表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジョブチェンジ!!  作者: 猫又 ロイ
第1章 ヴィーダの森
3/11

ヴィーダの森をヴェーダの森と誤表記していました。

正確にはヴィーダの森です。

 ヴィーダの森はアトラシア王国の南東、国土の5%を占める広大な森だ。あまりに広く、その全貌は未だ明かされていない。

 未開拓な場所が多く、人手が入らない為に動物や魔物の数も多い。未発見の種も数年ごとに見つかっている。

 浅瀬ならばともかく、その奥地は並みの冒険者でも危険地帯となりえる。動物や魔物の脅威だけでなく、遭難する者も珍しくない。

 そんなヴィーダの森の、公には未開拓の地となっている場所に、1つの小屋が建っていた。

 周囲には他に建物はなく、少し拓いた場所に木造の小屋が構えられ、煙突からは白い煙が途切れることなく空へと還っていく。


「よい、しょ!」


 その小屋の前に、ライラは背負っていた袋を地面に置いた。

 額に浮かんでいた汗を拭い、髪を括っていた紐を解く。ワイン色の髪は肩下まで伸び、背丈の150を超えただろうか。

 先日、ライラは15歳を迎えた。教会で倒れ、高熱を出して寝込んでから5年が経っている。


「お父さーん、ただいま~」

「おう、ライラ。おかえり」


 小屋の中に声をかけると、ドアを開けてグリファトが顔を出した。

 優しい顔で応えたグリファトはライラの足元の袋を見て、満足気に頷く。


「今日も順調だな」

「うん! なんと、気配探知が3になったのよ!」

「ほぉ、そりゃ凄い! 今夜はご馳走だな」

「そのご馳走を作るのは私なんだけど?」


 苦笑して背中から他の荷物を下す。袋の他に弓と矢筒、短剣だけはそのままにまとめて小屋横の納屋へしまった。

 袋だけ持って小屋へ入ると、調理場へと立つ。


「今日は何が取れたんだ?」

「ウサギ3羽とアオバト2羽、あとマッドラット5体。ブルースライムも取れたけど、いる?」

「大量だな。スライムは、そうだなぁ……今は大丈夫だ」

「そう? なら明日、村に持って行くね」


 先ほどよりも緩めに髪をまとめ、ライラは夕食の準備を始めた。

 絞めたウサギとアオバトを手慣れた動きで捌き、棚から前日に買っておいた野菜を取り出して細かく刻む。

 ウサギ1羽とアオバト1羽、そしてマッドラットは冷えた倉庫へとしまっておいた。

 ウサギの肉は一口大に切りボウルに調味料と一緒に混ぜ合わせ、一旦横に置いておく。アオバトは部位で分けて、底に香りの強い葉を敷いた深鍋に野菜と共に入れる。鍋に少量の水を入れて火にかけ、暫く弱火で蒸し焼きに。


「お父さん、ちょっと鍋見てて」

「ん? おう、任せとけ」


 そう答えながらもその視線は手元の剣に固定されているグリファトに、いつものことだとライラも気にせず調理場から離れた。

 小屋の裏手に回り、干しておいた洗濯物に触れる。どれもしっかりと乾いており、お日様の良い匂いがした。満足げに目を細め、鼻歌を歌いながら洗濯物を取り込む。

 ふと、小屋の周囲を覆う森に目を向けた。視線を感じた気がしたが、特に見えるものはない。気配探知にも引っかかるものは見当たらなかった。

 首を傾げつつも、小屋へと戻った。




 背負っていた鞄から、包みを1つ取り出した。

 それを目の前の神父に渡す。穏やかな笑みで受け取った神父は、その包みから漂う匂いに苦笑した。


「これはこれは……グリファトさんが好みそうな、香りがしますね」

「すみません、あからさまな酒のつまみ……」

「いえ、ライラさんの料理はどれも美味しいですから、有難く頂きます。ただ、油断すると服に匂いが移ってしまって」

「あぁ、大変ですよね。私も匂い消しに苦労してます」


 酒に合う料理を好むグリファトに合わせると、大体味付けも匂いも強いものになってしまう。

 なので洗濯にはいつも余念はないが、小屋内の匂いはなかなか消えないものだ。グリファトか自分が家にいれば換気できるのだが。

 今日はどちらも出掛けているので、早めに帰って換気しよう。

 神父に促され、石像から最前列のベンチに座り、右手を左胸につけた簡易的な祈りを捧げる。

 祈りを終え、暫し目の前の石像を眺めた。精霊教で祀られるのは神ではなく、精霊だ。美しい女性の背中に、6枚の羽根が伸びている。

 世界は精霊によって創られ、精霊によって維持されている。しかし、その存在を忘れられた精霊の力は弱まり、世界は滅びへと向かっている。それが精霊教の教えだ。

 ライラにも、精霊の姿は見えないし存在を感じ取れたこともない。

 だが、その存在の有無を疑ったことはなかった。

 鞄から、一枚の木板を取り出す。表面に右手を添え、そっと呟いた。


「〈ステータス〉」




【ステータス】

名前:ライラ(15)

称号:≪精霊の落とし子≫

ジョブ:狩人/村人

スキル:弓術Lv2・短剣術Lv2・気配操作Lv2

    気配探知Lv3・ジョブチェンジLv1

ギフト:森の精霊王の加護




 5年前、ステータスボードへの初めての登録へ訪れた。そして登録後、高熱を出し3日寝込んだ。

 熱に(うな)されながら、見たのは前世の夢。いや、夢というより記憶だろうか。遠藤紗矢という名前で生き、25歳で亡くなった女性。

 科学というものが発達していた地球という世界で、紗矢はゲームにハマっていた。それはもう、プライベートな時間を全てつぎ込むほど。

 そんな女性が亡くなるまで熱心にプレイしていたゲームの中に、初期登録プレイヤーとして長く続けていたものがある。

 MMORPGで、人気ランキングには発売から数年経っても上位5位に入り続けていた。

 紗矢はそのゲームの、いわゆる攻略組。友人が運営していた攻略サイトに数多(あまた)の最新情報を届けていた。HN(ハンドルネーム)として使っていた「サヤエンドウ」は、プレイヤーの中ではそこそこ有名だったと思う。

 親しい友人もこのゲームで知り合い、週末にはよくパーティで狩りに出ていた。

 おおまかなストーリーは、プレイヤーは「()()()()()()()」と呼ばれる存在で、滅びを迎えようとしている世界を救うため、世界中に隠れる精霊を見つけ出し救っていく。

 何とも、聞き覚えのある話だ。

 そしてトドメが、ゲームタイトルである『精霊の星エレメトル』。

 ただの夢にしてはとても凝っている。そもそも、夢とはいえ自分の脳内だけで科学などというものを、考えつくとは思えない。

 紗矢の記憶の中に、今のライラにピッタリな言葉を見つけた。


「異世界転生……まさか私が体験するとは」


 疲れた顔で、大きな溜息をついた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