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冒険の始まり

 



「はぁ? パーティも組んでない、ダンジョン予約も取ってない、あげくギルド登録すらしてないだとぉ!? 何しに来たんだお前!!」


「うっ……知らなかったんで……」


「講習は受けたはずだろうが……。信じ難いことに冒険者証(ライセンス)は本物みたいだな……」



 そう言えば講習で言ってたような言ってなかったような……。

 話が長かったから「ギルドに行ったら何とかなるか」と聞いてなかった。


 迷宮対策部、通称ギルド。

 東京都千代田支部に足を運んだのだが、さっそく支部長にどやされてしまう。



「……今日の宿代も稼ぐつもりだったんだけど」


「『()()()()』だ。はぁ……(あずま)知春(よしはる)、十五歳か、若えな。立川、今日の一層予約は?」


「まあ、空いてますけど……」



 受付の立川さんは、手元のパソコンですぐに空き状況を検索してくれる。

 本当に大丈夫? とでも言いたげな顔だが。



「だとよ、ラッキーだな。ただし、流石に初心者を一人で潜らせる訳には行かねえ。せめて、ペアを組め。そしたら一時間だけ潜らせてやる。そしたら漫画喫茶代ぐらいにはなるだろ」



『ペア』というのはたしか、ダンジョンに潜る人数の単位の一つ。

 二人組で『ペア』、四人組で『パーティ』、六人組で『フルパーティ』になるんだったっけ。



「え、でも誰と」


「そこまで面倒見切れるか。この時期なら今期の新米どもがギルド中うろついてるだろうよ」



 冒険者講習を経て資格が発行されるのは、春と秋の年二回だ。

 そして、今は春。

 俺と同じように今期あたらしく冒険者になった人たちが、ギルドの食事所と交流所を兼ねた二階のスペースで賑わっているらしかった。



「そうだ、良いもの貸してやる。ほれ」






 ・・▼・・◀︎・・SWICHING・・▲・・▶︎・・






 ギルド二階の広間で、大きな看板を掲げて立つ。



『即日、ペア狩り募集。一階層のみ1時間。当方初陣の騎士』



 本当にこんなので来るのかと疑いたくなるな。



 アテもツテもないから、一人でダンジョンに潜れない以上、仲間を募集するしかない。

 ネット掲示板などで募集することもあるらしいのだが、即日募集は難しいみたいだ。


 ところどころでざわざわと、「あいつ何やってるんだ?」とか「誰か一緒に潜ってやれよw」みたいな声が上がる。

 別に晒しあげられてる訳ではないのだが、珍しいことに違いは無いようだ。


 小一時間ほどぼーっとしている間に、一人の少年が話しかけてきた。



「なあ、あんた。俺で良ければ組むぜ」


「来た!」


「初心者だろ? 俺もまだダンジョン童貞なんだ」


「あ、うんよろしく。騎士の東知春です」


「よろしく。俺は戦士の中島琥珀。コハクで良いぜ、トモハル」



 コハクの背格好は俺と同じぐらい。

 自分で言うのもなんだが、俺は田舎臭い格好をした、いわゆる"芋っぽさ"がある。

 対して、コハクはパーカーなんぞ被ったいわゆる"今っぽさ"があった。


 事情を説明しながら、ギルド一階の受付へ向かう。



「やっぱな! 同い年だと思った。 ザ・中卒って感じだもんな」


 話しているうちに年齢の話題になった。

 俺もコハクも中卒、15になる歳。

 冒険者資格を取ることのできる、一番若い世代だった。



「俺も同期の講習打ち上げ行ったんだけどさー、やっぱ中卒って相手されねーのよ」


「へー、打ち上げなんてやってたのか」


「げ、おまえ行ってねーのかよ。まあ俺も見覚え無いからおかしいなーとは思ったんだけど」



 冒険者資格を取るほとんどの人は、高卒か大卒、専門卒だ。

 命の危険を伴う職業であるため、法律的には15歳でも可能だが、倫理的には18歳から、というのが一般認識。


