スペースオナニー(手淫は三千光年の彼方へ)
「やめろおおおおお!!!!」僕は咄嗟に叫ぶ事にした。宇宙人を前にし、手術台のようなものに手足を固定された状態で、叫ぶ以外に何か出来る事があるだろか?
宇宙人が数名、僕を見下ろしていた。眉間にシワを寄せ(宇宙人にも表情はあるのか!)何やら難しげに議論している。
宇宙人のタイプは、いわゆる「グレイ」。典型的宇宙人タイプで、目がでかく、頭が大きく、体、四肢は小さめ。体毛は無く、体表面の隆起がほとんど無いタイプだ。とゆーか、実在したのか宇宙人って。
更にヤツらは、ロボットアーム的なもの(細い鉄の棒をいくつかの節で連結したようなもの)を周辺に配置し、先端にペンライトを更に凶暴にしたような装置(いや、間違いくレーザー発射装置じゃねぇか!)と取り付け始めていた!殺られる!絶対に殺られる!!!!
「これを見て欲しい」
宇宙人の一人が僕に声を掛ける。意外な事にその声は日本が誇る名俳優高倉健に似ていた。
渋くそして憂いと優しさを秘めたその声は、我々がイメージする宇宙人=ボイスチェンジャーを施したようなカン高い声とは全く違うものであった。その瞬間、一瞬ではあるが僕の一抹の安心感を与えたのだが、目の前にいるのは、ジョークのようなグレー型宇宙人だった為、その渋い声を聞いてもドッチラケるだけだった。なんだこのコントのような状況は????
ピカッと僕の眼前=空中に映像が投影された。
「この行為の目的を詳細に説明してくれないか?」
そこにはおなにーに興じる僕の姿が映し出されていた。最悪だ!なんでこんなものを映す!!!!!
「我々の科学力を持ってしても、この行為の生命活動的意図が理解出来ないのだ…」
と、グレイ型宇宙人は続けた。我ら科学力の敗北とでも言わんばかりな残念そうな表情。つか、僕からしてみたらオマエラの方が理解不能だよ!!!! なんでよりによってオレのおなにー行為を映像に映し出し、それを全員で眉間にしわを寄せて観察をする!!!
そもそもおなにー行為を科学的側面から分析しよーとしている彼らの方が謎だ。こんなん軽くスルーしてくれ。何がしたい!何がやりたい!!!!
というか、いつの間にこんな撮影したんだ!!! 隠しカメラか??? 確かに最近、部屋の中で駆除しても駆除しても、虫のよーなものが、必ず一匹常に飛んでいたのだが、アレだったのか??あれが宇宙人の有する小型空中浮遊型ロボットカメラだったのか?????
宇宙人は更に続ける。
「例えば一般的な性行為であれば、説明が付く。それは子孫を繁殖させる為であったり、もしくは、相手方、つまり女性に対し、性的興奮を与える事により、その女性の男性に対する愛情のようなものを深めさせ、最終的に女性からの男性に対しての "執着" を更に高めたいという欲求に基づくものだと思う。つまり何らかの二次的要素を獲得する為の行為であると説明する事が出来る。しかし君のこの行為、つまり自分の生殖器を自分で刺激し、精液を放出するという行為は、まるで科学的説明が出来ない。何ら生産性を生み出してはいないのだよ。」
宇宙人はセツセツと説明をする。
高倉健(に似ている声の宇宙人)はもう一人の宇宙人に、「放出された精液のその後は?」と質問をした。
「はい、ティッシュの中に放出され、そのまま廃棄物として処理されているようです。」
ともう一人の宇宙人は答える。こちらの宇宙人は「世界の車窓から」に出てくるナレーターの人のような声をしていた。こちらも声がいい。
「廃棄物として処理!!!!」
高倉健(似の宇宙人)はその部分に強く反応を示した。
「君は自分の分身を廃棄物として処理をするのか!!!!精液は自分の遺伝情報が含まれたいわば分身じゃないか!!!! それをそのまま廃棄物として処理するなんて、人としての良心が痛む事はないのか!!!!」
宇宙人から人としての生き様を説教されるとは思わなかった。
