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第二の前提②(読者にとって美とは)

 しかし、「売れる作品」を作るためには、最大公約数的な美を描き出すことが求められる。つまりは、より多くの読者が「美」と感じうる要素を、作者側が想像し、作品へ反映する必要があるのだ。これは文体に限った話でなく、ストーリー展開、キャラクター性、世界観……など、小説を構成する全ての要素に関してである。


 だが、ここで問題が生じる。読者がそれぞれ「美しい」と感じるものは、本来きわめて個別的で、互いに一致しづらい。ある読者は、丁寧な世界観の描写に美を見いだす。別の読者はスピード感のある展開を美とみなす。また別の読者は、キャラクター同士の繊細な心理描写にこそ、美が宿ると考える。先程述べたように「美」の違いは、その人が世界をどう捉えてきたかという根深い背景に支えられているため、簡単には埋められない。


 当然、数多くの創作者たちはこの現状を認識している。そうして一部の人々は、高い評価を得るために、最後の砦である「事実」へと頼っていく。例えば、某小説投稿サイトの場合、ある作者は連載小説の投稿時間をずらしていき、最もPV数を稼げるのがどの時間帯であるかを導出していた。また、統計を取らずとも、所感として人気のジャンルを察し、華麗な筆さばきで流行へとなじむ者もいた。


 創作論として、これらの事実を根拠として用いているものもある。

 では、事実だからこそ普遍的なのか? 「売れたい」と思っている同胞は、その創作論を参考にすれば、百パーセント売れるのだろうか?


 答えは否である。「悪役令嬢もの」が人気だった時期、確かにランキング上は、セレブのパーティー会場のように絢爛なタイトルで埋め尽くされていた。しかし、その裏では、見る影もなく散っていった悲しき令嬢たちがいるはずだ。某小説投稿サイトの場合、「悪役令嬢」タグがついている作品は、投稿日の時点で二万三千強もある。その中で百ポイント未満の作品は、八千弱。このことから、「悪役令嬢もの」の打率は低くないだろうが、全作品が高評価を受けたわけではないのである。もちろん、全ての創作者が救われる世界など、存在するはずがないのは明記しておく。


 なぜこの差は生じてしまったのか? 答えは至極単純で、明確な事実のみで作品は構成されないからである。例えば、「今は悪役令嬢ものが人気です! キャラ同士の会話劇を中心にして、序盤でチュートリアル的なざまぁ展開を繰り広げ、毎日投稿は欠かさないようにしましょう!」という短文のアドバイスを受けたとしても、筆はどこかで止まるだろう。ここで主人公は何を言うべきか、どこで誰をどう死なせるべきか。創作論は、作品の細部まで面倒を見てくれやしない。結局、流行りの作品を真似しようとしても、わずかな展開やセリフの癖に、各々の感性=美が表れてしまう。読者たちは無意識的ではあるものの、そこで残酷なふるいをかけているのである。


 以上のことから、読者にどれほどの「美」を感じさせるかが、売れる作品と売れない作品の差を決める。だが、「読者の思う『美』がなんたるか」という想像は、創作者によって異なってくるのである。


 すると、「売れる作品を書く」という同じ目的を掲げているにもかかわらず、創作論は互いに矛盾する。ある論者は「テンポを優先すべきだ」と語り、別の論者は「キャラクターの深堀りが最重要だ」と断言する。どちらも間違ってはいないが、どちらも万人に通用するわけではない。結局、その助言を「正解」として受け入れるかどうかは、読者(=創作者)の内側にある美的感覚と一致しているかどうかにかかっているのである。


 つまり、同じゴールを目指していても、そこへ至るルートは創作者の数だけ存在する。そして、その分だけ創作論は衝突する。ゆえに、創作論の「正しさ」は普遍的なものではなく、あくまで「誰にとって」「どの感性にとって」正しいか、という条件つきの真理に過ぎない。以上より、創作の目的が同じでも、美的感覚の差異によって、創作論の「正解」に絶対的真理は存在し得ないのだ。

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