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不死身のチキン 〜ミイラだった最強の吸血鬼は現代社会でささやかな幸せを手に入れたい〜  作者: 甲野 莉絵
同居人を目指して

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36話 続・招かれざる客

「やっぱ止めようよ。どうしても使わなきゃダメか?」


「ええ、用心に越した事は無いわ。見つかりたくないんでしょ?」


 鏡台の前でカラコンと格闘していた。蒼がネット通販で取り寄せたらしい。


 確かに今後も自分で気付かないうちに目を赤くする事があるかもしれない。酔っ払いが大勢いるパブで目が赤くなったら、おかしな奴が居るって広まっちゃうだろうから、俺も蒼の意見に賛成だ。


 でも怖いものは怖い。だってコンタクトを使った事が無いんだ。目に近付けると手が震える。


「私はこの後、友達と会う予定があるんだから早くして。見た目の違和感が無いか確認して欲しいって言ったのは貴方でしょ?」


「うぅ〜分かってるよ……」


 15分の格闘の末どうにか、カラコンを着けた。目に違和感を感じないし、見え方にも問題無い。


「どれどれ、見た感じ自然な色ね。いつもより目の色が濃く感じるけど、パッと見では気付かないくらいよ。あとは目が赤くなった時にどれくらいカバー出来るかね」


「そ、そうか、ありがとう。待たせてごめん、時間は大丈夫か?」


「あっ、行ってくる!」


 蒼を見送り鍵を掛け、大きく深呼吸をした。蒼にじっと見つめられて口から心臓が飛び出そうだ。大丈夫か、俺の気持ち隠しきれてるよな? 目、赤くなってないよな? うわぁーー! 思い出しただけで顔が熱い。


 まだ仕事へ行くまで時間があるし、いつも通りに家事をして気分を紛らわせよう。洗濯機のスイッチを入れ、洗剤を計り入れる。洗濯物を放り込んでると、玄関から鍵が開く音がした。見に行くとドアの間から蒼が顔を覗かせている。


「どうした、忘れ物か?」


「ごめん、見つかっちゃった……」


 蒼がドアを大きく開けると、笑顔で手を振るフィンリーが立っていた。ちょうど鳴った洗濯機のブザー音が大きく響いて聞こえる。


「ふふっ来ちゃったぁ〜、ここが貴方の隠れ家ね。あっ安心して、今日は退治のために来たんじゃないの。ほら、アタシ1人でしょ? 貴方がどうやってダリブン大学から脱走したのか聞きに来ただけよ」


 ショックで思わず手に持ってた洗濯物を取り落とす。だがフィンリーはそんな俺に構わず家に上がり込み、興味深そうに室内を見回した。蒼が洗濯物を拾い上げ、俺に耳打ちする。


「ごめんね、家を出たら待ち伏せされていたの。でもああ言ってるし、心象を良くするためにおもてなししてみる?」


 いやいや、退治しないってのも油断させるための嘘かもしれないじゃないか! その証拠にフィンリーは1度も俺に背を向けてない。


 どうしよう、蒼がいるここでドンパチする訳にもいかないし、逃げるか? いや、外は真っ昼間だ。まだ日焼け止めを塗ってないし外には出られない。終わった……遂に俺は退治されて死ぬのか? 蒼とお別れなのか?


「私は友達に予定キャンセルの電話入れて、洗濯機をかけておくから、貴方はお茶を出して。ほら、ぼーっとしていないで!」


 蒼に背中を叩かれ、仕方なくお湯を沸かし、紅茶の準備をする。フィンリーの好みなんて聞いてやるもんか。マグカップにティーパックを入れて、お湯をぶち込めば充分だ。なんで俺がわざわざヴァンパイアハンターに茶を淹れて、もてなしてやらないといけない?


