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ジョブチェンジ!!  作者: 猫又 ロイ
第1章 ヴィーダの森
5/11

 「グリファト」はヴィーダの森を攻略する為には、必ず通るキャラクターだった。

 冒険者としてベテランであるだけでなく、普通の者では入ることも危険な森の中で暮らしている。そしてある()()を持っているのだが、これはいくつかクエストを消化したうえで、グリファトの信頼度を高めないといけない。

 メインクエストの為にはその情報が不可欠であり、グリファトにはそれなりの期間関わることになる。プレイヤーの中では印象に残るNPCとして、よく名前が挙げられていた。

 もちろん、キーキャラクターであるという情報も公式から出されていたわけではなく、攻略組――というか、紗矢が発見した情報だ。

 グリファトが森攻略に必須という情報は特になく、森に住んでいてあやしい、でも信頼度が上がるまではただのNPCなので、他のプレイヤーには早い段階でスルーされていた。

 そこで何故、紗矢が情報を得られたかというと……グリファトのキャラデザが、紗矢の好みドストライクだったからである。

 つまり、好みのキャラクターに貢ぎまくっていた結果、自然と信頼度が上がって情報解禁となった。

 そのせいで、一時グリファトのことを「サヤエンドウの旦那」と呼ばれていたこともあったが、紗矢本人は気にしていない。むしろ喜んでいた。友人は呆れていたが。


 そんな理由もあり、他のプレイヤーよりもグリファトというキャラクターに思い入れのあった紗矢が、何の因果か、そのグリファトの娘ライラとして生を受けた。

 当然、ゲームの中にライラという娘はいなかったし、グリファトは独り身。

 やはり、ゲームと現実は違うということなのだろう。

 グリファトの妻でありライラの母にあたる女性は、ライラを出産した際に亡くなっている。ライラの記憶の中にその女性はいないが、グリファトがよく懐かしそうに話してくれた。

 ライラのラピスラズリの瞳も母譲りであり、とても美しい人で優しい人だったと聞いている。

 グリファトのファンであった紗矢としてだけではなく、娘のライラとしても会ってみたい女性だが、亡くなっているのなら仕方がない。

 名前はノートラ。紗矢の記憶の中にはなかった名前だ。


「いってきまーす」

「気をつけろよ!」

「はーい」


 小屋の窓から顔を出すグリファトに見送られながら、ライラは日課である朝の狩りに出掛けた。

 12歳の頃から始め、余程のことでない限り続けてきた日課は、着実にライラの力となっている。

 経験値なんて目に見えるものがない現実では、実際に身に着けた能力がスキルのレベルアップに繋がる。だから無暗に魔物を倒してもスキルは上がらないし、使い方を間違えれば一生Lv1なんてこともある。

 【狩人】のスキルは4つ。〈弓術〉〈短剣術〉〈気配操作〉〈気配探知〉で、スキルレベルが上がるとできる幅が広がっていくシステムだ。


 たとえば、〈弓術〉のLv1では基本的な弓の扱い。

 Lv2で連射速度上昇とコントロール上昇。

 Lv3で威力上昇。

 Lv4で更にコントロール上昇。

 Lv5で威力上昇と同時射的となる。


 ただ武器の扱いはゲーム的なスキルアップと違い、現実では熟練度と考えた方が良いだろう。レベルが上がったからできるようになるわけではなく、できるようになったからレベルが上がる、という具合だ。

 ゲーム時代のような明確な基準はない。

 それに対して魔法的なスキルである〈気配探知〉。


 Lv1で自分から半径約1キロの気配を探知。

 Lv2で具体的な地図が脳内に浮かぶ。

 Lv3で効果範囲拡大(1キロから3キロほどに)。

 Lv4で指定した気配の探知。

 Lv5では範囲拡大に加え、生き物以外の魔力を有する物なら何でも分かるようになる。


 慣れがレベルアップに繋がるのは確かだが、武器の熟練度とは違い、レベルが上がるといきなり使えるようになるので驚く。

 ライラは現在〈気配探知〉Lv3。1から2に上がった時、突然脳内に詳細な地図が浮かんだ時は心底驚いた。3に上がって範囲が広がった時は、あまりの情報量に思わず立ち眩みもした。

 武器ならば「最近なんか上手くなったかも?」と思って確認したらレベルアップしていた、なんてこともあるが、魔法的スキルに関しては唐突に使えるようになる為、心の準備ができない。

 先日、そのレベルアップによる立ち眩みのせいで、登っていた木の枝から落ち膝に怪我をしたのは、グリファトには秘密だ。

 グリファトはどうにも子煩悩というか、ライラをとても大事にしているので、下手に怪我をしたなどといえば狩りを止められるかもしれない、とライラは危惧している。

 ライラの目標は【狩人】のスキル4つのLv5。

 ()()()()()()、最高レベルと()()()()()到達点だ。


「お。あれはキツネの巣っぽいな」


 気配探知に引っかかった、複数の気配。周囲の痕跡と合わせて、どうやらキツネの巣であると考えた。

 〈気配操作〉で自身の気配を極限まで消し、そっと巣へと近付く。

 気配の数は3。脳内の地図に赤い点が3つ、ちょこちょこと動いている。ライラのレベルではまだ気配の主までは判定できないが、その大きさや強さは何となく赤い点のサイズや明るさで分かる。あとは経験あるのみ。

 木の間を歩き、巣から数メートル離れた根本で息を潜めた。身を屈めて木陰から覗くと、太く大きな樹に穴が開いており、その中を巣にしているようだ。

 獲物を視界に捉え、肩から弓を下す。

 矢をつがえる。

 狙いを定める。

 息を鋭く吐いて止める。

 指を放す。


「ぎゃいっ」


 矢が背に刺さったキツネが悲鳴を上げ倒れると、仲間が気付き慌ててもう1匹を口に咥えて駆け出した。

 それを予測していたライラはすでに次の矢をつがえ終わっており、10歩もその場を離れられないうちに矢が空を切る。

 狙いを外すことなく獲物に矢を当てたライラは、大きく息を吸った。

 巣の中にいた1匹は完全に仕留めている。逃げ出そうとした方の背にも違わず矢が突き立っていた。どちらももう動いていない。

 いや、逃げ出そうとした方の下。倒れた身体の下がモゾモゾと動いていた。それと一緒にか細い鳴き声も聞こえる。

 そちらに近付くと、倒れたキツネの身体に半分押しつぶされるような態勢で、一回り小さなキツネが1匹。

 心配するように自らを咥えていたキツネの鼻先を舐めていたが、近付いたライラに怯えた瞳を向ける。先ほどよりもか細い声を上げて、必死に親であろうキツネを起こそうとした。

 その側に膝をつき、腰に下げた鞘から短剣を引き抜く。


「ごめんね」


 これはゲームではなく、現実である。

 この手で命の刈り取る瞬間、それを一番強く実感する。

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