46話 おばさんとおじいさん
レイラの姿が見えなくなった事で、張り詰めていた緊張の糸が途切れ、全身の力が抜けた。考えてみればレイラと揉み合ったせいか、意外と埃っぽいな。それに袖口にはレイラの血が付いてるし最悪だ。
全身を払ってると、レイラを見失ったのか、フィンリーが戻って来た。ワナワナと震えながら俺を睨み付ける。
「貴方わざと逃したわねぇぇ〜?」
今にも銀の短剣を抜きそうな勢いのフィンリーに、思わず縮み上がりホールドアップする。
「そっ、そんな人聞きの悪い言い方は止してください。近くには一般人も沢山いるんですよ。戦い合うのは勝手ですけど、せめて近くに人が居ない場所でにして欲しいんです!」
でも本音を言えば戦って欲しくない。吸血鬼とヴァンパイアハンターの戦いは、基本的にどちらかが死なないと決着がつかないからだ。前は相打ちになってくれたら嬉しいと思ってたけど、こうやって話してると情が湧いてくる。
レイラにしてもそうだ。大嫌いだが一応同族だから死んで欲しいとまでは思えない。まぁ同族である俺や信奉者の血を啜る時点で、吸血鬼ではない化け物になってる気がしないでもないが。
「はあ……確かに貴方の言い分にも一理あるわ。だけどレイラ コリンズは危険な吸血鬼だと資料に残ってるの、野放しにしとくなんて出来ないわ」
「フィンリーさんの仕事は理解してるつもりです。でも一般人を巻き込めば、ヴァンパイアハンターの立場が危なくなるかもしれないんですよ? それと俺も巻き込まないで貰えるとありがたいんですが……」
一足遅れて戻って来たリチャードが俺を指差し、フィンリーに尋ねる。
「なあ叔母さん、本当にあの晩会ったのと同じ奴なの? 確かに見た目は同じだけど雰囲気が全然違うじゃん」
「ええ、その気持ちはよく分かるわ。ってそれより、リチャード! 人前でアタシを叔母さんと呼ばないでっていつも言ってるでしょ? その音の響きがとても嫌だわぁ〜」
リチャードは、ぷりぷりするフィンリーもどこ吹く風と言った様子で、俺をじっと見つめる。そんなに見ないで欲しい……けど、へへっそっか。リチャードくらいの年齢だとフィンリーを『おばさん』って呼んじゃうんだ。本人的に凄く気にしてるみたいなのが何だか笑える〜。
「あらあら? 勘違いしないでちょうだい、この子は甥っ子なの。それにアタシを笑ってるけど、貴方だって充分おじさん……いいえ、お・じ・い・さ・んよねぇ?」
えっ……? た、確かに言われてみれば、年齢的には充分おじいさんだ。うわー、今初めて気付いたけど、地味にショック……。
「おっ、おっ、俺はまだまだ若いんです!!」
「へぇー、本当の年寄りほどそう言ってるイメージがあったけど、やっぱそうなんだ」
うっ……リチャードの率直な意見がグサッと来る。
「そっ、それより蒼は? 蒼は何処にいるんですか?」
「家へ帰ったわ。ちゃんと送って行ったから安心しなさい。そうだわ、これ蒼さんからの預かり物」
人工血液のパックを受け取り口をつける。そう言えば俺、貧血気味なんだった。はぁ生き返る〜。贅沢を言えば、フィンリーからじゃなくて蒼に……。やっぱいいや、今は顔を合わせにくい。
「何かあったの? 蒼さん、やたらと空元気に『今はジョージさんと顔を合わせたく無いです』とか言ってたのよ」
そっか、蒼は俺と顔を合わせたく無いのか……泣きそう。ヴァンパイアハンターの前で泣いてなるものかと思ってても、いつまで保つか分からない。
「レイラと無理矢理抱き合わされて……キスされたところを蒼に見られたんです。俺が蒼を好きなのを知ってるのに。最悪の嫌がらせだ」
「へぇ〜、俗に言う三角関係ってやつ?」
「リチャード! お黙りなさいっ! ……それで貴方はどうしたの? まさか蒼さんの顔を見る勇気が無かったとかで、何の説明も無しにレイラ コリンズを連れて、その場を離れたとか言わないでしょうね?」
「そうです、逃げましたよ! だったら聞きますけど、蒼とレイラを会わせればよかったんですか? 『あのキスは勘違いなんだ』って言っても『何の事?』とか言われるに決まってる! こんな化け物に想われてると知っても、蒼が困るだけですよね? だからこの想いは伝えないって決めてるんです」
必死に弁明する俺を見てリチャードがヘラっと笑う。
「でもさ、ここで開き直っててどうする訳? 話してみないと分からない事もあるんじゃね? 不死の王って明らかに名前負けしてんじゃん」
「そうよねぇ? 急いで帰りなさい。せめて貴方の本意じゃなかった事だけは伝えたら?」
「でも……」
「はあー、見た目と能力はピカイチなのに本っ当ヘタレな吸血鬼ねぇ……」
「どうせ俺はヘタレなチキ──」
その時、俺の捨て台詞を遮るように花火が上がった。突然の爆発音にびっくりして空を見上げていると、後ろでリチャードがドサッと崩れ落ちた。




