28話 博物館で2
「あらアオイさん? こんばんは〜、こんな時間までここに居るなんて、やっぱりアオイさんも不死の王にご興味がお有りなのねぇ?」
出たな、フィンリー! 蒼と握手なんてしやがって、とっとと消え失せろ!! ……と俺は照明が極力当たらず、目立たない場所の壁に張り付きながら心の中で念じる。
「こんばんは。え、ええと不死の王と言うのは……?」
「いやだもう、分かってる癖に〜。ジョージ ケリー伯爵の事ですよ。不死の王って気高くて美しい彼に相応しい別名でしょ?」
「……は? 気高い? あっ、いいえ、そうなんですね。念の為に言っておきますが、私がミイラを盗んだ訳ではありませんから」
蒼、任せっきりでごめん。そのおかげか、今のところフィンリーに気付かれて無さそうだ。蒼が紺色のコートを選んでくれたおかげで、暗がりでも目立たないからな。
「いいえ〜、アオイさんが盗んだとは思ってないわ。ただ色々心配と言うか……。昨日今日とこの辺りで遺体が見つかってるでしょ?」
「本当に怖いですよね。私もテプンルバーは良く通るので用心しないと」
「ええ、特に赤い光には気を付けてちょうだい。人の心を惑わすと言われてるから。見つけたら直ぐ逃げるのよ」
うんうん、ここだけはフィンリーと同意見だ。ハロウィンイベントなんかでは、特に用心が必要だろう。仮装した人の中に本物の吸血鬼が紛れてると見分け辛そうだ。こだわってカラコンで目を赤くする人とかいると尚更危ない。
「──ところで隅にいるお兄さぁーん? さっきからずぅーっとそこを動いてないけど、盗み聞きは良く無いわよ」
イヤァァァ! バレてた!! 蒼ぃ、こっち見て大きなため息吐かないで……。
「あら、お2人はお知り合い──ヤダ、もしかしてアオイさんのボーイフレンド?」
「いいえ、いそっ……友達です〜」
「……いそ友達?」
「えっ、ええ、磯友達です! 私も彼も磯が好きなもので!」
「な、なるほど。世の中には変わった趣味の人もいるのね……」
変わった趣味って、どの口が言うんだ変態! 俺はあんな生臭い場所好きじゃないぞ!
「ごめんなさい、すごくシャイな人なんです。ちょっと、挨拶くらいしたら?」
うわぁ、蒼がこっちに来る。嫌だ、壁から離れたくない。フィンリーと顔を合わせたくない! いっその事、壁になりたい!!
なんて泣き叫ぶ訳にもいかず、俺は壁から引き剥がされた。無念……。
「こ、こんばんは……」
極力顔を見られない様、俯いて鼻を掻くふりをしながら顔を隠す。フィンリーと顔を合わせちゃった恐怖で体の震えが止まらない。
「こんばんはぁ〜、アタシはここの館長のフィンリー オニールよ。アオイさんとは不死の王についての捜査で知り合ったの。よろしくね」
そんな事は知ってるし、俺はよろしくしたくない! でもフィンリーは俺の手を握り、しっかりと握手してきた。
「まあ、手が随分冷たいし震えてるじゃない。空調の効きが悪いのかしら? ごめんなさいね、大丈夫?」
うわぁ顔を覗き込むな! ああ……しっかり見られちゃった、ヤバい。
「あら、あら! 物凄い美形じゃないの!!」
怖いくらいの顔への視線を感じるけど、どうにか俺だとはバレてなさそう。良かった〜。でもフィンリーの視線はうるさいから、息で両手を温めるふりをしながら鼻から下を隠す。うっかり牙なんて見られたら終わりだからな。
「蒼から聞きました。ミイラが無くなって大変だそうで……。そんな中こちらの事まで気遣ってくださり、ありがとうございます。私は平気ですので、どうかお気になさらず」
だからとっとと何処へでも行ってくれ! でも博物館にはちょっとだけ悪いとも思ってる。まあ思ってるだけで展示物には戻りたくないけど。
「まぁ、ご丁寧にありがとう。来館者の皆様に学びを得てもらう場を作ると共に、快適に過ごしてもらえる様努めるのもアタシ達の役目ですから。それにここだけの話、不死の王を模した蝋人形を作ってもらう予定なの。いつまでもこのままって訳にはいかないでしょ?」
へぇ〜意外にまともな事を言うじゃん。関心してると、フィンリーが頬に手を当てて恐ろしい笑みを浮かべた。
「だってアタシの予感では、不死の王はもう戻って来ない気がするのよねぇ〜」
ヒ、ヒイィィィッ! こっち見んな!! やっぱりバレてんのか!? 俺が戻って来ない予感って、まさか前に言ってた『美しい貴方の心臓をこの美しい銀製の短剣でサクッと』して灰にするからとかじゃないよな?
気を確かに待て! 俺は死んでられないんだ。蒼がこの国にいる間は側にいたいし、その後も陰からで良いから見守りたい。何より今はレイラの信奉者から守らなきゃならないんだ!
で、でもやっぱりフィンリーは怖い。正直震えが止まらないくらいだ。そんな俺の心情を察知したのか蒼が声を上げた。
「あっ、あのフィンリーさん? やはり彼は調子が良くない様ですので、今日はこの辺で失礼しますね」
「あらぁ、そう? お話出来て嬉しかったわぁ。また来てね〜」




