとトレーにマグカップを乗せ、リビングへ向かった。慌てて後を追い、蒼とデボンの間に陣取る。
デボンはコーヒーをひと口飲むと、スマホでマップを出した。
「レイラ コリンズの住処は、少し分かり辛い場所ですがここ、今の時期は使われて居ない倉庫でした。お二人の後をつけていた吸血鬼が急いで帰って行く後ろを、気配を殺して追いかけ、中にレイラ コリンズが潜伏している事も確認しましたので間違いありません」
うん、やっぱりこのデボンって男怪しいな。俺達と別れてから、真っ直ぐあの女の住処とやらへ行ってたよな?
キャラメルの包み紙で折っておいた蝙蝠の折り紙に、爪に残ってた血をほんの少し付けて俺の分身のような物を作っておいた。別れ際それをデボンのコートの襟に挟んで、様子を探ったから間違い無い。
まあ元々レイラの住処を突き止めてた可能性もあるけど、わざわざ隠して何の徳がある?
「さっ、敵の住処も突き止めた訳だし、作戦を考えたら協会に先越される前に行きましょ? 不死の王にも手を貸してもらう事を考えれば、アオイさんの体力が続くうちに退治しないと。そうしないと貴方、家に残して来たアオイさんの事が気になり過ぎて心ここに在らずになりそうだものねぇ?」
デボンはニヤリと笑うフィンリーを諌めながら、あり得ない発言をする。
「いいえ、アオイさんには一緒に来ていただいた方が──」
「ダメだ!! 蒼をあの女の根城になんて連れて行けない」
この男何を言ってるんだ!? わざわざ蒼を危険な場所へ連れて行こうと提案するなんて、やっぱり怪し過ぎる。
「アタシもアオイさんを連れて行くのは反対ね。守りながら戦うってすごく大変な事よ? とても言い辛いけど足手纏いになるだけだわ」
「ですがアオイさんが1人になれば、真っ先に狙われますよ。レイラ コリンズが知るジョージさんの唯一の弱点はアオイさんだけなのです」
「あの女が知る俺の唯一の弱点が蒼?」
「そうです! 吸血鬼にとってみればこの家に侵入するなど、造作もない事でしょう?」
ずいっと身を乗り出したデボンから、蒼の肩を抱き距離を取る。
「それはお前も吸血鬼だから言える事か?」
「……え? 僕が吸血鬼? 何を言っているんですか、冗談がきついですよ」
困ったように微笑むデボンから目を離さず、蒼を背中に隠す。警戒感を露わにし、立ち上がる俺をフィンリーは諌めるように声をかけた。
「そうよ不死の王、さっきもそんな事を言ってたけど本人が否定してるの。アタシ達ヴァンパイアハンターは鉄の結束で繋がってるんだから。疑うなんて有り得ないわ。緊張し過ぎて疑心暗鬼にでもなったのかしら?」
フィンリーはこう言ってるが、やっぱりこの男怪しいところが多すぎる。何故蒼に見えなかった折り鶴が見えた? それにリチャードの遺体を引き取りに来た話だって出来過ぎてないか?
「フィンリーさんは騙せても俺は騙されないぞ。味方のふりをして蒼をあの女に差し出すつもりか? そうはさせないからな!」
「とんだ言いがかりだ……。とにかく一旦落ち着きましょう?」
デボンも立ち上がりこちらへ手を伸ばす。
「来るな! ずっとそうやって小さく笑ってるが、それも牙が見えないようにだろ? フィンリーさん、この男と日中に外で会った事はありますか?」
「それくらい────あれ? 考えてみれば日中は屋内で会ったことしか無いわ。しかも地下室で……」
「ほら見ろ。それにあの女の知る俺の弱点が蒼だけだとどうして言い切れる? それこそお前があの女の信奉者だと言う何よりの証拠じゃないか! 直接聞かなきゃ分からない事だよな?」
デボンは先ほどから無表情になっていたが、唐突に座り肩を振るわせ笑い始める。
「ははっ、気付くのが遅いですよ。わざと分かるように振る舞ったんです。それで勝ち誇ったように言われても……。あなた方はこれからレイラ様を抹殺なさるおつもりなのでしょう?」




