隣国の王太子さんさぁ···
「マルガレア=トラウト公爵令嬢!余は貴様との婚約を破棄し新たにこのティファと婚約を結ぶものとする!」
トンウラ王国の貴族が入学を義務付けられている貴族学園、その卒業パーティーで稀代のうつけ王太子ミットガルドが婚約破棄を宣言した。
驚くことに相手は平民の特待生ティファである。
「はぁ···理由をお聞かせいただいても?」
「そのため息は何だ!?不敬であるぞ!よく聞け!貴様は平民である事を理由にティファを虐げた!未来の国母たる王妃になる者として恥ずかしく無いのか!?」
「誤解があるようですので説明させていただきますね?まず私は何もしておりませんわ、ただ婚約者のいる方に言い寄ってはいけませんと苦言を呈しただけです、そしてそれを無視し殿下に近づくのを止めなかったため同じく婚約者のおられるご令嬢様方が注意していたのを虐げてたように見えていただけでは?」
周囲の貴族達、特に令嬢達はその通りだと頷き完全に会場を自分の味方につけるマルガレア。
そしてティファは普段の可憐な顔立ちからは想像も着かない般若のような顔でマルガレアを睨み付ける。
「クソ女がぁ···!」
「ティ···ティファ?」
本性を現すティファ、本来なら不敬罪で処刑されてもおかしくないがこれから待ち受けるであろう地獄の事を考えればこのような些細な事は見逃してあげなければ可哀想であるマルガレアはそう考えた。
「面白い事をしているね」
隣国のカーム王国の王太子であるガルフレアだ、ミットガルドとは比べ物にならない優秀な王子である。
「何の用ですかな?ガルフレア殿?これは我が国の問題だ」
「私も学園の卒業生の一人だ、部外者という扱いは酷いね」
「ガルフレア様、ご機嫌麗しゅうございます」
「マルガレア大変だったね、安心して今終わらせるよ」
笑顔でマルガレアに告げそしてその表情のまま、しかし愚物を見る絶対零度の目でミットガルド達の方を向く
「それで?マルガレア嬢がその平民を虐めたという証拠はあるのかな?」
「ティファがそう言っているのが何よりの証拠だ!」
「お話にならないんだよ。だったらそこの平民がマルガレア嬢に危害を加えたから処刑しろと言えば通ってしまうだろう?」
その通り、実際やろうと思えば平民などいつでも存在ごと消せるのだとマルガレアは共感する。
「屁理屈を言うなぁ!」
「そして我が王国の護衛であり影がそこの平民を常に監視していたがマルガレア嬢が接触したのは1回のみで婚約者のいる者に近づくなと注意した時のみだ」
「貴様の身内だろう!?信用できるかぁ!」
「つまり貴国にも同様の存在がいるとは思わないのかね?王太子の婚約者なら常に護衛と監視が付いているはずだが?」
「あっ···」
勝負ありだ。ミットガルドは顔面蒼白となり呆然とする
「ガルフレア様ぁ~あの人の取り巻きに虐められて怖かったですぅ~」
「君に発言と私の名を呼ぶことを許可していないよ?平民」
ティファをゴミのような目で見るガルフレア
「私は見なかった事にするとしてもマルガレア嬢に対する名誉毀損と侮辱罪、王子との結婚以前に君自身に未来はあるのかなよく考えた方が良い」
「そんな···」
ティファは絶望に顔を歪める
「そして本題だけどマルガレア嬢、ずっと貴女をお慕いしていました、私の未来の王妃になっていただけませんか?」
「はい、喜んでお受けしますわ」
パチパチパチ
会場から割れんばかりの拍手が巻き起こる、それはそうだ婚約破棄からの逆転劇···巷で話題の恋愛小説の展開を目の前で見れたのだから。
「さて···では私達は国へ帰るがミットガルド王子、今回の件は陛下に報告させて貰うよ、貴殿が未来の王である以上は貴国との関係を考えねばならぬだろうし他国も追従するだろう」
カーム王国は大国でありその影響力は凄まじく見捨てられたとあっては国が傾くほどのダメージだ
「真っ先に貴殿は切り捨てられるだろうね、まぁ後は貴国の問題だ、私は預かり知らぬけどね」
こうしてトンウラ王国で起こった王太子による婚約破棄事件は隣国のカーム王国の王太子によって逆ざまぁされる結末となり社交界を多いに賑わせた。
「マーベット=ゾルヘイム伯爵令嬢、貴女との婚約を破棄させて貰うよ」
「·····はあ」
「ど···どういうことですの?」
マルガレアは困惑した、まさか本国に婚約者がいたのだ。
「隣国の公爵令嬢であるマルガレアと婚約する事にした、君は地味な顔立ちで他の令嬢とも交流を持たず本ばかり読んでいる未来の王妃としては相応しくない」
