14.始まってもいない恋
魔法と言っても、一般的に『属性』と呼ばれる四大元素魔法のみコピー可能らしく。固有魔法はさすがに無理なのだそうで。
ちなみに、四大の内訳は水、火、空気(風)、地(土)で、会議室には土以外の属性を持つ人が揃っていたのだという。そこで無意識にコピーを開始した私は、身体に負担がかかり過ぎた挙句、鼻血を出して倒れたのだろうと。
そこまで聞いて、ニーニのお腹がグウウと豪快に鳴ったことにより、話は一旦終了となった。
早くご飯を作らないと。
クロさんとニーニに手伝って貰うつもりだったのに、師匠から大事な話があるとかで、その代わりノノくんがアシスタントに入ってくれることに。
おうふ、ラブラブクッキングだわ。
「じゃあ、そのお肉をどんどん揚げてくれる?」
「えっ、ああ」
「あっ、高い位置から入れちゃダメ!油が飛ぶよ」
「わ、分かってるって」
傍若無人なノノくんが、油ごときにビビってる。
んまあ、なんて可愛いのかしら!
──早速、別宅という名の私専用住居で調理しているのだが。いやあ、何が驚いたって、正にマンションなんですけど。そう、一戸建てではなく、集合住宅なのだ。
「このマンション、私の他に誰が住むの?」
「うおっ、あちッ、ああん?俺だけど」
「ノノくんが?」
「そりゃそうだろ。こっちの世界に連れて来た責任が有るからな。過去の例を鑑みて、最低限の暮らしを保障し、安全に暮らせるようにと暫くの間は俺が細部に渡ってフォローするつもりだ」
好き!
まるでどこかの労基職員みたいなことを言ってるけど、でも好き!
「こ、ここってお風呂もついてるんだったよね」
「あー、もう、なんでこんなに油が飛ぶんだよッ。くそ、シールド!…って、ああ、村の仮住まいみたく、盥に湯を溜めて洗う感じのな。あ、でも、モモさんは水魔法が使えるようになったから、自前のシャワーが出せるはず。後で練習してみような」
えへへ、と笑いながら私は包丁をトトトッと素早く動かす。唐揚げとポテトフライは、絶対に若い男子のハートをキャッチするはずだ。どれもこれも味付けは塩オンリーだけど、素材の味が活きるからソレはソレで美味しいに違いない。
フライ用の芋を大量に切り終えた私は、意を決してノノくんに質問する。
「あのさ、ノノくんの魔法って、なに属性?」
「なんだよ、いきなり」
「いや、参考として聞いておきたいなあと思って」
「属性は、無い」
「は?」
「ウチは7代前に落ち人がいる家系で、特殊なんだ。だから属性という概念が無い」
へ?じゃ、じゃあ、じゃあ…。
「えと、ノノくんは攻撃魔法を持たないの?」
「ああ、どちらかと言えば防御に特化しているな。固有魔法も『空間』で、戦闘時には役立たずだ」
頭の中が真っ白になって。
それからすぐに混乱した。
ということは、男性側には攻撃魔法がゼロで、女性側だけ火だの水だの風だのをどっさり持っていると。この場合、戦闘能力の高い子供が生まれる確率は半分だよね?だったら…って、ううん、きっと無理だ。わざわざ異世界から召喚しておいて、そんな賭けみたいなことをするはずがない。
ノノくんの立ち位置から考えても、私とどうこうなろうなんて思わないだろうし。あー、そっかあ。やっと両想いの人が見つかったのに、こんなに呆気なく終わってしまうのか。
「ノノくん、あのね」
「なに?」
声は刺々しいのに、その目は柔らかく笑っている。それはまるで私のことが好きだと囁いているかの如く、とても優しい。
「へへっ、何でも無い」
「なんだよ、気持ち悪いヤツだな」
まだ始まってもいないうちに、
終わってしまった恋。
──私は自由で、だけどとても不自由なようだ。