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不死身のチキン 〜ミイラだった最強の吸血鬼は現代社会でささやかな幸せを手に入れたい〜  作者: 甲野 莉絵
同居人を目指して

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38話 続・招かれざる客3

「俺が聖水をぶっかけられても平気だった理由は、たぶん生き血を啜ってないからです。隠してもどのみちバレるから言いますけど、日光は日焼け止めを塗れば耐えられますし、鏡にもうっすら映ります」


「そうなのね〜、そもそも生き血が苦手な吸血鬼なんて聞いた事が無いから知らなかったわ。そ・れ・でぇ、貴方の催眠術がアオイさんに効かない理由だけどね……」


 フィンリーはそう言うと紅茶をあおり、俺と蒼を見てニンマリと笑った。何だよ勿体ぶりやがって。内心ドギマギしてるのを見破られてるみたいでムカつくから、平静を装うために俺も紅茶をひと口飲む。


「貴方達がキスしたからよ」


「──ゴフッ」


 飲んでた紅茶で盛大に咽せる俺の背中を、蒼が慣れた手つきでさする。


「ちょっと、大丈夫? キスって最初のあれの事ですよね?」


「ええ」


「あれは事故みたいなものだから、落ち着いて」


 そ、そうだよ事故だ、事故! ……でもあれが蒼のファーストキスだったらどうしよう。俺は蒼から大切なものを奪ってしまったのか?


 いや、キスぐらいした事あるよな? 例えばトーマスとか……。うぁーっ、俺とのキスは事故で片付けられてるくらいだし、これ以上考えたら負けな気がする。


「吸血鬼とキスした相手には不思議な現象が起きるの。貴方とアオイさんは言わば“婚約者”の状態ね。他の吸血鬼がアオイさんを見れば貴方の相手だって一目瞭然になるし、催眠術が効かなくなるって聞いたわ」


 俺と蒼がこっ、婚約者!? その言葉の響きだけで胸が高鳴る。けど……。


「それはおかしいですよ、俺の婚約者はレイラのはずです。1人で2人と婚約なんて、そんな不純な事が許されるんですか?」


「“婚約者”と言っても正式なものじゃないのよ。その現象に呼び名がないからアタシ達が便宜上そう呼んでるだけなの」


 確かに俺も元祖ジョージもレイラとキスした記憶なんてないし、婚約者って言うのも口約束だけだ。


 それに比べ、この状態なら他の吸血鬼から蒼の事を守れるだろうし、なにより蒼が俺だけの存在になったみたいで凄く嬉しい。だけど、蒼もこの話を聞いてる以上、いつか現れるであろう好きな人と幸せになっても、事ある毎に俺の事で悩むかもしれない。


「その“婚約者”の状態はどうしたら解消出来ますか?」


 今すぐじゃないけど、いつか訪れるであろう時のために知っておくべきだ。


「1ヶ月経てば自然と効果は薄れて無くなるわ。でもアタシはてっきりその先まで行くつもりなのかと思ったのに」


「何をおかしな事言ってるんですか、冗談きついですよ。成り行きで“婚約者”の状態になってるだけで、俺と蒼はただの磯友達です。蒼だってそう言ってたじゃないですか。なぁ?」


 極力蒼に嫌な思いをさせないよう、冗談めかして同意を求めた。……あっ、ダメだ貴族スマイルしか取り繕えそうにない。


「ええ、ええ。確かに私が言い出しっぺね。だけどあれは博物館でフィンリーさんと会った時、居候と言いかけたのを咄嗟に誤魔化しただけよ」


 あれ? 心なしか蒼の語気が強い気がする。そりゃそうか、こんな化け物が“婚約者”とか言われたら不機嫌にもなるよな。ヤバい泣きそう……。


「そ、そっか。あの時は嘘を吐かせてごめん。でも磯友達って言葉、俺は面白いと思うよ。あと半月もしないで“婚約者”状態は終わるから、そしたら俺達本当の磯友達になれるよな?」


「はぁ? 意味が分からないんだけど。普通に考えて磯友達なんて関係が無い事くらい、貴方も分かるでしょ?」


 お、怒らせたか? 確かに自分でも何言ってんだって思うけど、どうフォローすれば良いのか分からない。本当に自分の口下手加減が恨めしい。


「うん、ごめん……」


「貴方は事ある毎に謝ってくれるけど、何に対して謝っているの? 私を巻き込んで迷惑を掛けた事? 嘘をつかせる事? それとも、私の意見を無視する事?」


 俺が何も言えないでいると、フィンリーが頭を振った。


「はぁー見てらんない。貴方達、喧嘩はおやめなさい。アオイさん、言いたい事はよぉーく分かるわ。だけどもう少しだけ優しい言い方をしてみたら? そうしないと小心者の彼は萎縮するばかりよ」


「……はい」


「不死の王は謝ってばっかじゃダーメ。無意識に自分を正当化して、アオイさんを悪者にする事にもなるの」


 言われてみれば確かにそうだ。さっきは『あの時、俺の味方をしてくれてありがとう』って言うべきだったのかもしれない。目から鱗だ。


「アタシはお暇するから貴方達で良く話し合って仲直りなさい。はぁーアタシは何で吸血鬼にアドバイスしてるのかしら? そうだ──」


 フィンリーはポケットからメモ用紙を取り出し、何か書いて蒼に手渡した。


「これアタシの携帯番号よ。何かあったら連絡ちょうだい、直ぐに駆け付けるわ。それからハロウィンイベントの情報提供ありがとう。じゃあまたねぇ〜」


 フィンリーが帰ると、蒼はもらった携帯番号を早速スマホに登録してるようだった。無言の蒼が少し怖くて、俺は空いたマグカップをトレーに乗せてキッチンへ逃げ込んだ。

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