1.出会い
激しい雨の中、血と泥にまみれた体を起こしそれを見つめる。
両腕の無い少女は暗い闇の底で作られた生の感じられぬ瞳をこちらに向けその姿に似合わぬ明るい口調で問うてきた。
「ごはんくれなきゃころしちゃうぞ~~」
この数分の出来事に処理が頭が追いつかない。
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「毎度ぉ旅人のねぇちゃん?..いやにぃちゃんか?すまねぇあんまり"雑種"は見かけなくてよ」
「いえいえ分からなくとも無理はないですよ、私は様々な種族特性が混ざってしまってて性別の境などあって無いような物なので」
「そかそか!まぁどんな種族でもウチは公正な取引がモットーだから贔屓にしてくれよな!」
「ああ、頼むよ」
言葉を交わしつつ物々交換を済ませ行商のキャラバンを後にする。
吹き付ける風は雨が降るから気を付けろよと私に語りかけてくる。
(どんな種族でも...か。)
『お前のような雑種、拾わなければ...』
『お母様、あの人ほんとにぼくたちの仲間なの』
『お前のような雑種に我らの領地を歩かせるとでも?』
(私は一体何なのだろうか)
悩むのもこれが初めてではないだろ、だからもう考えるな。
答えを見つける為の旅なのだから。
しかし悲しきかな、暗いことを考えているときは決まって雨だ。
黒い雲が昼を閉じぽつりぽつりと振り始めた雨は次第に強さを増し、しっかりと感じられるほど重みを持つ雫となって肩にのしかかってくる。
こんな草原では雨宿りする場所もろくに無いので諦めようかと思ったが灰に陰る視界の遠方に馬車が映る。
しめたと思い全速力で走り向かい幌をめくり手慣れた動作で積み荷の間と間へするりと入り込む。
雨の音でかき消されたのが幸いし御者には気づかれずにすんだ様だ。
塗れた外套を骨組みへ吊るし揺られていく。
ふと積み荷は何かと気になったが樽の蓋を開けずとも気付いた。
(なるほど、この匂いはヤクか。おまけにかなりの上物、少々資金として拝借させてもらうとしよう)
樽に手を伸ばしたその時だった。発砲音の後間もなく視界が回り腹に激痛が走り意識が暗転する。
どれくらいたっだだろうか。
再びの激痛に意識が戻される。
「い"っ...」
ここは...馬車の中か、積み荷が散らかっている所からみて横転したのだろう。
先ほどから痛みを訴えてくる下腹部は壊れた馬車の骨組みが突き刺さって貫通していた。
抜こうにも長く下手に動けば内臓が抉られるかもしれない。
(矢に刺されておいて良かったと思うのは初めてだよ...)
腹から飛び出ている骨組みの中間部分を前回の経験から改造したのこぎり状の短剣で斬ろうとする。
「ぅぐっ...」
刃が往復するたびに痛みが響いてくる。
痛みに耐え往復してるうちに削り斬れた骨組みをどかし破れた馬車の幌から這い出る。
体に対して垂直に刺さっていたら這い出ることなど出来なかっただろう。
今だけは自分の悪運に感謝しておかなければ。
馬車だったものから出ると目の前に広がる惨状に動揺しそうになったが冷たく重い雨が冷静さを取り戻させてくれた。
それに加えて先ほどから風が動くなと警鐘を鳴らしている。
爪か何かで何重にも切り刻まれた大きな傷を残す死体、内側から裂かれたかのように肉花開く死体、頭の無い死体、死体。死体。死体。
ふと気になった。
馬の死体が無い。
確認はしていないが足音からして馬だったはずだ。
逃げられたのか。
いや、私の想像力の産物は背筋に悪寒が走らせた。
ご丁寧にも人は食わず遊びで殺し味の良い物だけ喰らったに違いない。
最初の銃声の主は馬車を襲うもそれに殺されたのだろう。
惨状の創造者がこの場から去っていることを願わんばかりだ。
「ねぇ」
「!?」
反社的に声の方に頭を向けると崩れた馬車の上に何かが立っているではないか。
少女だ、腰元にまで伸びた髪を重力に任せ大きさの合わない小さなボロ布を纏った少女がこちらを見ている。
灰に染まった雨の中からはよく見えないだけかもしれないが両腕とも無いように見える。
彼女もこの惨状の被害者なのか。
否、彼女こそが惨状の主なのだろう。
でなければ私を見る目がこんな光を求めぬ目であるはずがない。
両腕の無い少女は暗い闇の底で作られた生の感じられぬ瞳をこちらに向けその姿に似合わぬ明るい口調で問うてきた。
「ごはんくれなきゃころしちゃうぞ~~」