僕は悔しかったので、「いや、たいていの人はやってますよ。一度もおなにーした事のない男子なんて、たぶんいません。ロバートデニーロも、ブラッドピットもおなにー覚えて大人になってったハズです。」
と僕は答えた。
「何という事だ…」宇宙人は絶望的な顔をした。高倉健も、世界の車窓からのナレーターの人も。
「地球人はそこまで生命を軽んじる生命体なのか…。。信じられない…。。」
僕はおなにーに対して、そこまで言われる事にいささかのイキドオリを感じたので、少しだけ反論を加える事にした。「いや、ほっといても、精液なんて毎日作られてますから。出さなきゃイラつくんですよ、実際。それにオレ、せっくすするにも相手いませんし。」と続けた。
宇宙人は言う。「それは地球人だけの理屈だ…」と。
彼が言うには、こんな事するのは地球人だけだという。全宇宙中のほとんどの生命体は、自分の遺伝子が含まれる体液(=精液)は、そうやすやすと放出しないそうである。放出するのは必要な時のみ。おなにーに該当する行為は全宇宙中を見渡しても、地球にだけ存在する奇異な行為だそうだ。宇宙中の生命体のほとんどは、繁殖行為以外では精液を放出する事はしない。
「これは殲滅させる必要がありますね」と、世界の車窓の方が提言した。
待ってくれ!なんでここで急展開!!!! 地球の命運がオレの言葉に委ねられてたって事かい????
待ってくれ!おなにーしただけで、全人類滅亡かよ!!!! これまで幾度とない苦難を乗り越え、その存続に全力を傾けていた人類が、ぼくのこのおなにー正当化発言だけで、滅亡してしまうのかよ!!!!
「いや!気持ちいいんですよ!それなりに気持ちいいんですよ!!!! やった事ない貴方には分からないかもしれませんが、おなにーはおなにーで、実物とは違う"味"のよーなものがあり、それはそれなりに趣のある悪くない行為なんですよ!」と僕はフォローのつもりで続けたが、やべぇ、全然フォローになってねぇ!!!!
宇宙人の目つきは更に険しくなり、僕の事を鬼畜、もしくは極悪非道な奇人変人でも見るよーなさげずむような目線で僕を見下し始めた!!!!
「これは何だ?」
モニターには別映像が映し出され、高倉健は更に僕に聞いてきた。そこには僕が通常おなにーの際に見ているエロ画像(ネットで拾えるフリーのエロ画像)が映し出されていた。
「それはズリネタですね」
と僕は答えた。
「ズリネタ????????」
宇宙人は更に険しい表情をより一層深め、驚嘆を含めた声で僕に聞き返してきた。
「想像だけでは何か足りないので、えっちな画像とかを見ながらスルのが一般的なんですよ。たいていの人は見ながらしてると思いますよ」
と僕が続けたところ「君達人類は他人の性行為を見ながら自らの射精を行うのか!!!! それで人として恥ずかしくないのか!!!!」と半ば狂乱気味に僕に問いかけてきた。
余計なお世話だ!!!!
オレだって好き好んでこんな事してんじゃねぇよ!!!かわいい子とか彼女でいれば、たぶんこんな事はしねぇよ!(←たまにしか)
「これはやはり滅ぼすしかないですね。」
宇宙人は続けた。何でそうなる!!!!!!!!!!!
もしかして今、人類の命運がオレの肩にかかっている??? 地球人類全体の今後、そして幸福な日々の命運は、今ここのおなにー発言に掛っている????? 何か言わなきゃ!!!!! 何か一撃で宇宙人を納得出来るおなにー正当化発言をしなきゃ、人類は火の海に包まれる!!!!
パルテノン神殿も、ピラミッドも、自由の女神も横浜ランドマークタワーも、人類そして人類が築き上げてきた全ての文化遺産が一瞬にして灰にされてしまう!何か!何か言わなきゃ!!!!!
「あんたらもすれば分かるよ」
なんでオレこんな事言う!!!!!!!!!!!!!!
全くフォローになってないじゃないか!!!!!
