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第二の前提①(美的感覚の違い)

 二つ目の例として、創作論の目的と、自身が創作する目的が一致する場合を考えよう。某小説投稿サイトの創作論エッセイには、このようなものがあるかもしれない。


『売れる小説を書くには?』

『読者に刺さるキャラクターとは?』

『ランキング入りするための構成術』


 ここで語られる創作論の目的は、明確に「読者に読まれる・評価される作品を書くこと」である。そして、同じ目的を共有する創作者がこれを読むのだ。ゆえに、一つ目の例の少年とは違い、目的の段階で食い違うことによって助言が無効化される、という種の問題はここでは生じない。


 だが、それでもなお、創作論同士には矛盾が生まれうる。

 なぜなら、同じ目的を掲げていても、創作者それぞれが抱く「美的感覚」が異なるからだ。


 前提として、美的感覚とは何だろう?


 以前書いたエッセイ「ここでは猫は好かれない」では、私は「美」の正体から逃げてしまっている。確かに、美とは何かを、明確に定義することは叶わない。それは人によって異なる本能的な感覚であり、ある個人に着目したとしても、何をもって「美しい」かを言語化することは難しいだろう。誰しも、無意識下の理屈は知り得ないし、明確に他の感情から切り離せるかも怪しいのだ。


 しかし、「美」はなぜ違いうるのか? その疑問には一考の余地がある。その問いは、「美とは何か」を定義することよりも、むしろ扱いやすい。なぜなら、美を感じるプロセスには、個々人の価値観が強く影響しているからだ。

 過去のエッセイでは、辞書的な定義を用いて美の追究を行っている。その際にお世話になったデジタル大辞泉(小学館)から、またもや一部を引用させていただこう。


『び【美】

 [名・形動]

(中略)

 3 哲学で、調和・統一のある対象に対して、利害や関心を離れて純粋に感動するときに感じられる快。また、それを引き起こす対象のもつ性格。「真善美」「美意識」

 4 味のよいこと。うまいこと。また、そのさま。

「―なる飲食をも悪しき飲食をも」〈今昔・三・二六〉』


 純文学における「美」とは、現実的な形や感覚として感じられるものでなく、内的な感情の揺らぎである。そこで重要なのは、三番で触れた「感動」という言葉である。感動とはまさしく「感情の揺らぎ」であり、その根源が喜びでも驚きでも構わない。大事なのは、それが単なる受動的な衝動ではなく、私たちの価値観や人生経験とも深く結びついているものだということだ。


 例えば、創作におけるワンシーンを想像して欲しい。主人公である勇者が、長きにわたる魔王との戦いを終え、十年ぶりに故郷への凱旋を果たす。華々しいパレードを終えて、一息ついた後、よく通っていたあぜ道を歩んでいく。やがて、麦畑に囲まれた赤い屋根の家が見えてくる。石造りのその家は、かつての姿よりも色あせ、壁にはわずかにひびが入っていた。すると、小さな戸が軋みながら開いて、一人の老婦の影が現れる。勇者の母である。彼女は勇者の元へたどたどしい足取りで駆け寄ってくるのだ。そうして彼は、十年ぶりに言葉を交わす。「ただいま」、と。


 拙い文章力だが、あなたなりの想像で補完していただけると、わずかな感動もどきを得られるのではないか。それはなぜか。もし、あなたの中に「健全な家族関係は尊いものだ」という価値観がなければ、その感動もどきは生まれていただろうか?


 感動の対象は、人によって違う。ある人にとっては、何てことない風景画が心を揺さぶるかもしれないし、別の人にとっては、街で聞こえてきた駄弁りが胸に刺さることもある。それは感動が、私たちが人生を通して積み重ねてきた経験や、大切にしている価値観に依存しているからだ。


 ここで重要なことは、感動の差異はそのまま美的評価の差につながるということである。先程の辞書における定義では、「利害や関心を離れて純粋に感動するときに感じられる快」が「美」だ。美を決定するプロセスに、感動という過程が挟まっているのである。同じシーンを描いても、どの要素に価値を見いだすかは人によって異なる。同時に、何を「美しい」と感じるかもまた違ってくる。


 以上を踏まえたうえで、美的感覚(美を美とする感覚)の違いは、我々の人生経験や価値観の違いに依存していると整理できる。

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