「婚約破棄承りました、ゾルヘイム家当主に報告いたしますため返答までお時間を頂戴します」
そう言うとマーベットは無表情で部屋を出た。
「気味の悪い女だ、愛しの君と婚約できてやっとアレから離れられる」
「オホホホ···」
これじゃミットガルドと同じじゃないか?マルガレアはショックを受けた。
まるで自分はマーベット嬢と別れるための口実だと言われてるような気がした。
そして後日、陛下に謁見することにかなったが···
「貴様の王位継承権を剥奪し第二王子に譲るものとする」
「馬鹿な!?それにアレはまだ子供ではないですか!」
なんと王位継承権を奪われ弟に···しかもまだ子供の王子に授ける事となったのだ。
「トンウラ王国から抗議が入った、王太子の婚約者が我が国の王太子に誘拐されたとな」
「誘拐だと!?あれは不当な婚約破棄から彼女を···」
「あちらはそうは思っていない、何の手続きも踏まず国を出たのだろう?さらに我が国が覇権国家のように振る舞い関係性を盾に脅迫したそうだな?他国との関係性は貴様ごときが決めて良いものでは無い」
マルガレアはカーム国王の自分に一切視線もくれずに淡々と話す様に恐怖すら覚えた。
「そしてゾルヘイム家との関係悪化は不味い、おそらく多くの家からの反発を招き求心力を失うだろう」
ゾルヘイム家はカームの影の実力者と呼ばれる一族で国の経済を動かしているといっても過言では無く王家に次ぐ派閥を形成している、独立または敵国に寝返られたらシャレにならない。
「マーベット嬢はとても優秀でな、第二王子の妃とし支えて貰う事にする」
「そんな··馬鹿なぁ···」
「マルガレア嬢にはすぐに祖国にお帰りいただこう、馬車の手配を」
その後ガルフレアは離宮に幽閉され第二王子が王太子となりマーベットと結婚、子をなした。
第1子が大きくなり第二子が生まれたことでガルフレアは用済みになり島国の女王の側室として一生を過ごした。
イケメンだから正室より寵愛を受けていたそうな。
一方トンウラ王国では
マルガレアが国に帰ったらミットガルドとティファの結婚が決まり国中大にぎわいだ。
どうやら2人は特にお咎め無く結ばれたようだ。
ティファはトラウト家の敵対派閥の侯爵家に養子として引き取られしばらく貴族令嬢としてのマナーや作法を学ぶ事になりそうだ、ミットガルドはあれから心を入れ替え宰相の指導の元で政務をこなしている。
どうやらガルフレアの脅迫じみた言葉が逆にミットガルドに私がティファを守らなければと思わせ愛がさらに深まったようだ。
「ここまで愚かだったとはな、貴様には失望したぞ、せめて最後にトラウト家令嬢としての責務を果たせ!」
トラウト公爵はご立腹だ、結果的に王妃の座を憎き侯爵家に奪われたのだから
「ギ辺境伯家に嫁いで貰う!当然だよな?貴様は貴族なのだから」
ギ辺境伯···北方の荒れ地の部族から取り立てられた家だ···
若い令嬢達からは煙たがられていたが中央との繋がりが欲しい当代により息子のバゼラとの婚約を持ちかけられたのだ。
「オメーがオデの妻か!愛でてやるど~」
「イヤアアアアア!」
バゼラ·ギ、野獣のような顔と体躯の巨漢、美形の子息達が見渡せばどこにでもいた王都とは別世界に来た事を実感したマルガレアは過去の所業を嘆くばかりであった。
少し遡って婚約破棄事件直後のトンウラ王宮
「申し訳ございません···陛下···私の命は差し出します故、どうかティファだけは···」
「顔を上げなさい、君の気持ちはわかってるつもりだよ」
「!?」
「私も昔、身分違いの恋をしていた···男爵令嬢だった彼女と一緒になるには絶望的な壁があったんだ···結果的に無垢な彼女を王宮の汚ない世界に放り込むよりは彼女には全うな幸せを掴んで欲しくて諦める事にした、私に勇気が無かったと言えばそれまでだけどね···」
「その後、その方は?」
「彼女は商家の跡取りと結婚し今じゃ国一番の大商人の奥さんだよ」
「な···なんと!」
「勿論今愛してるのは君のお母さんだよ、だがこの苦い経験があったからこそ今の私があるんだ」
「父上にそんな過去があったとは···」
「それで?君はどうするんだい?」
「私は···」
数年後、トンウラ王国とカーム王国の式典で身分差カップルと年の差カップルが国王夫妻として出会うのはまた別のお話。
終わりだど!
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