第14章:三階の謎
三階に着くと、雰囲気が一変した。空気が冷たく感じられ、照明が微かに点滅している。まるで何かを警告しているかのようだ。廊下の奥に閉鎖されたトイレの扉が見える。その扉は傷んでいて、警告のマークが私たちをさらに近づくよう誘っているようだ。
「これは…変だ」とサキが呟いた。その声はささやき声で、無視できないほどの不安が込められていた。彼女の目は廊下をくまなく見渡し、私たちがトラブルに巻き込まれている兆候がないか探している。
「心配ないよ、私たちはただ好奇心旺盛な女の子たちなんだから」と私は答えた。実際の気持ちよりも自信があるように聞こえるよう努めた。しかし、近づくと、突然少しめまいがした。最初は軽いものだったが、近づくにつれて強くなっていく。
「リカ、大丈夫?」サキが尋ねると、彼女の目はたちまち心配そうになった。
「まあ、大丈夫」私は答え、落ち着こうとした。近づけば近づくほど、奇妙な感覚に包まれているような気がする。
突然、かすかなチリンという音が聞こえ、私は立ち止まった。肩にかけていたリュックサックが、かすかに振動し始めたのだ。私が質問する前に、スカリーズたちが、小さな光のように空中に浮かび上がった。
「リカ!」 皆が同時に警告し、その声は愛らしいカオスのように絡み合った。
「どうしたの?」と私は、まだ少しめまいがする中、尋ねた。
真面目なスカリーが前に出て、その深刻な表情が私に奇妙な不安感を与えた。
「この先には、より大きな精霊がいる…死者のカーニバルの記録に載っている精霊の一人だ」と彼は説明する。君がそんな風に感じるのは、その本を開いてから、君の霊的な感度が以前より鋭くなっているからだ…
胸がドキドキと高鳴る。霊的な感度?自分がそんなものを持っているなんて考えたこともなかったが、今になってすべてが納得できる。
「大いなる精霊…?」私は閉ざされた扉を見つめながら、緊張で震える声を絞り出した。「本当に大丈夫なのか?
別のスカリーが、蛍光色の目を輝かせて顔をのぞかせた。「間違いありません。そして、私たちが近づくにつれて、その存在があなたと共鳴しているようです。確かに、そのことを本に記録する必要がありますが、その前に、あなたは準備をしておく必要があります。これは普通の霊ではないのですから」
サキは、私を落ち着かせようとするかのように、少し近づいてきた。「リカ、戻ったほうがいいかもしれない」と、心配そうに言った。彼女の声はしっかりしているけれど、心強い。
今は引き返したくない。好奇心が私を前に押し出し、閉鎖されたそのトイレの謎が、網にかかった魚のように私を捕らえている。今は立ち去るべきだという論理はあるけれど、私の心の中では、もう少し調べてみるべきだという声がしている。
「ちょっとだけ見てみよう」と私は主張し、実際の気持ちよりも断固とした口調で言った。ドアの方を見た。「閉鎖中」の看板が私たちを嘲笑しているようで、無視しろと挑発しているようだった。
サキは心配そうな表情で私を見たが、ついにうなずいた。「わかった、でもちょっとだけね。何か変なことあったら、すぐに逃げ出すって約束して」
「約束する」と私は自信を持って言ったが、胸は激しく鼓動していた。
私は慎重にドアを押すと、ドアは長く鋭いきしむ音を立てて開いた。トイレ内の暗闇は、ほとんど手にとるように感じられた。中を覗き込むと、タイルはほこりで覆われており、奇妙な感覚が空気に漂っていた。
トイレに入ると、サキは私の後ろで、私を小さな盾のように利用しながら動いていた。暗闇が私たちを包み込む中、彼女の荒い息づかいが感じられた。一瞬で雰囲気が変わるなんて、不思議だ。冷たい風が私を震えさせたが、好奇心が私を前に進ませた。
「想像以上に怖い」とサキが囁く。その声は張り詰めた空気に震えている。
目が暗闇に慣れてくると、使い古された個室が見えてくる。すすり泣きが聞こえると、心臓の鼓動が速くなった。それは奥の個室から聞こえてくる。
「聞こえた?」私は興奮を必死に抑えながら尋ねた。めまいがひどくなったが、その不快感に耐えることができた。これは私が長い間探し求めてきた体験なのだ。
サキは私の腕にしがみついた。「リカ、これはとても奇妙だ…もう帰ったほうがいいかもしれない」
しかし、今さら後戻りはできない。本物の霊と対面する寸前だと感じた後ではなおさらだ。私はすすり泣きが聞こえる場所へゆっくりと近づいた。スカリーズたちが、鋭く光る目で私たちの周りを浮遊している。
私は慎重な足取りで、奥の個室に近づいた。そこからは、手に取るようにわかる恐怖の空気が漂っている。すすり泣きは続き、今度はさらに激しくなった。まるで深い悲しみが、その小さな空間に閉じ込められているかのようだった。私の肌は鳥肌が立ち、心の一部は振り返って逃げ出したいと思った。しかし、実際に何が起こっているのかを知りたいという欲求が、私をその場に留まらせた。
突然、個室の中からドスンという音が響いた。その音は激しく、突然だった。サキは驚きの叫び声を上げ、その声は部屋の壁に反響して、私も飛び上がるほどだった。驚きが稲妻のように私を駆け抜け、気がつくと、私たちは一緒に全速力で出口に向かって走っていた。スカリーズたちは私たちの後ろで、追いつこうとよろよろと浮いていた。
「だめ、だめ、だめ!」トイレのドアを押しながら、サキは叫んだ。彼女の顔は青ざめ、声はパニックに満ちていた。そんな彼女を見たことがなかった。それは私の恐怖をさらに増幅させた。
私たちは廊下で一息ついた。私の足は震え、落ち着こうとしながら、神経質な笑いが唇からこぼれそうになった。
「あれは何?あれは何?!」サキは、まだ震えながら叫んだ。「私たちが彼を怒らせたと思う?」
「そうは思わない」私は、自分の考えを整理しようとしながら答えた。「どういうわけか、彼は怒っているというよりも、悲しいような気がするんだ…」
サキは、私がどうしてそんな結論に達したか理解できないというように、困惑した表情で私を見た。
「どうしてそんなことがわかるの?」
「説明は難しいけど、たぶんスカリーズが話していたあの霊的な感覚のせいだと思う」と私は説明する。そのことを思い出すと、胸がときめき、お腹がくすぐったくなった。「彼らは、私がその本を開いてから、私の感覚が鋭くなったと言っていた。彼に近づいたとき、何かが私に悲しみの感覚を与えたんだ。」
サキは、まだ疑わしいという表情で眉をひそめた。「じゃあ…トイレにいる霊は悲しいの?これってすごく変だよ」
「そう、そうなんだ」と私はすぐに言った。「でも、この霊に何が起こっているのか、確かめるべきだと思う。助けが必要かもしれない」




