43話 仮装コンテスト
「こんばんは〜。テプンルバー仮装コンテストのお時間で〜す。皆さん、震え上がる準備はできていますか〜?」
テントの外からは司会役の女性が軽快なトークで会場を盛り上げる声や、ハロウィンをイメージした恐ろしげなBGMが聞こえる。
薄暗い控え室代わりのテントの中に集まった出場者達は、みんな由緒正しき化け物の仮装をしてた。楽しむ感じの日本の仮装コンテストとは違って、お化け屋敷として入場料を取れそうなクオリティだ。
遠吠えの練習をする狼男に、のそのそ歩くフランケンシュタイン、魔女は何かブツブツ呟いてるし、骸骨は崩れ落ちる練習をしてる。ミイラ男はアワアワしながら解けた包帯を集めてて、少し親近感が湧くな。
それと、俺以外にも吸血鬼の仮装をしている人が居た。その人は映画の中とかでよく見るイメージだ。血糊が垂れた口元でこっちを見てニカッと笑う。歯まで血糊で染まってて怖い……。でも俺の牙より立派で逆に不自然さを感じた。
みんなやっぱり優勝を狙ってるのか、気合い入りまくりでギョロリと他の出場者を見るもんだから、迫力がとんでもない。本物の吸血鬼の俺が1番ビビってるくらいだ。
ドキドキしてるうちに最初の出場者が呼ばれて出て行った。俺だって負けてらんないな。吸血鬼の人に握手とアドバイスを求めてみた。
「こんばんは、凄い迫力ですね……。俺も血糊とかやっておいた方がいいんでしょうか?」
「おお同志よ、ありがとう。もしかしてこのコンテストは初参加かい?」
「はい」
「1回しか言わないから良く聞けよ。このコンテストは審査員がつける点と、観客の盛り上がりで採点される。舞台に上がる時が観客へのアピールタイムだ。あんな風に」
テントから外を覗くと、狼男が遠吠えを上げ、わっと歓声があがった。
「僕達は吸血鬼だから司会者に噛み付いてアピール出来ればいいんだが、あいにく司会者は舞台から少し離れた審査員席にいるからな。おまけにここの観客は仮装を見慣れているからシビアだ。僕らはこの牙を見せなければ、ただのアンティークファッションの顔色が悪い人間という評価しか受けられない」
テントから出て行く魔女を見送りながら、思わず自前の立派な牙に触れる。この体になって初めて牙が生えてて良かったと思えた。
「そしたらあの魔女の人とかも大変そうですね」
「いや、彼女は去年の優勝者だ。手持ち花火を上手く使ってアピールしていたが……。うーん今年の煙玉は失敗だな」
煙が多過ぎて魔女の人の姿がイマイチ見えない。俺の目でも見えにくいんだから、人間の目じゃステージの上は何も見えないだろうな。もくもくする舞台を見ながら頷いてると、スタッフが顔を覗かせた。
「エントリーナンバー5のジョージケリー3.5世さぁーん、スタンバイをお願いしゃーっす」
えっ、次俺だったのか? こんなもくもくの中でやる訳無いよな? もしそうなら負け確定じゃん……。
「じゃー、ここで司会者のアナウンスがあるまで待っててください。ご自分のアピールが終わったら解散っす」
スタッフはメモを見ながらそれだけ言うと去って行った。この煙についての説明は無いのか? どうしよう、こんなもくもくした中でステージに上がっても、人間の目だと碌に見えないぞ。
ん? 人間の目だと見えない……そうだ! この煙に乗じてステージの端にあるポールの上に立ってみるか。あれくらいの高さなら飛び乗れそうだ。
そしていい具合に煙が晴れたら、あそこから飛び降りてステージに立とう。蒼のため、久々に城へ行くためにも目立たなきゃ。ちょっと風が吹いて来てる、善は急げだ。
「続いてはエントリーナンバー5番、ジョージケリー3.5世さんの登場です! ……準備に時間がかかっているのでしょうか? ジョージケリー3.5世さん?」
会場がざわついてる。ちょうど煙が薄れて、さっきまで俺が立ってた場所に誰も居ないのが、司会者や観客にも見えたらしい。ここで何か吸血鬼っぽい痛い事を言えば絶対目を引く。
「──今宵の食糧はどの者にしようか。どれ、もう少し近付いてじっくり吟味するとしよう」
どうだ? これならいい具合に痛いから盛り上がるよな? うおっ、スポットライトが眩しい。それなら──。
元祖ジョージになりきって腕を組み、片手を顎に当てる。歯を見せながら悪役じみたニヤリ笑いを浮かべ、偉そうにしてっと。おお、すごい注目と歓声を浴びてる。ちょっと快感。
腕を組んだままポールを蹴って飛び降り、片足で着地する。あとは勿体ぶって観客を見回してから鼻で笑い、尊大な雰囲気でステージの真ん中まで無駄にゆっくり歩けば──。
へへへ〜大成功。耳が痛いくらいの歓声だ。審査員席に居るフィンリーの目が点になってる。どうだ、驚いたか! 俺だっていつもチキンな訳じゃないんだからな?
「圧巻の登場でしたね! ダークホース現るです。エントリーナンバー5番ジョージケリー3.5世さん、ありがとうございました〜」
ステージから下りると、途端にどっと恥ずかしさが押し寄せて来た。うぅ、あんな事やんなきゃよかった。自分の痛過ぎる言動を思い出すだけで、恥ずかしくて震えが走るんだけど……。は、早く着替えよう。足早に歩いてると、蒼がかけ寄って来た。
「今まで騙されていたわ。本当の貴方は別人──いえ、別吸血鬼だったのね? なーんて、お疲れ様。迫真の演技だったわ」
「うぅ〜、あんな厨二っぽい事を言っちゃって、穴があったら入りたい……」
蒼に見られてるのは分かってたけど、面と向かってアレの感想を言われた恥ずかしさで、膝の力が抜け、しゃがみ込む。顔が熱い、火が出そう。
「ええ……そんな、泣くほど?」
えっ……俺泣いてるのか? ヤバい、恥ずかしさが限界突破しそうだ。
「泣いてない。赤いカラコンが痛いんだ。もう外す……。それにこの格好は落ち着かないから着替えたい」
「はいはい、パブに戻りましょうか」
「うん……」
パブに戻り化粧を落として、カラコンを付け替え、着替えてから外に出た。もう仮装コンテストは終わったかな? まあ審査結果は1週間後に出るらしいから、緊張する事なくデートの続きを楽しめるぞ。
「次はどこ行っ──」
蒼の方を向いた瞬間、心臓が跳ねた。蒼の向こう側、人混みの奥にいる人形のような姿の女と目が合うと、女はこちらへ来いと言った風に顎をしゃくる。……レイラだ。




