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夏の魔法にかけられて  作者: SAEZURI
1/5

一行事目

これは、僕が、夏の魔法にかかった話だ。


太陽が照りつける中、僕は通学路を歩く。一定の間隔で建てられている電柱。その影に入った時、全てを忘れられるぐらいの心地よさが感じられる。僕の名前は小林多樹。今は8月の初め。もう学校は夏休みだ。では何故学校に来ているのか。理由は一つ、受験勉強するため。高三の夏休みと言うこともあり、追い込みをかけるなら今しかないと思った。そこで、学校で行われている夏期講習的なものに参加することにした。本校は一応進学校で、大学を目指す人がほとんどだ。ただ、普通に就職もできる。

「にしても…蝉うるせぇ!!」

夏の醍醐味の一つ、蝉の鳴き声。この鳴き声を聞けば、あぁ、夏になったんだなと思うのと同時に、毎夜毎夜あの鳴き声が頭に響く恐怖を思い出させてくれる。

「はぁ、せめて曇ってくれたらいいのに…」

そう言いながら僕は空を見上げる。見渡す限りの青い空。雲一つない快晴だ。

「あぁ、見れば見るほど暑くなる…」

そんな、厚さで愚痴しか言えない様になっていた僕に話しかける人がいた。

チリンチリンとベルを鳴らし自転車が近づいてきた。

「よっ、お前部活入ってたっけ?」

こいつは坂上桃李。初めて会った時は何で読むのかわからなかったが、とうりと読むらしい。

「いや、受験勉強しに行くところ」

桃李は僕のクラスメイトで、明るく元気のあるムードメーカーってやつだ。僕たちが知り合ったのは高一の入学式だった。確か僕が通学している時に自転車でこけてる桃李を保健室まで運んだのが出会だったな…

「多樹、お前、真面目だな…」

「そうか?」

「俺からしたらな。」

桃李は一般企業に自己推薦で行くらしい。今は願書を書き始めているとこだろうか。

「あ、そうそう。今度海行こうぜ海!お前あんま行かねーだろ?なっ、行こうぜ!」

「あー、はいはい。で、いつ?」

「今週の土曜。水着は持ってんだろ?なかったら中学の使え。」

「分かった。集合場所と解散時間は?」

「そう言うのは後で連絡するから!俺もう行かないと部活遅れるー!」

後から聞いた話だが、部活開始のギリギリに起きて、ダッシュで自転車を飛ばしていたところに僕がいたから話し込んだと。あいつも大変だな…

「それにしても、海か。いつぶりだろうか。楽しみだな。」

僕は普通の海を楽しみに待つ高校生だ。だが、僕には一つ悩み事がある。いつからかは分からないが、笑顔が作れないことに悩まされている。苦笑いや微笑などすら出来ない。笑うと言うことがどう言ったものかが分からない。いつからこんなふうになったのかな…

「小学生の時はこんなんじゃなかったのに…」

無邪気で何もかもが楽しく思えた日々。ある意味極楽浄土だったのかもしれない。

「はぁ………よし!切り替えていこう!」

僕は気を取り直り学校の夏期講習に向かった。


「やばっ…どうしよう…」

夏期講習から帰ってきた僕は、早速水着を探した。が、高校に入ってから海に行く機会がなく、中学の水着もいらないだろうと思い捨てていたため、水着がない!と言うのが今の状況だ。

(いや、焦るな…まだ予定日まで時間があるはずだ…)

僕はカレンダーを見た。

8月15日金曜日。予定日は今週の土曜だから…

「!!」

(明日じゃん!どうしよう…よし、買いに行くか。)


「いらっしゃいませー。」

何でも揃う品揃え抜群のトライヘルにきている。最近は食品から日用品、車まで売っているらしい。もっといい場所は無かったのかって?どうせ今回の一回しか水着は着ないんだから安いやつでいいだろうと思って。

「水着、どんなのにしようかな…」

僕はひとまず水着コーナーに行ってみることにした。


「えっ、広!こんなに種類あんの!?」

図書館の本棚2個分ぐらいの広さに水着が並べられていた。

「何これ…男子は海パンだけじゃないんだ…」

水着の多さに驚きながら僕は水着を選び始めた。

「うーむ…分からん。これ、全部黒じゃないのか?」

黒い様に見えて黒じゃない。この黒とあっちの黒は違う。奥が深い色の世界。

「あれ?小林くん?こんなところで奇遇だね。」

色の世界に感心していた僕にJKが話しかけてきた。

「あ、寿さん、こんにちは。」

「小林くんも水着?あ、もしかして坂上くんから誘われた?」

「うん、寿さんも?」

「うん!そうだよ!」

寿愛菜ことぶきまなは僕のクラスメイトで、誰にでも明るく優しい、高嶺の花の様な存在だ。

「小林くんも、水着なかったの?」

「うん、もう捨てちゃってて、」

「私も。中学の水着が入らなくて…」

恵まれた体格をお持ちの寿さんはそう言った。

「海、楽しみだね〜。」

「うん。」

「僕は決まったから先に行くね。じゃあまた明日。」

「うん、また明日。」


(寿さん、綺麗だったな…)

僕は率直にそう思った。髪は少し長いボブで、前髪は左側だけピンで止めている。少し茶色がかった髪が揺れるたびにほのかに甘い花の匂いがする。彼女を嫌いな人間は存在するのだろうか。

「レジ袋はどうされますか?」

「あ、大丈夫です。」

一瞬で現実に引き戻された。

明日、楽しみだな。


(うわぁ〜、緊張した〜。)

私はあまり人と話すのが得意ではない。が、いつのまにか、高嶺の花なんて言われ出して、私の周りには人が集まってくる様になり出した。

(それにしても、小林くん、あんま変わってないな。)

寿愛菜。通称マナっちは現在片思い中。

(小林くんがこの高校に行くからと言う理由でわたしは高校の志願書を書いた。別にストーカーって訳ではない。決して。)

(私と小林くんの出会いは、幼稚園に遡…)

「あの…」

気づけば、私の後ろに買い物カゴを持った奥さんが立っていた。

「あ、すいません。」

私は急いで隅に避けた。いつの間にか道をふさいでいたようだ。

とにかく!明日こそ、告白してやる!

彼女はやる気に満ちていた。

夏休み限定の五話完結ストーリー。第一話、楽しんでいただけたでしょうか。次回は7月21日の10時10分です。次回もお楽しみに。

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