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不死身のチキン 〜ミイラになった最強の吸血鬼は現代社会でささやかな幸せを手に入れたい〜  作者: 甲野 莉絵
秘密の居候生活

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15話 突然の夕日

 アオイは事情聴取に応じるべく朝食を食べて直ぐに家を出て行った。部屋に残された俺は大人しく皿洗いをしてる。別に頼まれた訳じゃない、少しでもアオイからの印象を良くしないといけないからだ。それと色々迷惑を掛けてる事に対しての罪滅ぼしでもある。


 あ〜もうっ! 何で俺は箸の件でムカついてたとは言え、あんな偉そうな事を言っちゃったんだ。交換条件なんて出せる立場じゃないだろ! まあアオイはツンデレでも優しいから、直ぐに追い出される事は無いだろうけど、万が一って事もある。


 あっ……やばい、フライパンの柄が曲がってる。もしかして考え事をしてたせいで、洗ってる最中に力を込めすぎてたか? 皿は割らないように気をつけてたけど、フライパンについては頭から抜けてた。


 皿洗いなんて吸血鬼になってからしてないから、人間だったときの感覚に戻ってたかも。ステンレスのフライパンが自分の手で曲がるなんて普通思わない。


 どうしよう……アオイに怒られる。せっかく印象を良くしようと思ったのにこれじゃ逆効果だ。よし、元に戻して証拠隠滅しよう。バレなきゃ良いんだ。


 平らな台の上で押さえて、そっと力を込める。1番気を付けたいのは本体を歪めない事。そうしないと料理がやり辛くなるから。そっと、そ〜っと……ふう。どうにか戻った。


 それにしてもアオイの料理は美味しかったな〜。久々の和食っていうのもあったけど、心が籠ってるからか食べててホッとする味だった。また食べたいな。明日の朝も作ってもらえるかな?


 朝食べた玉子焼きの味を思い出して幸せな気分だったからか、洗った食器はあっという間に拭き終わり、食器棚に仕舞い終わった。


 次は……アオイの元カレ、トーマスが残して行った物の片付けだ。トーマスが使ってた部屋のドアノブに手を掛けて、開ける直前で引っ込める。正直気乗りしない。だってアイツがいた部屋なんてコロン臭いに決まってる。


 でも今日、アオイから頼まれた事って本当はこれだけなんだ。この部屋に入るのが嫌で皿洗いをしてたのもある。だけどいい加減腹を括らないと片付けが終わる前にアオイが帰って来ちゃうかもしれない。


 この小さな一軒家はシェアハウスで、元々トーマスとはただのシェアメイトの関係だったそうだ。アイツが出て行った今、大家さんが次のシェアメイトを決めるまでの間に、アイツが使ってた部屋を綺麗にしておこうと言う訳だ。


 アオイが元恋人として片付けを名乗り出たらしいけど、そう言うのって普通トーマスとか大家さんがやる事じゃないか? しかもそれを何で俺に申し付けた訳? ……あ、居候だからか。アオイは大家さんに内緒で俺を匿ってくれてるらしいから、文句は言えないな。


 アオイにしたって、いつまでも元カレの私物が家にある、宙ぶらりんな状態は嫌だろう。息を止めてトーマスが使ってた部屋のドアを開けた。おっ、トーマスの私物はほとんど持ち出されてるみたいだな。物が少ない影響か埃もそれほど積もってない。


 ……あれ? 風の音がする。うわっ、あのカーテンの向こうの窓、少しだけ開いてるじゃん。不用心だな。だけど窓を閉めたくても、カーテンを捲って日光を浴びながら閉める事は俺には出来ない。仕方ない、カーテンの動きに注意しながら片付けをするしかないな。


 クローゼットからスウェット、着替えと下着1式を引っ張り出して袋に詰める。そう言えば脱衣所にも、アイツの物と思しき歯ブラシやら髭剃りがあったな。もしかしてまだこの家に来るつもりでいんのか? 大学でナンパしてた癖にけしからん!


 続いてドレッサー。おっ、鏡にうっすら俺の姿が映ってる。主張が強い透明人間みたいだ。俺の顔ってどんなんだ? 以前はミイラだったり、血を垂らした怖い吸血鬼顔だったからな。どれどれ……やっぱり肖像画通り、彫りが深い外国人顔だ。痩せこけてるけど。


 赤毛で目は……あれ、薄いブルーグレーだ。前見た時は明らかに赤かったはずだけど。ま、いっか赤よりブルーグレーの方が人間らしくてずっと良い。


 顔の形は縦長で鼻は高くて、目と頬は落ち窪んでる。肌は少し青ざめて貧血気味って感じだ。でも吸血鬼だから、もっと土気色っぽいのかと思ってたけど、耳が尖ってるとかも無いし普通の人間の顔だぞ! それなら──。


 恐る恐る指で唇を押し上げた。うぅ……他の歯より長くて立派な犬歯がしっかり生えてる。分かってたけど顔が普通だから少し期待するじゃん。調子に乗って見なければよかった。自分の体は吸血鬼なんだって身に染みてるのに、更に痛感させられた気分だ。


 おっといけない、そろそろ片付けに戻らなければ。鏡台やクローゼットの下も確認だ。……ゲッ! シルバーのリングだ。細身のデザインだからもしかしてアオイのかな? 現代は純銀のアクセサリーって少ないから、俺でも布をかませれば触れる。これはリビングのテーブルに置いておこう。


 それからベッドの下を弄ると雑誌があった。ファッション誌に、漫画、それからエロ本。隠し場所は外国人でも同じなんだな。


 そう言えば人間時代の俺の持ち物って、流石にもう処分されてるんだろうけど、あのエロ本って誰が処分したんだろう……? 友達は居なかったし……うん、考えない様にしよう!


 へー、トーマスってこう言う趣味なのか。悪くないじゃん。……って腰を据えてしっかり見てる場合じゃない、これもきっちり袋に入れておかなくては。トーマスがエロ本を見てたって証拠は掴んだ。むふ〜、ちょっと優越感。


 その時、外から風が吹く音がしてカーテンが大きく捲れた。しくった! エロ本に集中してたせいで、部屋の窓が少しだけ空いてた事を忘れてたんだ。窓の向こうにオレンジ色の夕日が見える。


「──っ!!」


 うわぁぁぁ! ま、眩しいっ、死ぬっっ!!!


 カーテンの動きがスローモーションの様に見えるのに、日光を浴びたショックで体が動かない。でも思ったほど死への恐怖は無かった。だって最期に綺麗な夕日を見れたんだ、元人間の吸血鬼にとっては良い死に方なのかもしれないな……。

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