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ジョブチェンジ!!  作者: 猫又 ロイ
第1章 ヴィーダの森
4/11

ヴィーダの森をヴェーダの森と誤表記していました。

正確にはヴィーダの森です。

 『精霊の星エレメトル』は、発売当時から人気タイトルとして知られていたが、その割に古参のプレイヤーが少ないことでも有名だった。

 それは、ストーリーが中盤になると一気に上がる難易度のせいだ。公式からは大した情報開示もなく、初期プレイヤーは本当に手探りで開拓してきた。

 遠藤紗矢も苦労した1人だが、これほど苦労させられるゲームも体験したことがなかったので、逆にドハマりしていた。

 攻略組のおかげで中盤の難易度も下がり、総プレイヤー数も増え、おかげで人気ランキング上位に入り続ける。それを見て新たに新規が増える。とても活気のあるゲームだった。

 新規プレイヤーの引率も積極的にやっていた紗矢は、彼らの初めての悩みも微笑ましく聞いていたものだ。

 その悩みとは――RPGの最大の楽しみといえる「ジョブ選択」である。


「こんにちは、ハナルさん」

「お、ライラちゃんか。よく来たな」

「これ、ブルースライム。お父さんもいらないっていうから」


 家から持ってきた、昨日捕獲したブルースライム入りの袋をハナルの前の台に置く。まだ生きているので、袋の表面がモゾモゾと動いていた。


「お、ありがてぇ。ブルースライムなんてこの辺りじゃ、俺は見たことないんだがな。一体、いつもどこで見つけてくるんだ?」

「ふふー、秘密っ」

「へいへい。まぁ、ライラちゃんの狩人としての能力が良いってこったな」


 苦笑したハナルはスライム入り袋を持って、奥へと下がった。それを少し離れた場所でライラが待つ。

 教会を後にしたライラが向かったのは、村にある冒険者ギルド。ヴィーダの森が近いため、それなりの規模の建物だ。

 昼のこの時間帯は基本的にまだ仕事中。ギルド内にいる冒険者は少ない。あと3時間ほどすれば依頼を終えた冒険者たちが帰ってきて、この村で一番の賑やかな場になる。


「お待たせっと。ほらよ」


 奥から戻ってきたハナルが、ライラに1つの小袋を差し出した。ライラが持ってきた袋より小さく、片手で握れるほどのサイズだ。

 受け取るとチャリッという音が鳴る。先に持ってきたブルースライムの報酬だろうが、予想より中身が重い気がする。


「ねぇ、ハナルさん。多い気がするんだけど?」

「あぁ、それな。ブルースライムだけじゃなくて、前にグリファトが持ってきてたライトホークの分もある。アイツ、獲物を置いてそのまま帰っちまったんだよ」

「そうなの? 面倒かけてごめんね」


 気にするな、と肩を竦めるハナルが持ち場に戻っていったので、ライラもギルドから出ることにする。

 村に来たついでに軽い買い物も済ませ、家に帰るべくヴィーダの森へ続く門へと向かった。

 そこでは門番をしている兵士が1人、暇そうに欠伸をしている。顔見知りでもあるスユンがライラに気付いて、ニッコリ笑顔を浮かべて右手を上げた。


「やぁ、ライラちゃん。もう帰るの?」

「うん。スユンは暇そうね」

「そりゃあね。ヴィーダの森に用のある村人なんて基本いないし、冒険者が使うのは別の門だし」

「それもそうね。あ、これあげる。じゃあ」

「お、やった。気を付けてね」


 先ほど買っていた物の中から、赤い大ぶりなリンゴを1個取り出す。嬉しそうに受け取ったスユンに見送られ、ライラはヴィーダの森へと立ち入った。

 まだ高い位置にある日に照らされ、木洩れ日の差し込む森の中は、それだけなら危険性はないように感じる。

 しかし、よく目を凝らせば至る所に生き物の痕跡があって、それは戦う術のない人には危険なやつもいる。


「さて、と」


 荷物を背負い直し、ライラは自然な動作で右腕を軽く横に振った。

 すると頭の中に周囲の地図が浮かび上がり、そこに赤い点がポツポツと散らばっている。スキル〈気配探知〉の効果だ。

 ライラの()()()である【狩人】は森での活動に優れた能力を持っていて、気配探知もその1つ。初級ジョブの中で気配探知を持っているのは狩人のみ。

 ただ『精霊の星エレメトル』の通常フィールドでは、敵の位置は誰のマップでも確認できる。ヴィーダの森のような特殊フィールドのみ、気配探知が必要になる。そしてヴィーダの森は中級ジョブ推奨(すいしょう)フィールドだった為、狩人はあまり人気のないジョブだった。

 紗矢の記憶から情報を抜き出しつつ、ライラは足を進める。頭の中に浮かぶ地図を頼りに、できるだけ生き物のいない道を選んだ。

 今も弓矢と短剣は持っているが、無暗に戦いを挑む気はない。今のところ食べるのには困っていないし、無駄な殺生も好きじゃない。

 これがゲームで、ライラが紗矢であった時なら、経験値の為に近場にいる魔物を狩りまくっていただろうが。

 しかし今は現実で、ライラはライラだ。経験値なんて目に見えるものはないし、魔物を倒したら光になって消えるなんてこともない。死体は残るし、残ったものはそのままにはできない。その死体に他の魔物が集まって、繁殖の手助けになってしまうからだ。

 武器だって無限に使えるわけないし、持てる矢には限りがある。怪我をすれば痛い、致命傷を負えばゲームオーバーじゃなくて本当に死ぬ。

 『精霊の星エレメトル』に似た世界なんだとしても、ここは現実の世界なのだ。ゲームみたいに、プレイヤーに都合の良いようにはできていない。

 それでも、役立つ情報も確かにあった。


「この辺に……あ、あったあった」


 木の陰を丹念に探すと、見覚えのある葉っぱが生えている。薬草の一つで、回復薬(ポーション)を作るのに必要な素材だ。名をフレイ草という。

 薬草や魔物の出没ポイントは、ゲームの時とそう変わらない。もちろん魔物は生きて動いているから、多少は違うが。

 昨日捕まえたブルースライムも、少し分かりづらい場所に生息地がある。ヴィーダの森は危険地帯なので、スライムのような弱い魔物は長く生きられないのだ。

 いろいろと制作に使われるスライムは、生きたまま錬成しないといけないので生け捕りになる。そのせいで嵩張(かさば)るし、長距離移動するにしてもただ放置すれば餓死するし、わざわざ取ってきても大して報酬も出ない。

 冒険者素人には良い相手だが、旨味が少ないので人気がない。そのため素材として不足しがち。しかし報酬を上げるとギルドの損失になる。

 世の中はなかなか、上手くいかないものだ。

 ライラにはちょっとした小遣い稼ぎになって調度いいが。

 フレイ草もいわゆる常駐クエストなので、見つけてギルドへ持ち込めば持ち込むだけお金が貰える。ギルドだけではなく、薬屋や教会でも買い取って貰えるので、採っておいて損のない素材だ。


「これくらいで良いかな」


 20本ほど集めたところで打ち切る。まだ生えているが、全て採ると次がなくなってしまうので、キリが良いところで止めておく。

 こういうことはゲームでは知りえなかった、生きた情報だ。それを教えてくれたのは、父であるグリファト。


 ジョブ【剣士】の冒険者であり。

 『精霊の星エレメトル』では、≪精霊の落とし子≫である冒険者(プレイヤー)をサポートするNPCだ。

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