より一層険しい表情を見せる宇宙人。
ウジ虫でも見るような目線で僕を見下した。
「やっぱり滅ぼすしかないな…」
高倉健はそうつぶやいた。
終わりだ。もう人類は終わりだ…。せっかくノストラダムスをくぐりぬけたのに、なんてこった…。。終わりだ…。人類は終わりだ…。僕が滅ぼしてしまうんだ…。僕が人類を滅ぼす引き金を引いてしまったんだ…。僕がもっとおなにーに対して、的確な説明が出来れば…。僕がもっと宇宙人を一撃で納得させられる完全な説明を行う事が出来れば…。人類は破滅から救われたハズ。。
宇宙人はいったん、自分達の母星に返り、最高責任者の判断を仰いでから、また来ると言う。その時は総攻撃をしかける時だという。
次回やってくる時は、地球が滅亡する時だ。僕は取り返しの付かない事をしてしまった。
最後、レーザーメスのようなものが降りてきた。そして僕のジーンズを少しだけ下ろし、腰に光のようなものを当てた。そして世界の車窓からの方の宇宙人から、「あ、メルアドの交換しといたから」とひとこと告げられた。
ただ、「連絡が来る時は地球の全面攻撃が行われる時ですよね?」と聞いてみた。世界の車窓の方は答えた。
「そういう事になるね。」
なんだかこの人の声を聞いてると、世界の車窓からのオープニングテーマが聞こえてきそうだ。外見はグレー型宇宙人だが。
そして僕は家の前に下ろされた。
巨大な宇宙船が来訪したにも関わらず、近所は平静としていた。きっと一般人には見えないような工夫がされていたのだろう。宇宙船を有する技術を持つ生命体であれば、そのくらい容易いハズ。
地球に戻り、僕は腰の当たりを確認してみた。
そこには「手淫」と入れ墨がされていた。
…意味が分からない…。
その後の僕の数週間は僕に取っては地獄だった。人類の命運をかけた最後の一日が眼前と迫っている。この事を世界に告げるか?そんな事しても、僕は奇人変人扱いされるだけだ!!!! それにおなにーが理由だなんて事を世界中に告げるなんて、まっぴらゴメンだ!!!! もし仮に宇宙人の来訪が無かった時には、僕は絶対「Mr.オナニー」として全世界にその名前を轟かせる事になってしまう!!!!
この期に及んで己の保身に走ってしまう自分が、いかにもおなにー的で嫌なのだが、とくかくどうする事も出来ない!!!! 仮に地球人が一丸となって戦いを挑んだとしても、月に行く程度の科学力しか保有してない人類は、きっと何をやっても無駄なハズなのだ!!!!
ピロリロリン、
僕の携帯が鳴った。あの日からひとつきが経過していた。画面を見てみると「宇宙人(世界の車窓似の方)」と出ていた。僕はなんとなく、世界の車窓からのテーマ曲が頭に流れ始めた。
本文を読むとこのように書いてあった。
「僕らが絶滅してしますたv( ̄∇ ̄)v」
…え?
…なんで。。???何でそうなるの????
詳しい内容が更に記載されていた。母星に戻った宇宙人達は、一部始終を母星の最高責任者に報告。そこで彼らはおなにーという行為を初めて知る事になり、逆に全員がおなにーの魅力に取り憑かれてしまったという。
その星の男性はおなにーと止める事が出来ず、昼夜終わりなくおなにーを慣行。
全ての男性は働を放棄し、経済活動は完全にストップ。そして体内のエネルギーが完全に無くなるまで彼らは射精する事を止めず、次々と死滅していったという。昔、おなにーを教えた猿が死ぬまでその行為を続けたという事を聞いた事があるのだが、それと同じ理屈か…。
男性の全てが死滅してしまった為、食料の調達等を全て男性に委ねていたその星の女性達は、男性の死滅と共にほぼ全員が餓死。それはもう壮絶なラストだったという。
科学力は高いが、そのヘンは猿以下だったのかもしれない。
「僕もその行為に取り憑かれてしまった者のひとりです。あっ、ああ…」
と、文章はシメられていた。。きっと世界の車窓の彼も、このままおなにー中毒でじきに死んでしまうのであろう。
「スポーツとかで発散させるのはどうかな?」
と僕は保険体育の教師の言いそうな "おなにー代替え案" をメールで提案してみたが、その後の返信は無かった。彼も抜き過ぎで死んでしまったのだろう。
おなにーが地球を救ったのだ。僕が地球を救ったのだ。
おなにー好きで良かった。手淫マニアで良かった。
というか、何だこの小説??w