出会い頭
「海のばっかやろおおおおおおおおおおおおおおおおお」
打ち寄せる波に負けないぐらいの魂の叫びをぶち撒ける。
意中の女子を放課後に呼び出すも、1時間待ちぼうけをくらった末の叫びだ。
「くそ、なんで来てくれないんだ!」
放課後の砂浜での告白。自分なりに考え抜いて一ヶ月以上前から決めていた計画だった。
せめて断られたのだったら諦めが付く。
一生懸命考え抜いた告白のセリフ。
「この男子高校生タツオに舞い降りた下天の天使……」
砂浜に呟いたってどうにもならない。
「俺のバラ色の高校生活が……彼女とキャッキャウフフと泳いで遊ぶために、夏用の水着だって買ってあるのに」
これじゃ去年と一緒で親友のタケシと市民プールで遠くから女子を眺めるだけの夏になってしまう。
タケシにマウントが取れない!
「くっそお。もう、なんでも良いから可愛い彼女欲しい!」
あまりの絶望的な未来に膝を尽き、嘆く。
パシャン。
何か跳ねるような僅かな水音が聞こえた。
――ズザアアアアアアアアアアアアアアア。
凄まじい砂浜を削る音と共に、ちょうど顔の下にナニかが滑り混んできた。
「はい! ここに立候補者がいます!」
それは確かに美少女だった。
すらっとした顔立ちに丸いぱっちりとした瞳。真っ白な肌はシミ一つ無い。
「やったあ、女子だ……じゃねえよ! お前なんなんだよ」
視線を女の子の上の方にずらしていくと
「うわ、やわらかそう……って、馬鹿!?」
見てはいけないものに気づいて慌てて背中を向ける。
「服ぐらいきろよ!」
「えーーでも私人魚ですしー」
呑気な声が背中から帰ってくる。
「あーなるほどね。人魚だからか。だから服着てないんだ……はあ!?」
振り返るもおっぱいに負けること数分後……、
「くそ、相手は魚だ。所詮魚類。見るな……これを着ろ!」
「はーい」
なんとか渡したシャツを来てもらってから振り返る。
パツパツになった羨ましい俺のシャツをスルーしつつ下半身を見れば確かに、よくあるTHE人魚といった下半身だった。
「まじで人魚だ」
「はい、人魚です」
「どうして」
「恋人なろうと思って」
「こ、恋人……つまり彼女ってことか」
「そうですよー」
にへらと笑う少女。
ちょっとアホそうだが下半身を除けば正直文句なしだ。
可愛い、間違いなく可愛いが人魚じゃなあ……いや、可愛い、しかし卵だ。
このままだといかんいかん思春期のリビドーが暴走しそうだ。
「さっさと海にでも帰れよ」
「えーーーー」
「だいたいなんで俺が良いんだよ」
「昔つられかかっていた私を助けてくれたじゃないですか」
「え、あーーー……うん。そうだね」
ゴミ捨てたまま変える、ムカつく釣り親父が居たから腹いせにクーラーボックスぶちまけてたやつかな。
「だって、なんでも良いって言ったじゃないですか」
「う、たしかに言ったが」
どうにか誤魔化さないとまずい。
「そうだ。人間ってのは第一印象が大事なんだよ」
「それは貴方が悪いんですよ。こんな嵐の日にするから。これじゃ私以外の女の子なんて来ませんよ」
「魚にはわからないかもしれないが、吊り橋効果ってやつがあるんだよ!」
くそ、なんで魚に正論なんてはかれなきゃいけないんだ。俺だってもしかしたらそうかもっておもってたのに!
「あー、わかりました。じゃあ、もう一度だけチャンスを下さい」
「え?」
「第一印象を良くします」
今更ナニをしようともう第一印象は決まってると思うが、なんとなく話がまとまりそうな気配を感じる。
「よし、じゃあ一回だけな!」
海に戻ろうとして地面を一生懸命這いずるの手伝ってから30分。
ナニも起きない。
波も大分あれてきた。
「もういいか」
帰ろうとした海に背を向けようとした矢先、
「あ、やべ」
特大級の波がいきなり襲ってきた。
「っっっつ!」
慌てて走り出すも間に合わない。
「タツオさーん!」
人魚の声が聞こえたとおもった瞬間、上を見上げるとその姿が。
背中に薄い二枚の跳ねのようなものが見える。
「え!?」
ーーそこで俺の記憶は途絶えた。
気づけば砂浜で2人転がっていた。
「あ、起きた。ねー、私天使みたいだったでしょう?」
「おまえ……」
間近な顔はまさに天使のような無邪気な笑顔で。
「可愛いから許す」
文句言う気も失せた。
「わーい、可愛いって言ってくれたー」
嬉しそうなのはなによりなんだが、全身擦り傷で痛い。
そういえばこいつ最初のときも胴体着陸だったな。
「体中痛いんだけど?」
「私もそうなんですよ~だから海にすみましょうよー。痛くないですよー」
「無茶言うな!」
たしかに俺の下に降りた天使は綺麗だった。
魚臭かったけど。