第6章:死者のカーニバル
「信じられない! 本当にこんなことが起きてるなんて!」――興奮しながら、私は電話でサキに次々と写真を送っていた。胸の鼓動はまだ速く、今体験している信じられない出来事に心が震えていた。けれど、最後の写真を送信し終えた瞬間、部屋の中に柔らかなざわめきが広がった。
「リカ。」――ドクロの一つの声が私を呼ぶ。その声に振り向き、完全に注意を奪われる。
「ごめんなさい! ちょっと興奮しすぎちゃって。」私は微笑みながら言う。彼らの奇妙で愛嬌のある姿に、自然と笑みがこぼれる。
一つのドクロが私の方へふわりと近づいた。
「その本……あなたが持っているそれは、あなたの世界と私たちの世界をつなぐ“橋”なんだ。これから言うことを、よく聞いて。」
「私の世界と……あなたたちの世界をつなぐ橋?」――私は息をのんでつぶやいた。興奮が胸の中で泡のように膨らんでいく。もっと知りたいという気持ちを抑えられない。「でも……ページは全部真っ白なの。そんなに特別な本なのに、どうして何も書かれていないの?」
ドクロたちは互いに目を合わせた。そのうちの一つが、ようやく口を開いた。
「それは、この本のページが満たされるのは、君が“謎を解く”か“救いを求める魂を助けた”ときだけだからだ。この本が開かれた瞬間、魂たちがこの世界に来ることが許された。そして、その魂たちは本の力に惹かれ、この世界にやって来る。君――すなわち持ち主の役目は、彼らを見つけ、そして安らかに眠らせることだ。」
「つまり……この本のページ一枚一枚が、助けを必要とする魂の一つを表してるってこと?」私は息を詰めながら尋ねた。魅力的な話に心を奪われつつも、その重さに圧倒されそうになる。
「その通りだ。」別のドクロが、少し低い声で説明する。「一つの魂を救うたび、そのページが自ずと満たされていく。君が“彼ら”の物語を終わらせるたびにね。」
その言葉に胸が高鳴る。死者と心を通わせ、彼らを救う――それは怖いよりも、何か崇高な使命のように感じた。
「じゃあ……もし何も解決できなかったら、このページたちはずっと真っ白のまま?」眉をひそめながら尋ねる。
「そうだ。」別のドクロが静かに答える。「この本の目的は“完成すること”。その行方はすべて君に委ねられている。」
思考が渦巻く。自分の行動が、魂たちの運命にまで関わるなんて。こんなこと、現実とは思えない。「どうしてそんなに詳しいの? あなたたちは、この本とどんな関係があるの?」
その質問に、ドクロたちは沈黙した。表情は――いや、“雰囲気”は――どこか重くなる。やがて、一つがゆっくりと語り始めた。
「私たちは……この『死者のカーニバル』の、かつての持ち主だった。」 「この本は長い時を越え、いくつもの手を渡ってきた。そして、未知に立ち向かう勇気と好奇心を持つ者を、常に選んできたんだ。」
私は息をのんだ。「すごい……! じゃあ、どうして今の姿に?」ほとんど息もできないほど興奮して尋ねる。彼らにそんな過去があるなんて、想像するだけで心が躍った。
ドクロたちはわずかに揺れ、どこか悲しげな空気を漂わせた。やがて、一つが静かに答えた。「私たちは……この本の“すべてのページ”を埋めることができなかった。その結果、本の望む使命を果たせず、こうして中に閉じ込められたんだ。そして次の持ち主を導く役目を与えられた。」
「そんな……ページを全部満たせなかったせいで、閉じ込められたの? 何があったの?」――胸が締めつけられるようだった。
「その通りだ。」別のドクロが低くうなずいた。「すべての魂が穏やかなわけではない。中には敵意や怒りに満ちた者もいる。いくつかの謎は単純だったが、そうでないものも……あった。」
彼らの言葉が胸に響く。簡単な冒険なんかじゃない。命を懸ける覚悟が必要かもしれない。でも――だからこそ、私はやるべきだと思った。
「わかったわ。」私はまっすぐに言う。決意が声に宿る。
ドクロたちはうれしそうに光を揺らした。一つが前に出て、明るく言う。「君を支えるよ、新しい“死者のカーニバル”の持ち主!」
「ありがとう! 頼りにしてる!」私は笑いながら答えた。胸の奥で、何かが静かに灯るのを感じた。
だがそのとき、ふと疑問が浮かぶ。「ねえ、そういえば……この本を見つけたお店と、私に本を渡したあの老婦人――あの人はいったい誰なの? 彼女も、この本のことを知ってたの?」
ドクロたちはぴたりと動きを止めた。静寂が訪れ、部屋の空気が一瞬で張りつめる。彼らは互いに視線を交わし、重々しく沈黙する。その様子に、私は思わず息をのんだ。
