27話 博物館で
「なあ、モデルの真似どうだった? キマってた? カッコよかったか?」
県立自然史博物館への道すがら、信号を待つ間に蒼へ聞いてみた。
「はぁ? そんな分かり切った事をわざわざ聞く?」
期待を込めて頷くと、蒼はちらっとこっちを見上げる。あ、目が合った。ちょっとドキドキするな。立ってると身長差で必然的に蒼が上目遣いっぽくなる。いつもの気が強そうな表情もいっそう可愛く見えた。
「やっぱり、足元にも及ばないわね」
……そうだよな。分かってたけどさ、そうダイレクトに言われるとグサっとくる。モデルの真似をした時、内心では超恥ずかしかった。もう2度とやらない。
信号が変わり、トボトボ歩く俺の手を蒼が引く。吸血鬼の俺より少しだけ暖かくて、柔らかい手の感触が心地良い。
「ほら早く行くわよ」
「う、うん」
県立自然史博物館はもう目の前だ。あそこに入ってしまえばレイラとその信奉者の心配は要らない。館長でヴァンパイアハンターのフィンリーに会ってしまうかもしれないと言う、別の意味の恐怖があるけど。
蒼に入場券を買ってもらい、一緒にエントランスを抜ける。考えてみれば、元展示物の俺が動ける状態でまたここに来てるんだ。そう思うと何だか感慨深い。機会があれば元々住んでた城とかにも行ってみたいかも。
エントランスを抜け、ホールへ入ると当たり前だが博物館の匂いがした。ここから出てまだ1週間くらいしか経ってないけど、ちょっと懐かしく感じる。
うお〜あの天井からぶら下がってる恐竜の骨格標本なんて、如何にも博物館って感じだ。こうやって見上げるとデカいな。博物館なんて来たのは小学生以来か? 意外な事に大人になってから来た方が楽しめるかも。
目の前にある地球の誕生についての展示室へ入ろうとすると、蒼に止められた。
「ちょっと待って、その先は暗いから今のうちに館内図を確認しておきましょう。ええと……お目当ての展示室は最後の方ね。とりあえず順路通り行くしか無いか」
結局俺が展示されてた展示室へ着いたのは、閉館時間15分前だった。だって思った以上に博物館が楽しかったからつい……。これでも蒼に急かされたせいで、満足いくほど展示室は回れてないくらいだ。
薄暗い展示室には相変わらず城の写真やら、発掘された俺の所持品やら、目力の強い肖像画やらが展示されていた。唯一変わってた所は、俺が寝かされてた場所に俺の等身大パネルが置いてある事だ。もう時間も時間だからか、この展示室には俺と蒼以外は誰も居なかった。
「なるほど、貴方はここで消毒液と絆創膏を使う来館客を、目を開けて見ていたのね?」
「うぅ……それは言わないで。もしかして騙そうとした事を根に持ってる?」
え、無反応? やっぱり怒ってるのか? しっかしこうして見ると、思ってたより狭い展示室だったんだな。しみじみと部屋を見回す俺の横で、蒼は俺の肖像画を見上げながら呟く。
「あまり似ていないわね」
「そうか? 服装に髪型と髪色が違うからそう感じるだけだろ? 俺はまあまあ似てると思うけど」
「ええ? 貴方あんな冷たい表情していないわよ。まあ裏を返せば、貴方が間抜けっぽいとも言えるけど。それよりあの絵だと目の色が濃い青ね」
「う、うん、確かに。俺の目はあそこまで色が濃くないな」
「ええ、でも元々はあの青に近かったのかもしれない。私の仮説だけど、貴方の体はミイラ化したショックで色素を作るエネルギーが切り捨てられて、生命活動を維持するために回されたんじゃないかと思うの。それで目の色や体毛の色が薄くなったのかもね」
なるほどな、元の色にこだわりは無いけど、色が変わった理由の予想がついてスッキリした。
「ねえ、どうせならこの展示室にある物の解説をご本人から──」
「シッ! 誰か近付いて来るっ! ……こ、この足音は間違い無い、フィンリーだっ!」
くそっ、こんなに近付かれるまで気付かないなんて……。もうそこの角まで来てる。今更逃げたらかえって怪しまれるし……。ヤバい、どうしよう。
前から思ってたけどフィンリーって匂いがほとんどしないから、やっぱり足音もわざとさせない様に歩いてるんだろうな。ってそんな事考えてる暇は無い、ここをどう切り抜けるか考えなくちゃ。
とりあえずコートの襟を立てて少しでも顔を隠そう。ああ〜無駄な足掻きだと分かっていてもやってしまう俺って人間っぽいな。
っていやいや、人間じゃないから俺はフィンリーを恐れてるんだろ! いい加減現実逃避はやめないと。ほら、フィンリーが来ちゃった。




