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26話

「悪魔か……確かに、状況的にも、お前の体質から考えてもその線は充分考えられるな」


 悪魔。太古の時代、一度この世を滅ぼそうした邪神によって産み出された最悪の生物。


 奴らは、人の欲に取り憑き、一体だけでも世界を破壊できる、又は常識を覆せるほどの力を持つと言われており、絶対に殺せない不死の存在。


 一応、昔でも悪魔を倒せる人材はいたのだが、倒した所で、悪魔は冥界と呼ばれる邪神が眠っている元に帰るだけで、アイツらを倒すのは封印という手段しかない。


 しかし、その太古の時代、神大戦争(ラグナロク)と呼ばれている、神が率いる人類と、邪神が率いる悪魔との世界を股にかけた巨大な戦争が起こった時に、神がこの世界と冥界との間に結界を張ったらしく、普通の手段ならば、悪魔はこの世界に来れなくなり、神は勝利を収めた。


 しかし、そんな時代でも人類なのに、悪魔側に着く奴もいたようで、そいつらは悪魔側が負けると悟った時に、悪魔から悪魔を召喚できると言われている術式を教えてもらった魔法陣が、未だに闇の部分で取り引きされているらしい。


 当然、また世界を股にかけた戦争なんてしたくないので、神は当時の王に悪魔を召喚するのを強く禁止する命令を出し、それは今でも世界共通の認識である。


「………父さんは見た?」


「あぁ、俺も一度だけ仕事で見たことあるが……写真だけでも伝わる邪悪な気配と、この世のものでもない力の波動……きっと、高確率で悪魔が関わっているだろうな」


 悪魔は、この世界で暴れることを条件に、召喚者の願い事を叶えることを約束している。


 そして、俺の神童は、神がこの世に教えてくれた魔法ならば効かないが、《《悪魔特有の魔法》》に関しては、全くもって効果はない。だから、悪魔が魔法を使ったとしても、魔法が効かないということはない。


「………ほんと、面倒なことになってきたな……」


「あぁ……まぁ、お前ならば問題は無いだろう」


「まぁ、問題は無いだろうけど……」


 目的も分からん、敵の規模も分からん。情報なんてウルゴスとか言うやつが、俺たちを狙っていると言うだけ。悪魔については俺ならば問題なく対処はできるだろうが、倒すまでに至るプロセスが全くもって見えない。


「……まぁいいだろう。お前はディルクロッド様に帰ってきましたという報告をしてこい。あのお方も、お前の帰りを待ち望んでいた」


「とても嫌な予感がするのは気のせいでしょうか父上」


「諦めろ」


 ガクリ、と首を落とす。俺、メルジーナ様苦手なんだけど………。


 執務室から出て、肩を落としながら歩いていると、向こう側から姉さんたちが歩いてくるのが見えた。


「あ、ティルファ!」


「姉さーーーンブ」


 俺を見た瞬間、消えるようにして俺の目の前に移動したと思ったら思いっきり抱きついてくる。またもや俺の顔が何か柔らかいものに占領された。


 またもや窒息しそうになったところを、ルーナとアリスに慌てて助けられたあと、息を整える。


「これからティルファはどうするの?お母さんに結婚しますの挨拶?」


「いや、これからメルジーナ様のところに行かないと行けないから……正直、行きたくないけど」


 俺がそう言うと、姉さんの顔がピッキーンと固まって、アリスとルーナの手を掴んだ。


「アリスちゃん、ルーナちゃん、まだまだお話してよっか」


「え?で、でもフィアン姉、わたし達ティルファと一緒に行きーーーー」


「ダメよ!!!絶対にダメだからね!!!」


 俺が話している間に、仲良くなったのか、ルーナも同じく姉さんのことをフィアン姉と呼んでいた。


「フィアン姉様、私達もティルファさんのお供にーーー」


「絶っっっったいにダメ!!!!可愛い妹たちをキズモノにする訳にはいかないわ!!!本当はティルファも行かせたくないけど…………」


 うん、正直俺も行きたくない。拒否できるものなら拒否したい。


 しかし、今やメルジーナ様はディルクロッドの女王…………おいちょっとまて。あの人が女王?


 そう思った瞬間、めちゃくちゃ冷や汗がダラダラと流れ出る。いや、政治的手腕とかは全くもって問題は無い。メルジーナ様は夫を亡くしてからも、見事と言われる程の手腕でこの街を豊かにしているのは確かだ。


 確か………なんだけど……。


 …………いや、まさかだよなうん。いくらメルジーナ様でも、流石にそんなことをする程に煩悩に染まってはいないだろ。


「と、とりあえず行ってくる……」


「うん、一時間して帰ってこなかったら強制転移させるね」


「………マジでよろしくお願いします」


「気をつけてね……行くよ!アリスちゃん!ルーナちゃん!」


 と、メルジーナ様のことをめちゃくちゃ苦手ーーーというか、あの人のことがトラウマ化している姉さんは二人の手を掴んだまま、また部屋に戻る。きっと、楽しい話をして、あの人のことをいち早く忘れたいのだろう。


「………さて、逝ってくるか」


 何故だろう。何故いずれ戦う悪魔のことより、メルジーナ様の方が怖い存在と思えるのだろうか。

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