正義の審判を下した女の末路と、私達
「出して!出しなさい!ここから出してよ!」
数週間後に優の監禁場所へと足を運んだ翡翠は、まだ大騒ぎする元気があるのかと辟易した。
優にさらなる絶望を与えるためには翡翠の協力が必要不可欠だと言われたが……本当に翡翠がとどめを刺すことなどできるのだろうか?半信半疑になりながらも、翡翠は檻の外から優へと声を掛ける。
「赤見さん」
「……っ、翡翠!?助けに来てくれたの!?変身コンパクトを破壊されて出られないの!早く檻を壊して!」
檻から出ようと必死に訴えかけてくる優と目を合わせた翡翠は、優に向けて残酷とも言える言葉を放った。
「野良猫を毎日のように痛めつけている犯罪者を、どうして私が助けないといけないの?」
「……な、なんで、知って……!」
優が驚愕の表情を浮かべたことを確認した翡翠は、背後に並び立つ憧の手を握りしめて笑顔で悪びれもなく言い放つ。
「私は赤見さんのことを仲間だなんて思ったことは一度もないんだ。ごめんね」
「裏切ったの!?」
それから優は、騒がしく叫び続けた。憧が居なければ、耳を塞いでさっさとこの場を後にしていたことだろう。
酷い罵詈雑言の嵐を耳にした翡翠は、優を黙らせる為に声を張り上げた。
「赤見さんは悪いことしたから、こうして閉じ込められているんだってどうしてわかんないかなぁ!?反省しなきゃ、一生ここで暮らすことになるんだよ!?」
「あたしだって反省しているわ!悪かった。これでいいでしょ!?仲間のよしみで許してよ!」
仲間だと思って下に見ていた人間に売られたと知った優は、翡翠に取り入って助かろうとした。悪びれもなく心の籠もっていない謝罪を受けた所で、翡翠が許しても憧が許すはずもない。
「言ったでしょ。仲間だなんて思ったことは一度もないって。謝罪する相手を間違えている時点で、赤見さんの負けだよ」
「謝ったじゃない!どうして許してくれないのよ!出して!出せ!いやああ!」
騒がしい叫び声を聞きながら、翡翠は憧を伴って監禁場所を後にする。憧の手を握り締めてから、彼女は一度も口を開いていなかった。どうしたのだろうかと顔を覗き込めば、憧は消え入りそうな声でポツリと呟く。
「わたしのことを……。仲間だと、認めてくれているとは思わなかったわ……」
先程優のことを仲間ではないと口にした翡翠の話を聞いて、思うことがあったのだろう。憧は言いづらそうに翡翠へ告げた。翡翠は憧の手を握り締め、輝かしい笑顔で彼女へ言葉を返す。
「何言っているの?あれだけたくさんの危ない橋を渡っているのに、それはないんじゃないかなあ?憧は、私にとって最高の相棒だよ!」
輝かしい笑顔を浮かべる翡翠の顔を呆然と眺めていた憧は、翡翠に遅れること数分。
「……わたしも。世界で一番、大切な相棒だと思っているわ……」
翡翠の前では一度も浮かべたことのない輝かしい笑顔を見せ、翡翠の手をしっかりと握り返したのだった。