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ジョブチェンジ!!  作者: 猫又 ロイ
第1章 ヴィーダの森
9/11

面白い小説を見つけ、読み、読み終わり、読み返しまくって最近の一日が終わります。

良作は何度読んだって楽しいものですよね……

 〈気配探知〉でしかマップが表示されないヴィーダの森。

 その中でも、エリア4は〈気配探知〉でも表示されない空間だ。

 ライラの視界には、当然として森の奥への景色が広がっている。しかし脳内マップには、何も表示されていない。

 これが『精霊の星エレメトル』プレイヤーを悩ませた、ヴィーダの森の特性だ。

 エリア4という限定された区域とはいえ、その広さはかなりのものだ。マップを持たないまま、探索できるような距離ではない。

 だが、エリア4の中央に守護樹があるのは確か。そして公式が出した情報の中に、巨大な守護樹のイラストもあった。ならば、真っすぐに進めば辿り着くのではないか? そうでなくとも近付けば見えてくるのではないか? そう考えたプレイヤーが少なからずいた。

 その結果は、見事に失敗だった。真っすぐに歩いているはずなのに、気付けばエリア3に戻ってしまっているのだ。それらしき姿も見えないまま。

 根気強く繰り返していたプレイヤーも、さすがに無理だと悟った。恐らく、何かしら必要となるアクションがあるのだろうと。

 そして、そのアクションとなるのが、グリファトという男だ。


「――さて、と」


 ライラは視界に広がる木々、その更に奥を眺めるように目を細めた。

 森はまだ続いているように見える。が、実はそれも幻覚によるものだろう。

 守護樹に辿り着けない答え。それは、()()()()()()()()()()()()()、というものだった。

 マップに表示されない、謎の空間。あたかもエリア4がそこにあるかのように思わせ、その実、まだエリア3だったのだ。

 いや、魔物は現れなくなるので、プレイヤーからは「エリア3.5」と呼ばれていた。

 それを知った時の、プレイヤーの脱力といったらなかった。

 紗矢もその事実を知った時、思わず机に突っ伏した。彼女もノーマップで探索した者の一人だ。

 では、守護樹はどこにあるのか。エリア4とは、そもそも存在しないのか。

 その答えが――


「――私はあなたの名を知る者。あなたの姿を見る者。あなたの声を聞く者」


 どこか遠くを見つめるように、そっと呟くライラ。

 すると、唐突に彼女の目の前に現れる、全くの別の景色。

 一帯を囲んでいた樹海は消え去り、ただただ、地平線まで広がる青々とした草原。

 穏やかな風が吹き、空は雲一つない蒼。

 そして、視界を遮るもののない草原に、一本だけ(そび)える巨大な樹木。

 とてもとても大きな樹は天に届かんばかりに枝を伸ばし、大地を抱かんばかりに太い根を張っている。

 しかし、その樹には一つの葉もついていなかった。

 爽やかな草原風景に似合わない、まるで冬木のような寂しい樹の姿。

 その根本に、父グリファトはいた。


「父さん」

「……ライラ?」


 樹に寄り掛かるようにして、頭を垂らし座り込んでいたグリファトに駆け寄る。

 特に怪我をしている様子はない。少なくとも、見た目からは大丈夫そうだ。

 しかし、グリファトの顔はこれまで見たことがないほど、憔悴(しょうすい)したもので。

 手入れも出来ていないのか、無精髭は伸び髪は乱れ、目元はクマが酷い。

 駆け寄り側へ膝をついたライラを、どこかボンヤリとした目で見ていたグリファトだが、徐々に視点が定まってきた。


「どうして……いや、どうやって、ここへ……?」


 掠れ、力のない声で問いかけるグリファトに、ライラは背負っていた鞄から水筒を取り出す。

 それをグリファトの手に握らせると、立ち上がった。


「迎えに来たに決まってるでしょ。もう何日、家を空けていると思っているの?」


 どうやって、という質問には答えず、どうして来たのかだけを答える。

 まだどこか呆けているのか、水筒に口をつけようとしないグリファトに、早く飲めと促した。


「全く、泊まり込みなら事前に言ってよ。私、ご飯作って待ってたのに」

「……それは、すまなかったな」


 腰に手を当てて怒るライラに、ようやく水筒の中身を飲んだグリファトが、多少はましになった声で謝る。

 困惑した表情で、グリファトはここにいるはずのない、来れるはずのない娘の姿に首を傾げた。


「まさか、俺は死んだのか?」

「寝言は寝てから言ってくれる?」

「ライラは段々、ノートラに……母さんに似てくるなぁ……」


 ギッと睨みつけるライラに、苦笑する。


「それはどうも。いいから、早く()を助けて帰るわよ」

「そうは言っても……ん? お前は、知っているのか?」

「知らなきゃ、ここには来れないでしょう。それは父さんが一番よく知っているはず」


 未だ困惑しているらしいグリファトから、ライラは樹木へと視線を上げる。

 葉は一枚もついていないが、その幹から生命力は消えていない。

 それは、紗矢がよく知る『精霊の星エレメトル』の光景だ。


「もうここまで進行してたか……ということは、ストーリーも……」

「ライラ? 何を言っているんだ?」

「気にしないで、こっちの話。それよりも、()は今どうしているの?」


 幹に手をついてペタペタと触ったり、額をつけて目を閉じたりしているライラに、グリファトは目を白黒させながら話す。


「あぁ……今は眠っている。昨日からだ」

「そう。声はかけているの?」

「かけているが……」

「応えないのね。いや、もうそれだけの力がないのか」


 瞳を開き、その内側を見通すかのように睨みつけたライラ。

 そして、グリファトが力なく眺める前で、静かに呟いた。


「私はあなたの名を知る者。あなたの姿を見る者。あなたの声を聞く者。さぁ、目を覚まして…………ウルヴィーダ。森の守護者よ」

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