41話 懸賞金の額は……?
蒼に付いて行くと、何故か職場のパブに辿り着いた。店内にフィンリーの後ろ姿を見つけて、変な声が出かけたけど、どうにか飲み込む。何でコイツがここに居るんだ!? 俺が無害だと分かってもらえたみたいだけど、やっぱり苦手だ。
「べ、別の場所にしないか?」
急いでパブから出ようとすると蒼に通せんぼされた。
「逃がさないから!」
「へっ……?」
意味が分からず一瞬思考が停止する。気付いたら直ぐ近くに来ていたフィンリーが、勝ち誇った様子で言い放った。
「アオイさん今よ、捕まえて! 彼も貴女相手なら逃げられないわ」
「分かりました。えいっ!」
蒼が俺の胴に腕を回す。こんな状況じゃなければ凄く嬉しい体勢だが、この状況だからこの体勢になってるのか……。
「離してくれっ!」
「いいえ! 懸賞金のため、絶対に離さないから!」
……懸賞金に目が眩んで俺を売ったのか。恋人ではないけど、信頼し合える仲にはなれたと思ってたんだけどな。一体どれくらいの懸賞金が俺の首にかかってるんだ? 蒼の心を動かすほどの金額、知りたいような知るのが怖いような……。
「なぁ、俺に掛かってる賞金っていくらなんだ?」
「550ヨーロ」
……およそ10万円で俺は売られたのか。確かこの世界も元の世界と為替のレートは同じくらいだったはず。決して高くはないけど、安過ぎもしない生々しい金額だな……。いや、文化財なんだからもう少し高くても良いと思う。
ま、まさか俺の後釜に自動調理鍋とか、ロボット掃除機でも買うつもりなのか!?
「そりゃないよ。これからも家事や仕事頑張るし、お金が貯まったら株も始めてもっと稼ぐから……」
「そう? だけどフィンリーさんも呼んでしまっているし、今更断るなんて無理なの」
「アオイさんもこう言ってるんだから、いい加減諦めて大人しくなさい。それじゃオーナーさん、休憩室を借りるわねぇ〜」
「どうぞ、どうぞ! サクッとやっちゃってください!」
うぅ……オーナーまでグルだったのか。いつの間にかフィンリーに後ろ手に拘束されてる。好きな子に売られ、居心地のいい場所も失った。虚しくて涙が出る。
クソッ、ひとりぼっちになっても構わない、とことん逃げてやるっ!! 俺は吸血鬼だぞ、お前を振り切るなんて朝飯前だ!
「離せっ!! ──ガッ!」
力を込めた瞬間、背中に膝蹴りを喰らい、床に倒れ込む。体中の関節が軋むのを無視して、フィンリーを背中に乗せたまま無理やり起きあがろうとすると、耳元で囁かれた。
「アオイさんが困っても良いの!? ここってメアリー ウォルシュさんが経営してるんですってねぇ?」
「うっ、うぅ……」
こんな状況でも蒼の名前を出されると従わざるを得ない。これが惚れた弱みってやつか……。
「フィ、フィンリーさん、何もそこまでしなくても……。ねえ、鼻の頭を擦りむいているけど大丈夫?」
俺とフィンリーの間に蒼が割って入る。やめてくれ、今更優しくされてもいっそう傷付くだけだ……。
「あらぁ、これくらいしないと彼に逃げられるわ。そしたら賞金は手に入らないのよ?」
吸血鬼が確保された喜びからなのか、店内は歓声に包まれてる。体中痛いし、文句の一言くらい言ってやらないと気が済まない。
「みっ、みっ、皆んな卑怯だぁっっ!!」
「何とでもおっしゃい」
休憩室に押し込まれ、手近にあった椅子にドサッと座る。涙で視界が霞んで前がまともに見えない。
「何を座り込んでるのかしら? 早く脱いでちょうだい」
何だよぅ大人しく拘束されたのに、思い出に浸る時間すらもらえないのか? それに脱げって、まさか聖水を直に掛けられる?
「せっ、聖水は嫌だ。せめて銀の短剣でにしてくれ……」
あの全身を火傷するような耐え難い痛みを味わうなんて、2度とごめんだ。それに1週間くらい刺すような痛みが消えず、ずっと体が怠かった。思い出しただけで震えがはしる。
「何おかしな事を言ってるのよぉ? 脱がないと着替えられないでしょ! この後お化粧だってしなくちゃいけないんだから時間が無いの。本当に銀の短剣で突っつき回してあげましょうか?」
「あっフィンリーさん、ごめんなさい。彼には伝えていないんです。言ったら逃げられる予感がしたので」
「なるほどねぇ〜。確かに不死の王に本気で逃げられたら捕まえるのに苦労しそうだわ。でもねぇ、アオイさんちょっと来てくれる?」
フィンリーが蒼を引っ張って休憩室から出て行った。どうやら退治される感じでは無さそうだ。勝手に勘違いして、泣き叫んで物凄く恥ずかしいんだけど。
ああっ、また蒼にカッコ悪いとこを見られた。ムカつく! 腹いせに逃げちゃおうか。椅子から腰を上げかけた時、ドアが開いて2人が戻って来た。
「ほらアオイさん早くなさい、時間が無いのよ」
「む、無理です……」
「大丈夫、賞金が欲しいんでしょ?」
フィンリーに背中を押されて蒼がつんのめる。反射的に受け止めだけど、そうだよ俺怒ってたんだ。パッと手を離して椅子に座り直しそっぽを向く。
「何? 今、凄いムカついてんだけど」
蒼が膝を付いて俺の手を握り顔を上げた。上目遣いの蒼が可愛い。……ってそんな事しても無駄だからな!
「嫌な思いをさせてごめんなさい。だけどお願い、肖像画の格好で仮装コンテストに出場してほしいの。このお店の代表として、もうエントリーしちゃったのよ。貴方なら優勝間違い無いでしょ?」
ははーん、俺に吸血鬼の仮装をさせるつもりだったのか。確かに俺以上の適任は居ないだろう。だけど何故自分で自分の仮装をしなくちゃいけない? 恥ずかしいし、馬鹿馬鹿し過ぎるだろ。
「……嫌だね。俺に何も言わず勝手にエントリーしたのは蒼だろ?」
「優勝出来たら懸賞金は貴方が貰える事になっているの。一緒に貴方の物だったお城へ行ってみたいのよ。──お願い」
へっ!? 今、頬に触れた柔らかい物は何だ?? もしかして蒼が俺の頬にキッ、キスした? ヤバい、顔から火が出そう。
「ふふふっ、賞金の使い道は貴方のためらしいじゃなぁい? これはもう男として、断れないわよねぇ?」
確かに蒼にここまでされて断ったら男の名折れだ。だけど色々と勘違いした恥ずかしさで素直に頷く事が出来ない。
「……分かった、人工血液をくれたらやってもいい」
「丁度良かった。コンテストが終わったらご褒美に渡そうと思って持って来ていたのよ。今飲む?」
やっぱりご褒美はひと仕事終えてからだよな。それにフィンリーの前じゃ飲み辛い。
「いや、終わってからで良いよ」