「……それは……」一つが口を開くが、すぐに別のドクロが遮る。
「その話はやめておこう。」その声はやわらかいが、妙な重みを帯びていた。「深く関わらないほうがいいこともある。」
「ご、ごめんなさい!」私は慌てて頭を下げた。「聞くべきじゃなかったのね……。わかったわ、もう聞かない。」
ドクロたちは穏やかにうなずいた。一つが近づき、優しく言う。「気にしないで。君の好奇心は悪いことじゃない。私たちも、かつてはそうだった。」
私は小さく笑った。
そのとき、ふとサキのことを思い出す。ベッドの上に置いたままのスマホに目をやると、背筋に冷たいものが走った。――放置したままだった。
急いで手に取り、画面を開く。無数の通知。サキからのメッセージが次々と並んでいる。その最後の一文に、私は息を詰めた。
『リカ、お願い、返事して!』
心臓が跳ねる。私は通話ボタンを押し、耳に当てた。
「もしもし!」――息を整えながら声を出す。
「リカ!? よかった! もう何回もメッセージ送ったのに……!」サキの声には明らかな安堵が混じっていた。
「ごめん、本当にごめん! えっと……ちょっと、すごいことが起きてて……」私は視線を漂うドクロたちに向け、困ったように笑った。「どうやら、新しい友達ができたみたい。」
—何ですって? つまり、あなたたちは任務を果たせなかったからここに閉じ込められているの? 何か、そうならざるを得ない理由があったの?――私の頭の中で、いくつもの考えが駆け巡る。さっき感じたあの圧迫感が、今はさらに重くのしかかってくる。
「その通りだ」――別の髑髏が認める。その声は少し真剣な響きを帯びていた。「理由は……すべての霊が君が想像するほど友好的というわけではないからだ。簡単に解決できるものもあったが、そうでないものも……多かったのだ」
その言葉の重みが胸を貫く。明らかに、これは簡単な仕事ではない。私は、やらなければならないと感じた。これはただの遊びではない。これは、すべての魂を救うための本当の冒険かもしれない。
「わかった」――私は宣言する。これまでになく決意が固まっていた。
髑髏たちは私の周りを嬉しそうに漂う。そのうちの一つが、少し近づいてくる。
「本のページを満たすために、私たちはできる限り君を支えるよ、新たなる『死者のカーニバル』の継承者よ!」――髑髏の一つが嬉しそうに叫ぶ。
「ありがとう! 頼りにしてる」――私は次に来るどんな挑戦にも備えるように言った。けれど、次にどんな魂や事件が待ち受けているのか考える前に、一つの疑問が頭に浮かぶ。「ところで」――私は教室で手を挙げるように言う――「あの本を見つけた店と、それを渡してくれたおばあさんのことは? あの人はいったい誰? 全部知っていたの?」
髑髏たちは突然動きを止め、気まずい沈黙の中に漂う。彼らの視線が交差し、その瞬間、部屋の空気が変わった。私は身動きが取れず、背筋に小さな寒気が走る。彼らの反応から、踏み込んではいけない話題に触れてしまったのだと直感する。
「あ……」――一つの髑髏が、言葉を探すように声を漏らす。
「その話は、今はやめておこう」――別の髑髏が遮る。その説得力ある口調に、私はこれ以上突っ込むべきではないと感じた。「深入りしない方がいいこともあるんだ」
「ごめん、ごめん」――私は慌てて言う。自分が繊細な領域に踏み込んだのを感じながら。「不快にさせるつもりはなかったの。知るべきじゃないこともあるって、わかってる」
髑髏たちはゆっくりとうなずき、一つがふわりと近づく。「気にしないで! 君の好奇心は理解できるよ。私たちもかつては君のようだった」
私は微笑みながらうなずいた。
そのとき、ふとサキのことを思い出す。ベッドの上に置いたままのスマホに視線を向けると、既読無視したままだったことを思い出して、背筋に冷たい感覚が走った。最後に電話してから、どれくらい時間が経っただろう?
考える間もなく、私はスマホに手を伸ばす。心臓が激しく鼓動する中、メッセージアプリを開くと、サキからの通知が画面いっぱいに表示されている。質問や心配の言葉が並び、最後の一文は叫びのようだった。「リカ、返事して!」
深呼吸をして、指を画面に滑らせ通話ボタンを押す。小さな髑髏の一つが興味深そうに近づいてきて、耳を傾ける。
「もしもし!」――私は落ち着いた声を装って答える。
「リカ! どうしたの? 何度もメッセージ送ったのに!」――彼女の声には、心からの心配がにじんでいる。
「本当にごめん! ただ……」――私は楽しそうに浮かぶ髑髏たちを見ながら言う。「ちょっと、新しい友達ができたみたいで――」




