48話 メッセージカード
フィンリーに拒絶されたが、2人をそのまま放っておく事は出来ず、リチャードの亡骸に俺のコートを掛けて抱え、フィンリーの家へ運んだ。
フィンリーは涙が枯れ果てたのか、俺が何を言っても仮面のような無表情でただ頷いたり、指をさすだけになっていた。これならさっきみたいに怒鳴られた方がどんなにマシだろう。
きっと俺はここにいない方がいいんだ。いっその事消えてしまいたい。気付けば体が霧になって霧散していた。
どうしよう、意識はあるけど、どうやって元に戻るんだ? ……いや、しばらく戻れなくてもいいかもしれない。とりあえず蒼の様子だけでも見に行こう。
あれ? 家に明かりがついてるぞ。蒼、寝ないで待っててくれてたのか。嬉しいような、怖いような……。やっぱりきちんと顔を合わせて事情を説明すべきか。そう思った瞬間には、体が元に戻っていた。
「た、ただいま〜」
いつも俺が帰った時は出迎えてくれる蒼が来てくれない。もしかして怒ってる? ……いやいや、そんな事は無い。もしそうなら、少なからず蒼が俺に好意を向けてくれてる事になるじゃないか。
無駄な期待をして違かったら、心に受けるダメージが大き過ぎる。今はただでさえ心が抉られてるんだ。不毛な想像は止して、蒼に事情を話したらさっさと寝よう。
「ただい──」
あれ? リビングの机の足の向こうに人の手が見える。ま、まさか……。
「──蒼っ!?」
テーブルとソファーの間で蒼が倒れている。近くには黒い薔薇の花束が落ちていた。俺が近付いても蒼は何の反応もしない。
「蒼……蒼っ! どうしたんだ!!」
大きく揺さぶると、蒼は身じろぎして目を開けた。そっと抱き上げソファーに座らせる。
「……譲二さん? あ、気にしないで。ちょっと転んで頭を打っただけだから」
足元の花束を見て蒼は慌てて視線を逸らす。しかしすごい色の薔薇だな。ハロウィン仕様か? 萎れる前に水につけておこう。
「あれ、花束の下にカードが落ちてるぞ」
「……カード?」
「うん、二つ折りの」
「──ダメっ!」
カードを拾おうとすると、蒼は俺の手を押さえ静止しながら素早くカードを拾い上げ、バランスを崩して転びそうになる。
「危ない! さっきまで気を失ってたんだから無理するな」
蒼がテーブルに頭をぶつける直前でどうにか受け止め、再びソファーに座らせてから、俺も横に座る。
「ありがとう。本当に大した事ないから心配しないで。今のはきっと軽い脳震盪よ」
脳震盪って全然大丈夫じゃないじゃないか! それにあのカードは何だ? 慌ててポケットへ仕舞った様子はまるで隠すようだった。
「……でもそうね、お言葉に甘えてちょっとだけ肩を借りるわ」
へっ!? この肩や腕に感じる重みってまさか……。やっぱり蒼が俺の肩にもたれかかってる。それなら俺も蒼の肩を抱くくらいしても違和感は無いよな?
蒼といるだけで傷付いた心がかなり楽になる。いや、むしろ……くぅぅ〜幸せだ。ずっとこの瞬間が続けば良いのに。
「ふふ、この体勢はやっぱり落ち着く。ねえ、あれから何があったの?」
蒼と別れてから起きた事を話す間、蒼は頷きながらただ静かに俺の話を聞いてくれた。
「そう……辛かったわね。だけどそれは貴方のせいじゃないわ。レイラが全面的に悪いの。貴方達が深く傷付けば傷付くほどレイラの思うつぼ。リチャードさんだってレイラが喜ぶのなんて望んでいないと思う」
「うん……」
「さあ、今日はもう寝て。寝れば気持ちの整理も少しはつくでしょ?」
「そうだな。もしかしたら今頃リチャードは、夢の中でフィンリーに会いに行っているかもしれない」
「ええー、その状況でフィンリーさんは寝られる? ……でもそうね、残された大切な人に会いに行ける。本当にそうであってほしいわ」
蒼はそう言いながら立ち上がり転んだ。
「大丈夫、大丈夫。気にしないで」
ヘラっと笑いながらそう言ってるけど、なかなか起き上がらない。いや、手足に力が入らず、自力で起き上がれないよう見える。そっと抱き上げると、ヒラリとカードが落ちた。さっき蒼が慌てて拾ってた物だ。
「ん? カードが落ちたぞ」
蒼をソファに座らせ、メッセージカードを拾おうと屈む。すると蒼が顔を真っ青にして叫んだ。
「私が拾うから、見ないで!!」
今にも腰を浮かせようとする蒼から視線をカードへ移す。……そう言えば、さっきから蒼はこのカードが絡むと冷静さを失ってる気がする。もしかして俺に見られたら困る物か?
だとすれば蒼には悪いが、折り目が少し開いてて内容がちょっとだけ見えるんだよな。ん…………?『レイラ コリンズより』だって!?
カードを拾い蒼の横に座ると、蒼はカードを奪おうと手をがむしゃらに伸ばして来た。俺が全て避けると、肩で息をしながら目を潤ませ懇願する。
「見ないで! お願い、見ないで……」
「だけどこれ、レイラからだろ? 嫌な予感しかしない。悪いけど見るよ」
蒼に何か言われる前に、レイラの血の匂いがする二つ折りのメッセージカードを開いた。