 コハクの話によると、冒険者界隈でも15歳とパーティを組んで命を預け合うのは、少し敬遠されているところがある。

 判断力、精神力もさることながら、"長く冒険者として続けられるか"という資質面を問われることも多いらしい。



 ギルド受付へ行くと、先ほど対応した立川という女性が奥から支部長を呼び出す。


「支部長ー。東くんが来ましたよー」


 支部長が来るまでの間、立川さんに講習でダウンロードさせられた冒険者専用アプリから、ダンジョン予約と冒険団登録のやり方を教わる。

 今時、書類仕事などほとんど残っておらず、スマホひとつで手続きができる時代だ。



「お、見つけたか。運の良い奴め」



 登録を終えて待っていると支部長が顔を出す。

 相変わらず濃ゆい顔が今時な感じをさせないが、面倒見だけは良さそうだ。



「いいか、1時間だけだ。ダンジョンはお前らが思うよりずっと危険だ。正直、ギルド貸し出しのボロ装備なんかじゃ送り出したくない。……まあでもお前らにも事情があるだろうし、今回は特例で許可する」


「うす! 様子見程度で行ってきやす!」


「よろしい。そこの大バカは不安だが、お前は多少まともそうだ。気をつけて行ってこい」


 コハクが元気よく返事をする。

 そこの大バカとは俺のことだろうか?

 心外だが、まあダンジョンに潜らせてもらえるなら見過ごそう。



 立川さんの案内で、ギルド貸し出しの装備を見せてもらう。

 奥に『多目的室』なるものがあり、ここでは今のように装備の試着や、ダンジョン産アイテムの確認・取引などが行われるらしい。



「当たり前だけど、二人は一次職よね? なら装備はある程度なんでも良いかしら」



 冒険者は、資格を貰うときに特殊な装置で『職能(クラス)』を獲得する。

 戦士、騎士、魔術師、治癒師、斥候から自由に選ぶことができるが、一度選んだら変えられない運命の選択だ。


 そこから派生して、二次職、三次職と成長していくのだが、どんな職能クラスになるかは全くわからない。

 ある程度傾向はあるとの話だったが、数値化された基準みたいなものは無いようだ。



「俺は戦士だから剣だ。トモハルは騎士ってことは、盾と何かか?」


「んー、盾は絶対持つとして、俺は槍かな。主体は守りにしたいから、攻撃は隙を見てちまちまやる感じで」



 大したものはないが、最低限の役割は果たせそうな『木の盾』と『ボロい槍』を借りる。

 講習訓練で少し触ったけど、実際にこれを持ってダンジョンに潜るとなると、テンション上がるな。



「くひひ、これから俺の英雄伝説がはじまるぜ」



 それはコハクも同じようだ。

 身の丈ほどの大きな剣もあるにはあったが、コハクは取り回しの良い片手剣を選んでいた。



「グラディウスって言うんだぜ。普通の片手剣より、ちょい短めなんだ。俺はスピード重視で行こうかなって。速さこそスピードだ! みたいな」


「速さとスピードって一緒じゃないの?」


「んなこた分かってるよ。つれねーなー」



 何が釣れないのかわからないが、これで準備は整った。


 ギルド千代田支部で選んだ武器がそのままここで借りられる訳ではない。

今回行く市ヶ谷ダンジョンにある『立寄所(たちよりじょ)』にある類似の武器を貸してもらう形だ。


冒険者といえど、武器を持ち歩くことは法律で禁止されている。

なので、個人所有であっても武器は基本的に立寄所たちよりじょに預けておき、潜るたびに受け取るのだ。




今回は初回ということもあり、忙しい中、立川さんに引率してもらって、市ヶ谷ダンジョン立寄所に来た。

立寄所はそこそこ大きく、武器の預所の他にも、シャワールームやフリースペース、あと有料だが個人ロッカーも使えるみたいだった。




「じゃあどうぞ。一時間以内に帰ってきてよ。帰ってこなかったら捜索隊が出て、罰金だから」


「はい」


「うす!」





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