 だけど『今日は退治しない』って言ってたんだ。俺がどうなるかはフィンリーの気分次第とも言える。もちろん抵抗はするけど。


 ……紅茶はもう3人分用意しちゃってるから今更変えられないし、お茶菓子でも出しとくか。フィンリーは女だしクッキーとかが好きなのか? いや分からないから煎餅も用意しておこう。


「お待たせしました」


「あらぁ〜、不死の王手ずから淹れた紅茶をもらえるなんて嬉しいわ。砂糖とミルクもいただけるかしら?」


 えっ!? 吸血鬼から出された物に口は付けないと思ってたんだけど飲むのか? トレーに乗せておいた牛乳と角砂糖の瓶を差し出す。念の為に用意しておいて良かった。


「……どうぞ」


「まぁ、手慣れてるのね。その様子だとアオイさんの尻に敷かれてるのかしら?」


 し、尻に敷かれてるって、俺達付き合ってすらないのに!


「何の話をしているの? きちんとおもてなし出来てる?」


 タイミング悪く戻って来た蒼が後ろから覗き込む。


「うわぁっーー! なっ、何でも無いよ!! 洗濯物はいいのか?」


「ええ、あとは洗い上がりを待つだけ。それより、はい、これ」


 蒼が差し出した箱を受け取り、中を確認すると俺の赤茶色い髪の毛が入っていた。そっか、蒼に散髪してもらった後に袋詰めして、箱に仕舞ったんだっけ。何度見ても何とも言えない気持ちになるな。


「あ、ありがとう。……って言うよりフィンリーさん、さっきから何をニヤついてるんです? 俺と蒼はただの友達です。変な想像をするのはよしてください!」


「ふふ、そんなに狼狽えちゃって、隠さなくって良いのよぉ? だけど純血の吸血鬼の貴方が、こんなにうぶで可愛らしいだなんて思わなかったわぁ」


 蒼も横に居るのに……。恥ずかしさで涙目になりながらフィンリーを睨む。


「どうせ俺は不死の王なんて仰々しい異名は似合わないチキン野郎だよっ! どうやってダリブン大学から出たか、正直に答えてやるから聞いたらとっとと帰──ひうっ!!」


 背中を走るくすぐったさにビクッと体を硬直させる。この覚えのあるゾクッとする感覚は……やっぱり。蒼が銀の指輪をはめ直しながら耳打ちした。


「何て事を言っているの!? 心象良く振る舞うんでしょ? フィンリーさんが『退治しない』って宣言してる今が、貴方は無害だってアピールする絶好の機会なのよ。それとも退治されたいの?」


 た、確かにそうだ。咄嗟に貴族スマイルを取り繕う。


「つい照れ隠しできつい言い方をしてしまい申し訳ありませんでした。どのように私がダリブン大学から出たかについての、聞き取りにいらしたのでしたよね?」


「あらあら、そんなに固くならないでちょうだい。貴方の反応が面白くてつい揶揄ってしまったわ。アタシ達、ほぼ初対面なのに馴れ馴れしくし過ぎたわね。ごめんなさい」


「……俺が博物館で展示物だった時から貴女はずっと話しかけて来てましたよね? 発掘されてからずっと意識はあったので初対面じゃないです」


 どうだ、独り言をずっと聞かれてたと暴露されて少しは恥ずかしいだろ? ちょっとした意趣返しだ! 心象良く振る舞うって決めてても積年の恨みは消えてないんだからな。


「まぁそうだったの? アタシの声が貴方に届いてたと思うと興奮するわねぇ〜。実は貴方を見つけたら被害届は取り下げようと思ってたの。だけど事情が分からないとそれも出来ないでしょう?」


 そうだよな、蒼の疑いを晴らすのにフィンリーは最適の相手だ。


「ちょっと待っててください」


 寝室から家宝のブローチを取って来て、箱から取り出した髪の毛と一緒にフィンリーに見せる。


「俺がジョージケリーだと言う証拠の品です。前置きしておきますが、俺が動けるようになったのは全くの偶然なんです──」

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